アトピー覚書ブログ

成人型アトピー 脱ステ・脱保湿患者のブログ

アトピーとメディア

最近のアトピーに関する報道において、毎日新聞に掲載された「アトピーにステロイド必須?」(2017年4月8日付)という記事が注目を浴びました。

この記事では、ステロイドを使用しない治療を選択肢のひとつとして紹介していました。ですから、ステロイドを使用しない治療を望んでいる患者にとっては、心強い記事であったと思います。

 

ところで、この記事を書いたのは小島正美記者です。私は少しばかり驚きました。毎日新聞の小島正美記者といえば、私の認識では、日本皮膚科学会に近い記者であり、これまで標準治療を好意的に紹介してきた印象が強かったからです。

例えば、過去には「ステロイド外用剤 アトピー性皮膚炎の薬。怖いイメージは誤解。」(2010年6月9日付)という記事を書いています。

アトピー性皮膚炎の治療に使われるステロイド外用剤。いまなお「怖い薬」とのイメージが強い。(中略)

皮膚の炎症が起きたら、早くステロイド剤で消し止め、治まったら保湿剤で皮膚を湿らせ、炎症を起こしにくくする。これが基本だ。

このように、小島記者は、7年前にはステロイド剤の使用が基本であると紹介していたわけです。

 

そればかりではなく、小島記者は、かつて自らがいわゆる "ステロイドバッシング" に加担し、その後反省して「ステロイド拒否信仰から脱却」したことを述懐しています。

 1990年代に「ステロイドは危ない」というバッシングが起きました。私も当時、「ステロイドは危ない」と何度も書いたひとりです。
 当時、テレビのニュースステーションで久米宏キャスターが「ステロイドは危ないですよ」と言ったことが大きく影響したともいわれている、あの問題です。しばらくの間、国民の大部分がステロイドを拒否してしまったのです。だから、当時、ステロイドを塗ればすぐに治る子供たちでも、多くが民間療法や漢方などに走ってしまったのです。
 私の体験でも、自分の子供がアトピーだったので、ステロイドを拒否して、民間療法を受けたのですが、逆にヘルペスをもらって、顔がぐちゃぐちゃになってしまったのです。そういう苦い経験もあります。
 そういう状況に対して、金沢大学の竹原和彦教授(皮膚科)が記者を集めて精力的に勉強会を何度も開いたのです。毎月のように勉強会が開かれ、私もやっとステロイド拒否信仰から脱却することができました。その後、日本皮膚科学会でもステロイドは標準治療なのですと訴え続けたため、ステロイドは使い方次第でよくも悪くもなるということが徐々に知られるようになりました。
 ここ3、4年で状況はがらりと変わってしまった。これは竹原先生や日本皮膚科学会の先生たちの努力の賜物でしょう。*1

かつては、「ステロイドは危ない」と書いていた小島記者。

けれども、竹原和彦医師の勉強会に参加するなどして、「ステロイドは基本」と書くようになりました。

そうかと思えば、先々月の記事では「ステロイド必須?」と疑問を投げかけています。

あるテーマに関して、同じ記者の書く記事の内容が変わったとしても、それ自体は批判されるべきものではないと思います。新しい知見が明らかになれば、その知見を紹介するのが記者の仕事だからです。

読者は、新聞記事の内容が間違っていることもあるだろうし、将来的には新たな発見とともに全く異なる事実が書かれることになるかもしれないことを前提に、メディアを読み解く必要があると思います。

 

さて、ここで私が問題にしたいのは、記者の翻意ではなく、記者と取材対象との距離です。

小島記者は竹原和彦医師の勉強会に何度も足を運んだそうです。実際に竹原和彦医師は、メディア関係者に対して講演活動を重ねて行ってきたようで、竹原氏のブログには次のように記されていました。

昨日、久しぶりにアトピー性皮膚炎の医療の混乱についてメディアの人、約30人に対して講演しました。終了後に、仲のいい記者さん、と言っても二人とも偉くなって今ではデスクですが、と焼肉を食べに行きましたが、メディアの世界も若い人は、アトピービジネスとかステロイドバッシングとか知らないので今日の話は新鮮だったと思いますよと言われてしまいました。*2

私は、竹原氏とデスク職の記者が、焼肉を食べに行ったという記述が引っかかりました。

別に、焼肉くらい食べに行ってもいいではないか、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。仲良くなれば、もっといろんな情報を交換できるし、お互いにとって良いことなのではないかと。

しかし、当然ながら、仲良くなると、批判しにくくなります。竹原氏と焼肉を食べたり、酒を飲んだりした記者は、竹原氏と、竹原氏の所属する日本皮膚科学会に対して、批判することが難しくなるでしょう。

それにとどまらず、借りを作ったり、恩義を感じたりしたならば、記者は自ら進んで "ステロイド治療が基本" などと、取材対象の意に沿う記事を書くようになるかもしれません。

 

ジャーナリストは、取材対象から距離を置かなければなりません。共同通信社の「編集綱領・記者活動の指針」には、次のようにあります。 

職務倫理

取材対象と適切な距離を保つ。取材・報道に関して金品の供与を受けてはならない。公正さを疑われるような社外業務をしたり、接待・招待を受けたりしない。*3

勉強会や講演に足を運ぶことはいいでしょう。 むしろ足繁く通って見聞を広め、多角的な視点から評価して、情報の価値を見定めることが必要でしょう。けれども、その後に焼肉を食べに行く必要はあるのでしょうか。

 

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ここ十数年、記者が日本皮膚科学会の広報的な記事ばかりを書く理由は、焼肉の他にもありそうです。

まず、背景として、アトピー患者のなかでは、ステロイドで症状を維持できている患者が多数派であり、また、標準治療を行う医師が圧倒的多数派です。したがって、少数派である、ステロイドの副作用に苛まれる患者が注目されにくいことが挙げられます。

次に、記者が、メディアがステロイドの副作用を過剰に報道したために多くのステロイド忌避の患者を生み出したとされる "ステロイドバッシング" が、過去に存在したと信じているのかもしれません。記者がそのように信じた場合、ステロイドに対する否定的な記事を書けば民間療法を助長しかねないと考え、自主規制をすることでしょう。

さらに、おそらくこれが最大の理由だと思いますが、記者にとって容易だからでしょう。

科学ジャーナリストは、政府や研究者集団から一歩距離を置いて取材できる自由度を、絶えず確保しておく必要がある。これが、ジャーナリストがジャーナリストたるべき生命線といえることなのだが、現実に、その距離感を実現できている新聞記者の数を考えてみると、残念ながらそう多くはないと推察される。取材対象に寄り添い、一体化し、その広報的な記事を書くほうが、はるかに容易だからである。*4

 

日本皮膚科学会の医師にコンタクトを取り、その医師から患者を紹介してもらい、患者が標準治療によって改善した一例を記事にすることが、締切に間に合わせるためにも、記事の分量としても適量で、まとめるのも楽でしょう。

標準治療にはエビデンスがあるとされ、皮膚科医の大多数が支持していますから、長いものに巻かれていれば安心できることでしょう。それに、下手に主流派以外の医師に取材した記事を書けば、多数派の皮膚科医から糾弾を受けるかもしれません。

 

アトピー患者は、元より重々承知していることと思いますが、アトピーに関するメディア情報の多くが、日本皮膚科学会の医師らの主張を吹き込まれた記者によって書かれている可能性を常に念頭に置かなければなりません。

広報的な記事を書くことは、楽な仕事です。しかし、そこに真実はあるでしょうか。

メディア関係者には、前提として、取材対象から距離を置いた客観的な報道を心がけてほしいものです。

 

*1:報道の実態(内幕)と対応方法(その3)毎日新聞・小島正美記者講演より(2006年1月1日)

*2:がむしゃらProf.竹原のホットメッセージ, 2009.5.29.より

*3:共同通信社「編集綱領・記者活動の指針」より

*4:瀬川至朗, 「科学ジャーナリストはなぜ必要か-「発掘!あるある大事典Ⅱ」事件と科学リテラシー-」(『ジャーナリズムは科学技術とどう向き合うか』小林宏一, 瀬川至朗, 谷川建司 編, 東京電機大学出版局, 2009.04. 所収)