アトピー覚書ブログ

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協議会における "不適切" 治療(後編)

前編の続きです。 

昨年、厚生労働省でアレルギー疾患対策推進協議会が開かれました。アレルギー疾患対策基本指針の策定に向けて、患者やその家族、医療従事者、学識経験者等から意見を募る趣旨です。

厚生労働省はアトピー性皮膚炎をアレルギー疾患として位置付けており、協議会では喘息や花粉症などとともにアトピー性皮膚炎についても意見が交わされました。

 

前編で紹介した第8回について、私はアトピー性皮膚炎患者の立場として、次の議論に注目しました。

アレルギー疾患対策基本指針に盛り込む文言として、

  1. 「更なる標準化医療の普及が望まれる」
  2. 「一部で不適切な医療が行われている」

を入れるかどうか、という議論です。

1.「更なる標準化医療の普及が望まれる」というのは、現状に医療の差があるので、その差を標準化していくべきという趣旨です。

2.「一部で不適切な医療が行われている」というのは、科学的知見に基づく医療が存在するにもかかわらず、一部で不適切な医療が行われていることを説明すべきという趣旨です。

これは、すでに盛り込まれている、

「全ての患者が恩恵を受けているわけではない」

という文言に対する差し替え案です。

 

結論を示すと、第9回の時点では、1.「更なる標準化医療の普及が望まれる」という文言は採用され、2.「一部で不適切な医療が行われている」という文言は採用されませんでした。

したがって、次のような一文となりました。

近年、医療の進歩により、科学的知見に基づく医療を受けることで症状のコントロールがおおむね可能であるが、全ての患者がその恩恵を受けているわけではないという現状も指摘されており、さらなる標準化医療の普及が望まれている

このほか、第9回では、この一文について、さらに「ガイドライン」の文言も入れるべきなどの意見が提出されました。

 

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ガイドラインは万能ではない

さて、この議論のなかで、聞き捨てならない発言がありました。

アレルギー患者の声を届ける会の代表理事で、日本アレルギー友の会の副理事長でもある、武川篤之氏の発言です。

 アトピー性皮膚炎についても、アトピー性皮膚炎のガイドラインに沿った標準治療をしていただければ、ステロイド外用薬に対する誤解や、恐怖感が出ないだろう。そういうガイドライイ〔ママ〕に基づく標準治療がきちんとされていないために、NETの世界でも、やはりアトピービジネスとか、いろいろなものが跋扈していろいろな情報がまかり通ってしまうのです。*1

 

武川氏の発言をまとめると、

  • 標準治療を行えば、ステロイド外用薬に対する恐怖感は起きない。
  • 標準治療をきちんと行わないから、ステロイド外用薬以外の治療がまかり通る。

ということです。

標準治療、すなわち症状に合ったランク・剤型のステロイドをフィンガーティップユニットの量で原則1日2回炎症部位に塗っていれば、ステロイド外用薬に対する恐怖感は起きない、という主張です。

それなら私は「その標準治療をいつまで続ければよいのですか?」と聞きたいです。

ガイドラインには炎症症状が鎮静するまでの標準的な治療期間が示されていません。1週間なのか、2週間なのか、1年なのか。

ただし、ステロイド外用薬の中止方法については、ガイドラインに次のように書いてあります。

5)外用中止
 炎症症状の鎮静後にステロイド外用薬を中止する際には,急激に中止することなく,寛解を維持しながら漸減あるいは間欠投与(プロアクティブ療法(後述)を含む)を行い徐々に中止する.*2

炎症がおさまるまでの治療期間はわからないが、炎症がおさまったあとに、徐々に中止するとのことです。

私もステロイド外用薬を使用した経験がありますが、そんな簡単にはいきません。

私の経験では、「炎症症状の鎮静」までの期間は、治療初期であれば、半日もかかりません。ステロイドを塗ると速やかに湿疹は跡形もなくなります。 

このあと「寛解を維持しながら漸減」とありますが、具体的にどうするのでしょうか? 漸減期の量・回数・期間は? 間欠投与期の量・回数・期間は?

いずれにせよ、漸減あるいは中止後に、通常、症状は再発します。そもそもガイドラインに書いてある通り「疾患そのものを完治させうる治療法はない」のだから、再発は必至といえます。

なお、プロアクティブ療法は、ステロイド外用薬の総使用量を減らすために症状再発までの期間を長引かせるための治療、言い換えれば寛解期間を長く保つための治療であって完治させるための治療法ではありません。

再発は必至であるのに、恐怖感を抱かない人は稀ではないでしょうか。

 

そして、再発は必至であるがために、治療期間は長期に及びます。すると、副作用のリスクが増します。

ステロイド外用薬の医薬品インタビューフォームには、副作用について、次のように書かれていることがあります。

長期連用により、ステロイド皮膚(皮膚萎縮、毛細血管拡張、紫斑)、色素脱失、酒皶様皮膚炎・口囲皮膚炎(ほほ、口囲等に潮紅、丘疹、膿疱、毛細血管拡張)、多毛等があらわれることがある。*3

顔面、頸部の病巣に長期間使用する場合には、慎重に使用すること。*4

協議会では、このような副作用の問題にも目を向けるべきではないでしょうか。

標準治療によっても疾患を完治させることは難しく症状が再発する場合があること。長期連用した場合に重篤な副作用が生じるリスクがあること。リスク情報を患者に適切に伝えることなどが重要な点です。それらを踏まえた議論が必要だと思います。

しかし、残念ながら、科学的知見に基づく医療、すなわちガイドラインに基づく適切な標準治療を行えば何の問題もないかのように、"適切な" 情報を伝えて患者を啓発すべきという主張がまかり通っていました。

 

協議会の検討対象は一部の患者のみ

武川氏は、一部の患者しか見ていないのでしょう。武川氏がこれまで見てきた患者というのは、ステロイド外用薬によって一時的な寛解を得た患者であると思われます。

一例として、武川氏は、アレルギー患者の声を届ける会代表理事として取材を受けた新聞記事で、ステロイド外用薬治療で人生が変わったとする患者を紹介しています。

 「ステロイド外用薬は使いたくない」。重いアトピー性皮膚炎に悩んでいた20代の女性患者は疑心暗鬼に陥っていた。顔は赤く腫れ、目も開かない。かきむしった肌には血がにじみ、苦悩していた。就職内定した会社は辞退し、普通の暮らしがあまりに遠かった。

 ところが家族に連れられて受診した専門医のステロイド外用薬治療で人生が変わる。肌がきれいになり、諦めていた恋愛にも挑戦。今、女性は2人の子に恵まれ「幸せのお裾分けをしたい」と体験談を伝える。

 経験を通じ、患者ならではの助言や提言をするのも患者会の役割だ。例えばステロイド外用薬に「1日数回、適量を塗る」とあるが、適量とは何か。人さし指の先から第一関節まで薬を取り、大人の手のひら2つ分の皮膚に塗るのが目安だが、量が不十分で悪化させる患者も珍しくない。*5

このように、ステロイド外用薬治療がうまくいく患者もいます。

 

しかし、次のように、ステロイド外用薬治療がうまくいかない患者もいます。

 私の所で脱ステロイド・脱保湿を行って1、2カ月経過した患者が「すべての外用を中止すれば1カ月ちょっとでこんなに痒みが減り、皮膚がよくなってしまった。私はこの10年間、一体何のために皮膚科に通い、ステロイドを外用してきたのかとつくづく思う。皮膚科へ行けば『きちんとステロイドを塗ってないのと違うか』『もっと真面目に治療せなあかん』などと怒られっぱなしだった。きちんと塗ってもいたし、言われた通りに保湿もしてきました。医師は私の言うことを信じてくれませんでした。だから、時には民間療法にも高いお金を使っていました」と言う。そして、「腹は立つけど医師に直接文句は言いにくいです」と言って自分を慰めている。忌み嫌われているのはステロイドであろうか、それとも患者の訴えを聞くことができず皮疹の変化を認識できないステロイド一点張りの医師なのであろうか。*6

私も、ステロイド外用薬治療をしていたときのQOLよりも、まったく何の外用も行っていない現在のQOLの方が高いです。

ステロイドで人生が良い方向へ変わる場合もあれば、悪い方向へ変わる場合もあります。このアトピー治療の実態が、なぜ認識されないのでしょうか。

 

ところで、武川氏が副理事長を務める日本アレルギー友の会に対して、横浜市立大皮膚科の相原道子氏は次のようにメッセージを寄せています。 

アトピー性皮膚炎の日常診療について

横浜市立大学大学院医学研究科環境免疫病態皮膚科学教授 相原道子先生

アトピー性皮膚炎は、年齢による皮疹の部位や重症度の変化、様々な悪化要因、喘息の合併の有無、血液中のIgEの上昇する場合と正常の場合というように、同じ病名でも患者さんによってそれぞれ症状や背景が異なります。ですから、治療の基本的な方針、すなわち清潔を保ち乾燥から皮膚を守るスキンケアとステロイド軟膏やタクロリムス軟膏で十分に炎症を抑えるという方針は変わらなくても、生活指導や重症化したときの対処は個々の患者さんによって異なります。例えば発汗機能が不十分で乾燥肌だったある成人の患者さんは、ジョギングで適度に発汗するようになって皮膚の生理機能の回復とストレス解消につながり軽快しましたが、一方明らかに発汗でかゆみが強くなる患者さんもいます。プールも塩素の殺菌効果でかき傷が多かった皮疹が良くなったと思われる患者さんもいれば、塩素による刺激でさらに乾燥が進行することもあります。このように同じ行為が悪化要因にも改善要因にもなる場合があることを認識しながら、無理のないチャレンジをおすすめしています。アトピー性皮膚炎の患者さんの多くは若い人なので、皮膚炎の悪化を恐れて生活全体が消極的にならないよういろいろな面でご家族にも患者さんにもアドバイスしています。*7

相原氏が言うように、患者それぞれで症状や背景が異なるのです。事ほど左様に、アトピー性皮膚炎は治療の標準化が困難な疾患なのです。

 

ここで、相原氏と私で意見が異なるのは、

相原氏は

  • 患者の症状や背景によっても、ステロイド軟膏やタクロリムス軟膏で炎症を抑える方針は変わらない

と考えていますが、

私は、

  • 患者の症状や背景により、ステロイド軟膏やタクロリムス軟膏が悪化要因になる場合がある。

と考えているところです。

何度でも繰り返しますが、ステロイド外用薬治療がうまくいく患者もいるし、うまくいかない患者もいます。なぜ、この事実を認めようとしないのでしょうか。

 

例えば、ステロイド外用剤依存は、極めて重篤な副作用です。私がステロイド外用薬に恐怖を感じる理由のひとつは、標準治療を行っている途中で、このステロイド外用剤依存を経験したからです。


Topical steroid addiction in atopic dermatitis - Video abstract 69201

 

協議会は、こうした副作用は、"不適切" 治療が原因と切り捨てます。しかし、切り捨てるにはあまりにも悲惨な事実であり、なぜ標準治療を行っている患者の一部にこうした副作用が起きるのかを検証すべきです。

そのような見て見ぬふりの態度が、標準治療を推し進める人々への不信を募らせているのではないでしょうか。

協議会の患者代表は、患者のほんの一部の代表にすぎません。そして、ステロイド依存への啓発活動を行うような患者団体は、協議会に呼ばれることはないでしょう。

そのような協議会にどれ程の意味があるのでしょうか。木を見て森を見ずとはこのことです。

 

国は患者に治療法を押し付けるべきではない

そもそも、国や行政が、患者に対して治療法を押し付けるべきではありません。

国が、ある治療法の有効性を評価することは良いでしょう。

国が、エビデンスを集積してガイドラインを整備することは良いでしょう。

しかし、ある治療法を評価したりガイドラインを整備することと、それを国民に押し付けることとは、明確に区別されなければなりません。

国は患者に治療法を強制すべきではありません。どのような治療法を選ぶかは個人の自由だからです。

協議会では、この点、「さらなる標準化医療の普及が望まれている」という文言に留まりました。少し安堵しました。さすがに役人もこの点は理解しているのではないかと思います。

もし、「国民は指定医療機関において標準治療を受けなければならない」という文言が入ったとしたら、それは、民主主義を揺るがす事態です。

私が心配なのは、一部の患者においてある治療法がうまくいったから、他の患者にもその治療法を広めるべきだという考え方をする複数の委員がいたことです。統計学を無視しており、非科学的です。

委員のなかでは、松本委員が常識的な対応をしており、他の委員を諫めたことで、踏みとどまった部分もあったかと思います。

そもそも今回の協議会は、アトピー性皮膚炎に限れば、現状認識が誤っており、前提が成り立っていません。これでは話し合っても殆ど意味はありません。

また、アトピー性皮膚炎がアレルギー疾患であるという世界的なコンセンサスはありません。現時点では、協議会においてアトピー性皮膚炎を協議するのは留保した方が良いと思います。

*1:第9回アレルギー疾患対策推進協議会 議事録(2016年12月2日) |厚生労働省

*2:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版

*3:デルモベート 医薬品インタビューフォーム 第6版

*4:キンダベート 医薬品インタビューフォーム 第4版

*5:アレルギー患者の声を届ける会代表理事 武川篤之氏(2) 患者同士、頼れる存在 2016/5/1付日本経済新聞 朝刊

*6:佐藤健二, <新版>患者に学んだ成人型アトピー治療, つげ書房新社, 2015.

*7:顧問・医師賛助会員から患者へのメッセージ | 認定NPO法人 日本アレルギー友の会