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アトピー覚書ブログ

成人型アトピー 脱ステ・脱保湿患者のブログ

協議会における "不適切" 治療(前編)

昨年、厚生労働省でアレルギー疾患対策推進協議会が開かれました。

アレルギー疾患対策基本指針の策定に向けて、患者やその家族、医療従事者、学識経験者等から意見を募る趣旨です。

厚生労働省はアトピー性皮膚炎をアレルギー疾患として位置付けており、協議会では喘息や花粉症などとともにアトピー性皮膚炎についても意見が交わされました。

皮膚科の専門家としては、京都府立大学皮膚科教授であり、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版の作成委員長を務めた、加藤則人氏が出席しました。

さて、この協議会において、興味深い議論がありました。アトピー性皮膚炎をめぐって問題とされている、いわゆる「不適切治療」についての議論です。

厚生労働省のウェブサイトで議事録が公開されています。今回はこの協議会を振り返りつつ私見を述べたいと思います。

第8回アレルギー疾患対策推進協議会 議事録(2016年10月21日) |厚生労働省

第9回アレルギー疾患対策推進協議会 議事録(2016年12月2日) |厚生労働省

 

 

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「不適切治療」についての議論は、ある委員が、現状として「一部で不適切な医療が行われている」という文言を指針案に入れるべきだと提案したことから始まります。

○園部委員 2ページの16行目から「近年、医療の進歩により、科学的知見に基づく医療を受けることで症状を軽減することが概ね可能となりつつあるが、全ての患者がその恩恵を受けているわけではないという現状も指摘されている」という所で、「全ての患者がその恩恵を受けているわけではない」ということだけだと、なかなか分かりづらいので、この文章「全ての患者」の前に、できれば「一部で不適切な医療が行われている」など、又は「一部で科学的根拠に基づかない医療が行われている」などと入れていただくと分かりやすいのではないかと思います。

協議会委員名簿を確認すると、園部委員とは園部まり子氏です。NPO法人アレルギーを考える母の会の代表理事です。患者やその家族の声を代弁しているということでしょう。 

なお、アレルギーを考える母の会は、同会ウェブサイトによれば、次の企業から支援を受けています。

●ご支援をいただいている企業

・グラクソ・スミスクライン株式会社
・サーモフィッシャーダイアグノスティックス株式会社
・シダックス株式会社
・鳥居薬品株式会社
・ノバルティスファーマ株式会社
・日本ハム株式会社
・ファイザー株式会社
・MSD株式会社 *1

 

この園部氏の提案に対し、松本委員から反対意見が出ます。日本医師会常任理事の松本吉郎氏です。

○松本委員 私はその記載については反対いたします。やはり、もともと園部委員のおっしゃっていただいていることは、適切な治療を受けさせるのが目的なので、むしろ受けていないことを言うのではなくて、前に進めるような議論にしたら、ということを発言させていただいたのだけれど、ですから、もしそのように入れるのだったら、「適切な治療を受けられるようにする」ということを入れたほうが私はいいと思います。

○園部委員 そうですね。そうなのですけれども。

○松本委員 それだったらいいと思いますけれども、「不適切な治療を受けている」という言葉は、ちょっと私は反対いたします。そうではなくて、それを前提として、中に入れないで、適切な治療が受けられるようにさせたいというのがもともとの園部委員の意見なのだから、そういった形で入れるならいいけれども、ちょっとその表現は適切ではないと思います。

松本氏は、「適切な治療を受けられるようにする」という前向きな文言を入れるべきだと主張しました。現状の説明よりも、指針の趣旨を入れるべきということでしょう。

 

しかし、園部委員は食い下がります。

○園部委員 この意見について補足の説明をさせていただいてもいいでしょうか。やはりたくさんの患者さんが医療機関に行っているのに、だんだん医療不信、薬不信をもって、そしてついに医療から離れてしまって、医療ではない所で解決しようと思って、ものすごくこじれた患者さんの相談に、17年間たくさんの患者さんに出会ってきました。

そうですね。私もそのような患者の一人だと思います。 

園部氏が続けます。

 お医者さんに文句を言いたいのではなくて、本当に一部に、不適切な医療をやっている医療機関に出会ってしまった患者さんたちが、大変なことになっていってしまうので、検診のときに保健師さんの現場の声も、医療機関に関わっているというと、何も言えない。悲惨な姿になっている親子を救えないところが、こういうところに一言でも一文字でも出ていたら、その相談の乗り方が、もう一歩適切な医療に背中を押してあげられるような言葉掛けができるようになっていくという声も現実にあるのです。 

患者が不適切な医療をやっている医療機関に出会ってしまうというのは、その通りかもしれません。

付け加えると、個人的には、いわゆる脱ステロイドおよび温泉療法の2つを不適切な医療に含めてほしくありません。この2つにはエビデンスが多少なりともあります。それ以外の、食事療法や漢方、鍼灸、サプリメント、カウンセリング等を主たる手段とする医療は、不適切な医療に分類されても仕方ないと思います。ここは明確に区別してほしいところです。

園部氏はさらに私見を述べます。

 現状、患者さんが何で自分がこんなに大変な目に遭っているのだろうと、ここに一言添えることで、そのことで悩んでいる人たちも、適切な医療とそうでないものがあるのだということを理解できるのではないかと思ったので、そういう意見を言いました。

おそらく、園部氏は、ガイドライン等に沿った治療が適切な医療であり、それ以外は不適切な治療であると考えているようです。

しかし、ガイドライン等が、すべての患者にとって適切な医療であるとは限りません。

なおかつ、アトピー性皮膚炎に関していえば、アトピー性皮膚炎診療ガイドラインに沿った治療を受けて治癒するわけではありません。薬物による対症療法で無期限に症状を抑えるのみで、多くの場合、治療を中止すれば元の症状が再発します。

そもそも、ガイドライン等に沿った治療を、国が患者に押し付けるべきではありません。ガイドラインを策定することと、ガイドラインを患者に遵守させることは、全く別の次元の話です。

この協議会は、アレルギー疾患対策基本指針について協議しているのではないのでしょうか。指針は指針にすぎず、従うべき義務ではありません。

 

アトピー性皮膚炎に関して、すべての患者に対して適切といえる治療法は、現時点では存在しません。ひとりひとりの患者に対してきめ細かな治療が必要です。ガイドラインに従ったとしても、すべて解決するわけではないのです。

アトピー性皮膚炎の専門家である加藤氏は、そのことを知っているはずなのに、なぜここで指摘しないのでしょう。

 

松本氏が説明を加えます。

○松本委員 私はちょっと納得いかないですね。やはりもっと前向きにこれを考えるべきであって、それをやってしまうと、全部の文言に「~でないからこうすべき」ということが入っていかなくてはいけなくなってしまうので、それをやってしまうときりがなくなってしまうと思うのです。

 ここはやはり前向きに捉えて、適切な治療が受けられるようにやっていくというのが、1つの考え方なので、こちらを前面に押し出したほうが十分に意義は尽くせると、私は思いますよ。

松本氏の説明は妥当であると思います。現状説明のために諸事例を詰め込むと、わけがわからなくなるからです。指針は明快であるべきです。

 

松本氏の意見で終わると思いきや、栗山氏から援護射撃が飛び出ました。NPO法人アレルギー児を支える全国ネット「アラジーポット」代表の栗山真理子氏です。園部氏と同様、患者やその家族の立場からの発言でしょう。

○栗山委員 今の話に関してです。松本委員のおっしゃることは、ごもっともだと思います。できればそのようにだけ書ければいいなと思うのですが、それだけを書いただけでは本当に今一番困っている人たちは、先生から見るとごく一部かもしれないのですが、ネガティブな表現を避けられないような治療を受けている方々ですので、ほかのことを全部というのではなくて、そこの部分だけ書かせていただきたいなと、同じ患者から相談を受ける身としては、私もそう思います。


○松本委員 それでも私はちょっとその文章に関しては受け入れかねますね。反対いたします。

栗山氏は園部氏と同様の意見です。

しかし、松本氏が反対し、このやりとりは一度区切りがつきました。

 

ところが、園部まり子氏がまた議論を蒸し返します。

○園部委員 4ページの医師その他の医療関係者の責務の下から3行目に「アレルギー疾患を有する者の置かれている状況を深く認識し」とあるのですが、これだけだとやはり分かりづらいので、できれば、「必ずしも適切な医療や生活上の支援を受けていないなど」と入ると分かりやすいなと思いました。

先ほどの議論を再び持ち出します。よほど、現状において "不適切な医療" が行われている旨の文言を入れたいようです。

この園部氏の提案に対して、再び松本氏が諫めます。現状の説明よりも、法律の目的・趣旨を入れるべきという説明を繰り返します。

○松本委員 それに関しても、さっきから話しているのですけれども、「~でしていないから~だ」ということをすると、全部に入れなくてはいけないことになってしまうのです。ですから、そういったことではなくて、前向きに「これからこうしよう」という形でまとめたほうが、私はやはりきれいな文章になるし、それで十分に意は尽くせると思いますよ。「~の状態ではないから、こうなる」という形で全部言ってしまうと、本当に話が空転してしまうから、私はちょっとそれは反対します。

ここで、再び栗山氏からの援護意見が出ます。 

○栗山委員 すみません、どれぐらいの方々がポジティブな表現だけで済むような、ネガティブな表現をしなくても済むような治療を受けていらっしゃると、先生方としては思われるでしょうか。変な言い方ですが、2011年のアレルギー検討会で、やはりそこの所を書き込んでいただいていると思うのですね。さっきから同じようなことを申し上げますが、それもわざわざ取り上げなければならないような現状が、アレルギーの疾患の中にはあるということを、一度多くの方に認識していただきたいなという思いも込めての御発言だと思いますし、私もそれに賛同いたします。

そこまで言うのなら具体例を示してほしいものですが、アトピー性皮膚炎の現状を憂えているのでしょうか。

園部氏と栗山氏は、ガイドラインに基づく治療で救われる患者がいると主張しています。これは一部において正しいのですけれども、一部において誤っています。

なぜなら、ことアトピー性皮膚炎に関しては、ガイドライン等に基づく標準治療を受けたことによって、ステロイド外用剤依存等の副作用に苦しみ、症状を難治化させてしまう患者が少なくないからです。つまり、実害があるということなのです。

私もいわゆるアトピー患者の一人ですが、私の考えでは、副作用のリスク情報を伝えずにすべての患者に標準治療を押し付けることこそが "不適切な医療" です。

園部氏も栗山氏も、なぜ、自分がみてきた一部の患者に当てはまることが、他のすべての患者にも当てはまると考えるのでしょうか。

 

ここで、本田委員が議論に加わります。読売新聞東京本社医療ネットワーク事務局次長の本田麻由美氏です。乳がん手術を3回受けており、がん患者および報道記者の立場としての意見です。

○本田委員 今、その御議論を聞いていて、がん対策のときのことを思い出していたのですが、がん対策のときも、法律のできた経緯とかは疾患ごとに違うと思いますけれども、一番初めの第1期の計画を作るときに、個々の所にはそういう文言は確かに入れていません。そうすると松本委員がおっしゃるように、全部入れなくてはいけなくなるので、入れないことになっていたのですが、やはり前文にそういう趣旨のことを入れるべきだと、現状認識から物事が変わるのだという患者側の委員と、やはり前向きに書くべきだという医療者側の委員と、両方とももっともで結構いろいろ議論したのを覚えています。

 それで今、確認していたのですが、基本的には前向きにザーッと来ています。ただ、前文の最後のほうに、やはり現状認識ということで、疾患が違うのでこのとおりにするべきだとは私は思っていないということを前提に言います。

 前向きにこれまでこういう取組をしてきて、このように進んできた中で、がん患者、国民はがん医療に参加したいという希望を高める一方で、がん医療の水準に地域間格差や施設間格差が見られ、標準的治療や進行再発といった様々ながんの病態に応じたがん医療を受けられないなど、実際に提供されるサービスに必ずしも満足できず、がん患者を含めた国民の立場に立って、こうした現状を改善していくことが強く求められているというような文言が入っているので、何も今あるものを責める必要はないと思うし、何が正しいかというのもなかなか判断が難しいとは思うのです。

 ただ、現状をある程度ざっくり、今、課題があるから、こういうことを改善していくことが重要なのだと、前文の途中に一言入れておくことで、それぞれの所にああだこうだと入れると大変なことになるので、それは1つの考え方ではないかと私は思います。

本田氏の意見は、園部氏と栗山氏の意見を後押ししたかたちです。

 

アトピー性皮膚炎を前提に述べます。

医療水準に地域間・施設間格差があることは、確かに、現状における「課題」であり、前文に課題を改善する旨の一言を入れるのはひとつの考え方でしょう。

しかし、ご自身で述べている通り、がんとアレルギー疾患では疾患が異なります。現状の実態が異なるのです。

アトピー性皮膚炎に対する標準的治療の内容は、安価で入手容易なステロイド外用剤の投与ですから、医療水準に地域間・施設間格差はないといっていいでしょう。

一方で、大切なことですから繰り返しますが、アトピー性皮膚炎における「課題」は、ガイドラインに基づく標準的治療、すなわち適切とされる用量・用法のステロイド治療によっても、一部において、重症化してしまう患者がいることなのです。

しばしば、患者が適切な用量・用法を守らないから副作用が起きるのだ、という主張がなされます。その主張は根拠薄弱です。

そのことよりも、適切に使用できずに副作用を起こす患者が後を絶たないような治療を標準的治療と位置付けている現状こそが問題なのです。

園部氏と栗山氏の意見は、いわゆるアトピー患者のうちの一部の意見しか代弁していないでしょう。標準治療から置き去りにされた患者を無視しているかのようです。

 

本田氏の意見を受けて、協議会長の斎藤博久氏(国立成育医療研究センター副所長)が現状の課題を示すための具体的な文言例を募りました。

なお、斎藤博久氏は、栗山氏が代表を務めるアラジーポットの顧問をしています *2 。まあ、そんなものです。

○斎藤会長 さっきの議論に戻ってしまうのですが、例えば前文ですと、2ページの真ん中辺りに、「近年、医療の進歩により、科学的知見に基づく医療を受けることで症状を軽減することが概ね可能になりつつあるが、全ての患者がその恩恵を受けているわけではない」という、ここに関して例えば変更するとしたら、どのような。

どうやら、 "不適切な医療" に関する文言が入りそうな雰囲気です。

 

ここで、皮膚科代表、加藤則人氏が発言します。

○加藤委員 たとえば、5ページの9行目、「また」という所から始まる「適切でない情報を選択したが故に、科学的知見に基づく治療から逸脱し、症状が再燃や増悪する例が指摘されている」を、会長が言われた所に持ってくるのも一案かと思いました。

これは脱ステロイドを念頭に発言しているのでしょう。

 

加藤氏の意見を受けて、斎藤会長が松本氏の考えを聞きます。

○斎藤会長 という案が出ましたが、松本委員いかがでしょうか。

○松本委員 どこかでそういったことを書くのは絶対駄目だとは言いませんが、先ほども言った「不適切な治療」という言葉は、ちょっと私は受け入れ難いと思います。先ほど本田委員がおっしゃった中でも、そういった表現は入っていなかったと思います。ですから本当は、本田委員がおっしゃったがん対策のほうの文章とちょっとニュアンスが違うので、文言をもう少し考えていただけるのであれば、また検討したらどうでしょうか。先ほど言った園部委員のそのままの文章は、私はちょっと受け入れ難い。

ここまで4人の委員の意見にまくし立てられ、孤軍奮闘の松本氏。せめて再検討すべきとしました。

 

ここで、武川委員が具体的な事例を持ち出しました。アレルギー患者の声を届ける会代表理事で、日本アレルギー友の会副理事長でもある武川篤之氏です。

○武川委員 ただいまの議論で松本委員に、ちょっと一部誤解があるかなと思っております。多分園部委員が言っているのは、私もそうなのですが、いわゆるアンチステロイドの、例えばアトピー性皮膚炎でのステロイド外用薬を使わない療法で、非常に困った治療をしていまして、それで悪化・重症化してくる。ですから、きちんとした医療を受ければ、そういうことがないのにという、その意味を言っていたのだと思います。ちょっと言葉が足りなかったと思うのですけれども。

本当に、委員として現状認識が足りないのではないでしょうか。

一度、Red Skin Syndrome(RSS)などで画像検索してみるとよいです。ステロイド外用剤依存 Topical Steroid Addiction(TSA)に陥り、ステロイド外用剤離脱 Topical Steroid Withdrawal(TSW)に苦しむ患者の写真がたくさん出てきます。

武川氏の表現を借りれば、

「ステロイドの、例えばアトピー性皮膚炎でのステロイド外用薬を使う療法で、非常に困った治療をしていまして、それで悪化・重症化してくる。ですから、きちんとした医療を受ければ、そういうことがないのに」

という意見があっても決して否定されないでしょう。

 

なお、武川氏が副理事長を務める日本アレルギー友の会は、製薬会社などからサポートを受けて運営をしている団体です。

サポート企業一覧
認定NPO法人日本アレルギー友の会は、下記の企業のご支援を得て運営をしております。

アクセーヌ株式会社
アステラス製薬株式会社
アストラゼネカ株式会社
エーザイ株式会社
MSD株式会社
花王株式会社
グラクソ・スミスクライン株式会社
サノフィ株式会社
塩野義製薬株式会社
株式会社資生堂
シャープ株式会社
ダイワボウノイ株式会社
帝人ファーマ株式会社
鳥居薬品株式会社
日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
日本ロレアル株式会社
ノバルティスファーマ株式会社
マルホ株式会社 *3

 

武川氏の意見も加わり、5人の委員からまくし立てられても、松本氏は動じません。

○松本委員 ですから、おっしゃるとおりで、あのままの文言ではちょっとやはり誤解を招くので、その辺は文言についてもう少し検討されたらいかがかなとは思います。

私の眼には、方向性を見失った5人の委員を、1人のプロフェッションがあるべき方向へ軌道修正しようとしているように見えます。 

 

ここで唐突に、文言についての提案が挙がりました。提案したのは坂元昇氏(川崎市健康福祉局医務監)です。

○坂元委員 この2ページの「全ての患者がその恩恵を受けているわけではない」と、近年の医療の進歩を受けているわけではないという現状を指摘されているという所で止まってしまっているから、ちょっと問題なのだと思います。
 ここに例えば、「更なる標準化医療の普及が望まれる」という前向きな文句を入れておけば、私はそれは前文となって、今までの医療はこうだとか、誰が悪いということではなくて、やはり総体として更なる標準化医療の普及が望まれるということになると思います。
 というのは、この会で皆さんで議論して、実際に今までやった標準化医療のお陰でぜん息死が減ってきたという事実があって、これは大きな成果だと思うので、「これを前向きな姿勢として、今後も広めていきましょう」という、その文言をここに入れておけば、それで私は後は生きてくるのではないかと考えております。それはかなり皆さん一致した、前向きな考え方だと思いますので、いかがでしょうか。

ぜん息ではそうなのかもしれませんが、先程から指摘している通り、アトピー性皮膚炎では現状が異なります。アトピー性皮膚炎の治療は標準化が困難なのです。

しかし、「標準化」という耳触りの良い文言が入りそうです。そうであれば、指針の対象疾患からアトピー性皮膚炎を外した方が良いでしょう。

 

○斎藤会長 いかがでしょう。皆さん、よろしいという意見が多いようですが。

○栗山委員 8割、9割方、それで本田委員がおっしゃってくださったような現状認識を少し入れていただきつつ、文言は何かにこだわるつもりはありませんので。

栗山氏は、文言にこだわらず、現状認識を入れるべきとのこと。指針案なのだから文言こそ吟味すべきだと思いますけれども。

本田氏も、事実を認識したうえで、現状に差があるなら、標準化が必要だと主張します。

○本田委員 私も医療者ではないのであれなのですが、私も患者、家族の方々が、やはり現状のことをある程度触れてほしい、ただ、基本的には前向きに、こういうものを書いていくべきだと思っていて、格差があるとか、確かに恩恵を受けているわけではないという現状も指摘されているというだけでは、私が何を言っているのかなという感じもあるので、現状では差があるとか、そういう事実認識ぐらいは、やはりがんのときも入れていますし、差はあっても普通だと思います。差があるから、こういうことをちゃんと標準化していきましょうということですから、その程度は有りではないのかなと、私は感じます。

その上で、先ほど坂元委員がおっしゃったように、だからこそ「更なる標準化が必要なのだ」ということを入れておけば、現状認識をきっちりしたということでいいのではないかなと、私は感じました。

○斎藤会長 次回委員会まで、かなり1か月以上時間がありますので、事務局も個別に先生と相談しながら、これは詰めていきたいと思います。

「現状認識」と「標準化」についての文言が入りそうな雰囲気となり、次の第9回に持ち越しとなりました。 

 

 

さて、委員の方々は、

  • 現状を認識すべきだ。

といいます。

 

しかし、私の印象では、一部委員の方々はアトピー性皮膚炎の現状を認識しておられないようです。

 

アトピー性皮膚炎の現状をひとつ示します。

2014年、アトピー性皮膚炎の患者団体atopic(アトピック)から、日本皮膚科学会理事長の島田眞路氏宛に、「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」を改訂するように求める署名16,112筆が提出されました。

atopicは、ステロイド等を使わない治療を選択肢として認めること、ステロイド依存等の副作用の存在を認めることなどを求めました。

●ガイドライン改訂を求める内容

私たちが求める改定内容は次の通りです。

1)「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」でステロイド療法・プロトピック療法が標準治療だと明言している「日本皮膚科学会」に、標準治療で治らない場合はステロイド剤や免疫抑制剤を使わない治療も治療の選択肢の一つであるということをガイドラインに取り入れていただくこと。

2)「ステロイド・プロトピック・保湿剤に対する依存症の存在」を医師が認め、ガイドラインに記載していただくこと。

3)小児の治療において、「ステロイド・プロトピック」の使用を極力減らすことをガイドラインに取り入れていただくこと。*4

なお、現時点において、この署名に対して島田眞路氏は何らの返答もしていません。

少なくとも16,000人が、ステロイド治療を中心とする現行のガイドラインを、変えてほしいと考えているのです。

 

協議会に出席した加藤則人氏は、この署名のことを知っているはずです。日本皮膚科学会に所属し、最近のガイドラインの作成委員長であったのですから。

したがって、加藤氏は、例えば次のように指摘するべきでした。

 

「アトピー性皮膚炎に関しては、科学的知見に基づく医療から逸脱して症状が増悪する例が後を絶ちません。しかし一方で、我々から見れば "適切でない" 情報を選択した患者さんたち、例えば、ステロイド剤を中止することで、症状が改善する例がみられることも事実です。

そうした患者さんやその家族から、ガイドラインを修正すべきという声が挙がっています。2年前にはガイドラインの修正を求めて16,000人の署名が日本皮膚科学会に提出されました。その数は決して少なくありません。それだけ多くの患者さんやその家族が、ステロイドを使いたくないと考えるということには、何か理由があるのかもしれません。

アトピー性皮膚炎ではステロイド剤が第一選択薬ですが、その長期使用により様々な副作用が生じてくることも事実です。例えば、酒さ様皮膚炎という顔が赤く腫れてしまう副作用がありまして、この場合はステロイド剤の使用を中止する必要があります。アトピー性皮膚炎の治療は一筋縄ではいかず、副作用を避けるためステロイド剤の処方には注意深さが求められます。

また、現時点では、ステロイド剤の長期使用時の安全性に関してはエビデンスが不足しています。新たな知見が得られれば、当然ながらガイドラインも修正されていくべきものです。

アトピー性皮膚炎の現状の認識という観点からいえば、まだまだ我々専門家も現状を把握しきれていないといわざるを得ません。

我々が考える不適切な治療を選択して症状が悪化した後に、標準的治療を受けて改善する患者さんがいるかと思えば、不適切な治療、すなわちステロイドを使わない治療を受けて改善する患者さんも確かにおられる。そして、そうした方々からはガイドラインの修正要求があがっている、という実態があるわけです。

アトピー患者さんのなかには、標準的治療が奏功しないサブグループが確かに存在します。そうしたなか、さらなる治療の標準化を図った場合、一部で標準的治療を押し付けられたと感じる患者さんも出てくるかもしれません。

一般論として、標準化されることは良いことに違いないでしょうから、「標準化が必要」という文言が入ることに敢えて反対はいたしません。しかし、少なくともアトピー性皮膚炎の場合、現状において不適切な治療が行われているとは断言できませんので、「不適切な治療が行われている」と断定する文言は適当ではないと考えます。松本委員がご指摘したように「適切な治療を受けられるようにする」などの前向きな表現にした方がよろしいかと思います。」

 

ともかく、協議会は次回へ持ち越しとなりました。

続きは後編にて。