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汗を放置するとかゆくなる?

今年も汗がにじむ季節がやってきました。

汗はアトピーの代表的な悪化因子のひとつですから油断なりません。

ところで、汗をかいたあと、汗を拭き取らないとかゆくなる、という噂があります。

私の場合、汗は、かいた直後にかゆくなります。放置してかゆくなった試しはありません。ですから、汗を放置するとかゆくなるという話を聞くと、本当なのかと疑ってしまうのです。

この話については、昨年の記事「アトピー患者の汗対策」でも触れたのですが、改めて「汗を放置するとかゆくなる説」について考えてみました。

 

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ガイドラインの記述

おそらく、メディアやインターネット上で氾濫する「汗を放置するとかゆくなる説」の出所は、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版だと思われます。

一部引用します。

「かいた後の汗」は痒みを誘起することがある⁹²⁾.発汗の多い季節の症状緩和に(水道水による)シャワー浴が有効なことから⁹³⁾∼⁹⁵⁾(CQ10:推奨度1,エビデンスレベル:B),かいた後の汗はそのまま放置せず,洗い流す等の対策を行う事が推奨される*1

「かいた後の汗」はかゆみを引き起こすのだそうです。どうも信じられないのですが、私に当てはまらないだけで、他のアトピー患者のみなさんは経験されているのでしょうか。

ともかく、「かいた後の汗が痒みを誘起することがある」という記述の根拠たる文献92を確認してみました。

 

92) Chrostowska-Plak D, Salomon J, Reich A, Szepietowski JC: Clinical aspects of itch in adult atopic dermatitis patients, Acta Derm Venereol, 2009; 89: 379―383.

 

一部翻訳して引用します。

Although the problem of sweating has not been well investigated previously, it is worth mentioning that “presence of itch when sweating” belongs to the minor AD criteria proposed by Hanifin & Rajka (1).

汗をかくことの問題はこれまで十分に研究されてこなかったけれども、ハニフィンとライカにより提案されたアトピー性皮膚炎診断基準における "汗をかいたときに痒みが生じる" ことについては言及する価値がある。

そうです。汗はかいたときに痒みが生じます。

続いて、

The mechanism of itch during sweating is unclear, but it seems probable that during water evaporation sweat becomes hypertonic. In subjects with an altered skin barrier, as in AD, changes in ion concentration on the skin surface might directly activate pruriceptive nerve endings, leading to pruritus.

汗をかいているときの痒みのメカニズムは不明である。しかし、水分蒸発中に汗が高張性になることがあり得る。アトピー性皮膚炎のようにスキンバリアが変化している者においては、皮膚表面上のイオン濃度の変化が直接的に掻痒受容性神経終末を活性化し、掻痒をもたらしているのかもしれない。

アトピー性皮膚炎のようにスキンバリアが変化している者では、汗により皮膚表面上のイオン濃度が変化して痒みがもたらされるかもしれないとのことです。

「かいた後の汗が痒みを誘起する」と直接的には書いてありません。

加えて、この引用部分は、結果や結論ではなく、考察(Discussion)における記述です。客観的事実ではないので、seems や might を用い、「かもしれない」という表現にとどめて、あくまで可能性を述べているにすぎません。

可能性をエビデンスにされても困るのですが、いずれにしても、ガイドラインの記述は、この参照文献の推察を演繹したものと思われます。

整理すると、ガイドラインにおける「汗を放置するとかゆくなる説」の内容は、

  1. アトピー性皮膚炎において
  2. 汗の放置により皮膚表面のpHが変化すると
  3. かゆみが生じるかもしれない

ということのようです。

 

汗は皮膚表面のpHを変化させるか

皮膚表面のpHは、本来弱酸性に保たれています。そして、通常の汗のpHも弱酸性といわれています。

けれども、発汗量が増加すると、その汗のpHはアルカリ性に傾くという指摘があります。東京逓信病院の江藤隆史氏による解説です。

発汗量が増すと、分泌管細胞から分泌された重炭酸イオンの再吸収量が減少し、最終汗の重炭酸イオン濃度が上昇し、そのPHはアルカリ性に偏る傾向になります。さらには、皮膚表面に溜まった汗では重炭酸イオンが水素イオンと反応して炭酸ガスを生じ、空気中に拡散してゆくため、皮膚表面のPHはさらに上昇してゆきます。この皮膚表面のPHの上昇は、つまり弱酸性で皮膚表面の細菌の増殖を抑えている機能がなくなって、アルカリ性に傾き、細菌の代表格である黄色ブドウ球菌などの付着菌数を増やし、夏に良く遭遇する伝染性膿痂疹(とびひ)の発症に大きく関与して来るといわれています。*2

現在の皮膚科では、この考え方が主流のようです。

ポイントは、発汗量が増加すると、皮膚表面のpHが上昇するらしいことです。

 

健常人における皮膚表面pHの変化

一方で、次のような研究もあります。 

健常人における多量発汗による皮膚表面pHの変化を測定した研究です。

研究では、健常人102人を年齢毎に5グループに分け、夏季に屋外をジョギングしてもらい、ジョギング前の安静時 (RS)、ジョギング中の発汗開始時 (BS)、玉のような汗が顔に出始めた過剰発汗時 (ES)、発汗1時間後 (AS) の4回にわたり皮膚表面のpHを測定しています。

その結果を一部引用します。

Compared to the RS, pH decreased in both regions at the BS in the majority of groups, and increased in frontal region during ES and in zygomatic region in the AS. There was an increase in pH in both regions
during ES in the majority of groups compared to the BS, but a decrease in the AS compared to during ES. [...]

The study suggests that after a short term(1 h or less) of self adjustment, excessive sweat from moderate exercise will not impair the primary acidic surface pH of the facial skin.

安静時に比して、多くのグループでは発汗開始時は前頭部および頬部のpHは低下し、過剰発汗時の前頭部と発汗1時間後の頬部では上昇した。発汗開始時に比して、多くのグループでは過剰発汗時には前頭部および頬部のpHは上昇したが、過剰発汗時に比して発汗1時間後には低下した。(中略)

この研究は、短時間(1時間以内)の自己調整により、適度な運動による過剰発汗が元の酸性の顔面皮膚表面pHを損なうことはないことを示唆している。*3

つまり、健常人においては、運動中は皮膚pHが上昇するものの、運動後1時間以内に皮膚pHは自己調節されて低下するので、大量の発汗によっても皮膚表面のpHは大きく変化しないことが示唆されています。

 

アトピー性皮膚炎における皮膚表面pHの変化

では、アトピー性皮膚炎ではどうでしょうか。

アトピー性皮膚炎患者の皮膚表面のpHを、踏み台昇降による発汗前後で測定した試験があります。対照として健常人の測定も行っています。

(1)アトピー性皮膚炎患者38名と健常人18名に対して,踏み台昇降による発汗前後で肘窩及び前腕屈側中央の皮膚pHを測定し,さらに皮膚表面のS.aureus数を測定した.患者の皮膚pHは,健常人よりも高く,皮疹の悪化につれて上昇し,S.aureus数の増加とともに上昇していた.また発汗の少ない被験者で高い傾向が見られたが,発汗による有意な変化は認められなかった.

(2)アトピー性皮膚炎患者125名と健常人76名に対して,日常の発汗の程度について問診し,肘窩,前腕屈側中央,頬部の中央,額部の中央の皮膚pHを測定した.健常人に対してはアレルギー疾患の既往の有無についても問診した.皮膚pHは,患者は健常人よりも高く,皮疹の悪化とともに上昇していた.さらに患者及び健常人とも,女性は男性より高く,肘窩,前腕・額部,頬部の順に高く,汗が少ないほど高くなっていた.またアレルギーの既往がある健常人はそれがない健常人より高くなっていた.(後略)*4

踏み台昇降ということで、大量といえるかはわかりませんが、相当の発汗量があったものと思われます。 

結果として、アトピー性皮膚炎患者の皮膚pHは、健常人と比較して上昇していたとのことです。

 

なるほど、やはりアトピー患者は発汗によって皮膚がアルカリ性に傾きやすいのでしょうか。 

しかし、ここで留意すべき点があります。

まず、この試験では、「汗を放置した後のpH変化は測定していない」ことです。もしかしたら、健常人のように、時間の経過とともに皮膚pHは弱酸性に中和され低下したかもしれません。

次に、この試験では、「皮膚pHは汗が少ないほど高くなっていた」のです。裏を返せば、皮膚pHは汗が多いほど低くなっていたと考えられます。

先に引用した、江藤氏による、皮膚pHは汗が多いと高くなるという指摘とは反対の結果です。

 

皮膚表面のpHに影響を与える因子

ここで確認しておきたい事実があります。

それは、アトピー性皮膚炎においては、皮膚表面のpHが高くなっている、すなわちアルカリ性に傾いている場合があることです *5

つまり、大量発汗の有無以前に、皮膚pHはすでにアルカリ性に傾いているかもしれないのです。

さらに、先ほどの踏み台昇降の試験で観察されたような、汗が多いほど皮膚pHが低くなっていたという結果をみると、矛盾する点がちらほら出てきます。 

思うに、皮膚表面のpH変化を汗だけで考えようとすることに無理があるのでしょう。

例えば、皮膚表面のpHに影響を与える因子として以下が指摘されています。

内因性因子

  • 年齢
  • 解剖学的部位
  • 遺伝的素因
  • 人種差
  • 皮脂
  • 皮膚水分
外因性因子
  • 洗浄剤、化粧品、石けん
  • 密封包帯
  • 皮膚刺激物
  • 抗菌外用薬 *6

特に、皮脂と汗からなる皮脂膜は、酸外套という別名が示唆するように、重要な働きをしていると考えられています。

合成界面活性剤や石けんの影響も大きいでしょう。

このように、皮膚表面のpH変化には複雑な要素が絡み合っていることがうかがわれるのです。 

 

"理想的な発汗" とは?

さて、ガイドラインにおける「汗を放置するとかゆくなる説」を、私なりに解釈した内容を再掲します。

  1. アトピー性皮膚炎において
  2. 汗の放置により皮膚表面のpHが変化すると
  3. かゆみが生じるかもしれない

というものです。

あまり自信がありませんが、反論を試みたいと思います。

 

まず、汗の放置により皮膚表面のpHが上昇する以前に、アトピー性皮膚炎ではもとより皮膚表面のpHが上昇している場合があるので、汗の放置によりpHが上昇したのか、アトピー性皮膚炎のためにpHが上昇していたのか、よくわかりません。

次に、汗の量です。大量発汗により皮膚表面のpHがアルカリ性に傾くとされるのがポイントのひとつと思われますが、どの程度の量の汗を放置するとpHに変化を与えるのかが明示されていません。

また、汗の放置により皮膚表面のpHがアルカリ性に傾くとしても、ほとんどの患者は1日1回程度は汗を洗い流すであろうから、細菌が増殖するまで放置するというのは考えにくいです。放置して悪化するまでの時間が明示されていません。

さらに、皮膚表面がアルカリ性になることで細菌等が増殖し、細菌により痒みが誘起されるものと私は勝手に解釈していますが、ガイドラインが考える皮膚pH上昇による痒み誘起のメカニズムが明示されていません。

加えて、汗をすぐに洗い流してしまったら、皮脂膜の形成やダームシジンなどの抗微生物ペプチドに負の影響を与えてしまうかもしれません。皮膚表面pHに影響を与える他の因子を考慮していません。

 

大体こんなところですが、やはり私自身、汗を放置して何の問題も感じたことがないという事実が動かしがたくあります。

また、大量に発汗すると問題があるといわれますが、私の場合、じんわりした少量の汗の方がかゆい場合が多く、滝のような大量の汗でかゆみを感じることはまれです。

 

ここまで書いてきて、直接的な文章が見つかりました。

どうやら、「汗を放置するとかゆくなる説」の提唱者は、大阪大学皮膚科の室田浩之氏のようです。2016年版のガイドライン作成委員でもあります。

室田氏がコメントを寄せた、m3.comの臨床ニュースから引用します。 

「汗をかいた後は汗が長時間残らないようにする」理由

 室田氏によると、以前から汗には抗原失活作用があると報告されている。ダニ抗原(DerP1/DerF1)やキウイ抗原(アクチニジン)がアレルゲンとしてだけでなく、プロテアーゼ活性を持ち、皮膚のバリア機能を障害することが分かっている。汗にはこれらの抗原のプロテアーゼ活性を阻害する作用を持つことが、東京医科歯科大学皮膚科教授の横関博雄氏らの報告で示された(Am J Physiol 1991; 260: R314-320)。つまり、汗をかくことで皮膚表面への抗原の影響を最小限にできると考えられている。ただし、「システインプロテアーゼの阻害作用は時間とともに失われるため、古い汗にはこういった活性が期待できなくなる」(室田氏)とのことだ。

 室田氏は、エビデンスに基づく皮膚表面での汗の在り方として「かいた瞬間に皮膚の表面がひたひたになり、その中で角層に残るべき汗は角層に残り、保湿や生体防御に関わる。そして、染み込まずに表面に残り余った汗は確実に全部蒸発して皮膚を冷却する。最終的に皮膚に余剰な汗が残らないのが“理想的な発汗”」との見解を示した。*7

放置した汗は、プロテアーゼ阻害作用が失われているので、長時間残らないようにするとのことです。プロテアーゼ阻害作用が失われた汗は痒みを誘起するのでしょうか。

いずれにせよ、放置した汗が痒みを誘起するメカニズムについて触れられておらず、よくわからないままです。

注目すべきは、引用箇所の後半の "理想的な発汗" についての見解です。

「最終的に皮膚に余剰な汗が残らないのが "理想的な発汗"」とのこと。

余剰な汗とはどのような汗なのでしょう。ベタベタしていたらダメとか、しっとりしているなら問題ないとか、もう少し詳しく教えていただきたいものです。

 

最後に

ここまで「汗を放置するとかゆくなる説」について検証してきました。色々と細かい指摘、的外れな指摘もあったかもしれません。

しかし、私は、本当に汗に悩まされているのです

アトピー患者は、汗をかくと、放置する間もなく、かゆくなることが知られています。今年の夏も、汗のためにひどく皮膚を掻き壊してしまったという人は少なくないと思います。とりわけ、重症時に汗が引き起こすかゆみは、想像を絶するかゆみです。

にもかかわらず、ガイドライン等を論拠にする人々は、「汗はかいたほうがいい。しかし放置してはいけない」などと、のんきに主張します。

主張するのはかまいませんが、納得のいく根拠を示してほしいのです。私は、汗を放置するとかゆくなるメカニズムを、本当に知りたいのです。

アトピーと汗の関係については、まだまだ研究の余地があります。新たな知見が発見され、今のガイドラインの記述が書き換えられる日が来ることを願っています。

 

(当サイトはいかなる治療法をも推奨するものではありません。また、当サイトに掲載されている情報を利用することにより発生したいかなる損害についても責任を負うものではありません。)

(引用部分の翻訳および赤字による強調表示は当サイトによります。正確な翻訳を期していますが、正確性を保証するものではありません。)

*1:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版

*2:けんこう家族 第97号【3】 - 東京逓信病院

*3:Wang S et al. Effect of Exercise‐induced Sweating on facial sebum, stratum corneum hydration, and skin surface pH in normal population. Skin Research and Technology. 2013.

*4:遠藤薫ら, アトピー性皮膚炎の皮膚清浄度の指標としての皮膚pHの研究. 日本皮膚科学会雑誌 110(1), 19, 2000.

*5:Schmid-Wendtner M.-H., Korting H.C., The pH of the Skin Surface and Its Impact on the Barrier Function. Skin Pharmacol Physiol 2006;19:296–302.

*6:Schmid-Wendtner M.-H., Korting H.C., The pH of the Skin Surface and Its Impact on the Barrier Function. Skin Pharmacol Physiol 2006;19:296–302.

*7:皮膚トラブルに「汗」は敵か、味方か【時流◆汗のエビデンス】|時流|医療情報サイト m3.com