アトピー覚書ブログ

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アトピーに鍼灸は有効か?

代替医療としての鍼灸

アトピー性皮膚炎患者の一部の人たちは、なぜ鍼灸を試してみようと考えるのでしょうか。

皮膚炎患者は、最初はたいてい皮膚科を訪れます。そこで、ステロイド外用薬等による標準治療を受けます。

しかし、標準治療でいつまでも良くならない場合は、標準治療から離脱します。いわゆる脱ステです。

脱ステした患者のうち、一部は、特別な治療を必要としないまでに回復します。

しかし、脱ステしても、一部は、何年経っても良くならない場合があります。つまり、ステロイドを使う治療で良くならず、ステロイドを使わない治療でも良くならない患者がいます。

そのような追い詰められた脱ステ患者は、新しい治療方法を求めます。

マクロビオティック、油除去食、糖質除去食、砂糖除去食、断食、漢方、サプリメント、ホメオパシー、カウンセリングなどの代替医療や民間療法です。

そして鍼灸も、一部のアトピー患者がたどり着く代替療法のひとつであると思われます。何にでも縋りたい心理から、鍼灸を試してみようと考えるのでしょう。

さて、気になるのは、鍼灸はアトピー性皮膚炎に有効かということです。そこでいくつかの文献を調べてみました。

 

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WHOのレポート

鍼灸(Acupuncture)について、まず、WHO(世界保健機関)による次のリポートがあります。

 

World Health Organization, Acupuncture: Review and Analysis of Reports on Controlled Clinical Trial. 2002.

 

このリポートの中に「鍼灸によって治療されうる疾患および障害」という章があり、鍼灸によって治療されうる疾患等のリストが、次の4つの項目に分類され、列挙されています。

  1. 対照試験により鍼灸が有効な治療であると証明されている疾患、症状または状況。
  2. 鍼灸の治療効果が示されているけれどもさらなる証拠が必要とされる疾患、症状または状況。
  3. 治療効果が報告されているのは個別の対照試験のみであるが、通常の治療や他の治療が困難であるために鍼灸を試す価値がある疾患、症状または状況。
  4. 特別な近代医学知識や適切なモニタリング装置をもつ施術者により提供される疾患、症状または状況。

 

このリストのなかに「アトピー性皮膚炎 Atopic dermatitis; Atopic eczema」はありませんでした。ただし、「掻痒 Pruritus」が 2.に分類されていました。

以上のように、WHOは、鍼灸によって治療されうる疾患として、アトピー性皮膚炎を認めていませんが、掻痒(かゆみ)に対しては治療効果があるかもしれないと認識しています。

 

コクランライブラリーのレビュー

次に、コクランライブラリーのなかに、「アトピー性皮膚炎の補完代替医療」と題されたシステマティック・レビューがあります。

 

Jadotte YT, SanterM, Vakirlis E, Schwartz RA, Bauer A, Gundersen DA, Mossman K, Lewith G. Complementary and alternativemedicine treatments for atopic eczema (Protocol). 2014.

このなかで、鍼灸(Acupuncture)については、未だレビューが行われておらず未評価です。鍼灸の項を一部抜粋すると、次のようにあります。

乾癬やじんましん、アトピー性皮膚炎など、さまざまな皮膚疾患に有益である可能性があると考えられている。

このように、コクランのレビューは、鍼灸を補完代替医療の一つとして認識していますが、アトピー性皮膚炎に対する有効性については、その可能性を示唆しているのみです。

 

最近のシステマティック・レビュー

さらに、比較的最近のシステマティック・レビューに、「アトピー性皮膚炎の治療における鍼灸の有効性」というレビューがあります。

 

Tan HY et al. Efficacy of acupuncture in the management of atopic dermatitis: a systematic review. Clinical and Experimental Dermatology (2015) 40, pp711–716.

 

このシステマティック・レビューは、359の研究を対象としながらも、レビューの選択基準を完全に満たす研究をひとつも見つけることができませんでした。

つまり、レビューに適する研究がなかったということであり、鍼灸研究の乏しさを物語っています。

同レビューの結論部分を抜粋翻訳します。

このレビューに含まれるべき適格な研究が存在しないので、アトピー性皮膚炎の治療における鍼灸の効果についてのエビデンスは存在しない。それゆえ、エビデンスに基づく推奨または結論もこのレビューではなされない。除外された研究のいくつかは、鍼灸が、アトピー性皮膚炎の主要な特徴である掻痒を軽減したり、IgEを介したアレルギーを調節したりする役割をもつことを示しているようにみえるが、疾患としてのアトピー性皮膚炎に対する鍼灸の効果を評価したランダム化比較試験は存在しない。このレビューは、この領域における研究が欠如している現状を明らかにするものである。アトピー性皮膚炎の治療に対する鍼灸の使用を推奨するには、厳密にデザインされたランダム化比較試験が必要である。

要するに、鍼灸は、かゆみには効果があるかもしれないけれども、アトピー性皮膚炎に対する効果については科学的根拠があるとはいえない、ということです。

 

アトピー性皮膚炎のかゆみに対する鍼の効果

ここで、具体的な研究事例をみてみます。筑波大学が興味深い研究を行っています。

 

Wakuda T et al. Effects of Acupuncture on Control of Pruritus Associated with Atopic Dermatitis. NTUT Education of Disabilities, 2009 Vol. 7.

 

この研究は、アトピー性皮膚炎患者および非アトピー性皮膚炎患者に対し、腕にアレルゲンまたはヒスタミンを注射してかゆみを誘発し、同時に片腕に鍼を刺して、鍼の刺激によるかゆみの抑制を調べようとしたものです。

結果は、アトピー性皮膚炎患者群および対照群の双方において、鍼挿入1分後では有意に掻痒が軽減しましたが、5, 10, 15分後では有意に搔痒は軽減されませんでした。 

また、 両群を比較したところ、掻痒の変化の平均スコアに有意差はみられませんでした。

我々は、アトピー性皮膚炎をもつ被験者および非アトピーの被験者における、掻痒の抑制に関する鍼の効果を比較した。両群において、鍼は挿入1分後は掻痒を軽減したが、その効果は5分後には無くなった。これは、鍼が、掻痒の抑制において、一時的かつ疾患非特異的な効果をもつことを示唆している。

要するに、鍼のかゆみを抑える効果は、一時的であり、とくにアトピー性皮膚炎に対して有効というわけではなかったということです。 

さらに、鍼を刺さなかった反対側の腕にはほとんど効果がなかったということですから、効果は局所的であると考えられます。 

 

まとめ

鍼灸のアトピー性皮膚炎に対する効果はよくわかっていません。評価するための材料を欠いている状況です。

Tanらが指摘するように、現時点では、「アトピー性皮膚炎の治療における鍼灸の効果についてのエビデンスは存在しない」といえるでしょう。

一方で、アトピー性皮膚炎の特徴のひとつである「掻痒」に対しては、一時的な効果があるといえそうです。

とはいえ、日常生活のなかで、かゆみが生じたときに、いつでもすぐに鍼が打てるわけではありませんから、実用性という点で取り入れにくいと思います。

なお、代替医療のうち、指圧療法もアトピー性皮膚炎の掻痒に対する抑制効果があるとする研究があります*1 。また、経験的に知られている患部を冷やす方法もあります。かゆみ対策であれば、これらの方法を試してもよいかもしれません。

 

以上より、「鍼灸がアトピーに効く」という人がいるならば、眉に唾をつけて聞く必要があるでしょう。

「アトピーに効く」と「アトピーに効くかもしれない」とでは、天地ほどの差があります。「アトピー性皮膚炎」と「アトピー性皮膚炎のかゆみ」も大違いです。

文献から推察されるのは、鍼灸はアトピー性皮膚炎のかゆみに効くかもしれない、ということです。

鍼灸でアトピーが治ったという個人の感想があったとしても、自分が治るかどうかはわかりません。

したがって、鍼灸でアトピーを治すと肩肘を張るよりは、リラクゼーションの一環として取り入れるくらいの気持ちの方が良いのかもしれません。

 

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*1:Lee KC et al. Effectiveness of acupressure on pruritus and lichenification associated with atopic dermatitis: a pilot trial. Acupunct Med 2012;30:8–11.