アトピー覚書ブログ

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「ステロイド=怖い」の思い込みは治癒の機会を逃す?

日経デュアルというウェブサイトに、2017年1月27日付で、

「ステロイド=怖い」の思い込みは治癒の機会を逃す

というタイトルの記事が掲載されていました。

「知ろう小児医療 守ろう子ども達の会」代表の阿真京子氏が、小児科医の原朋邦氏の解説を交えて執筆した記事です。

 

要約すると、

  • 子どもに非ステロイド性抗炎症剤を使うべきではない。
  • 子どものアトピー性皮膚炎にはステロイド外用薬を使うべき。
  • ステロイドを怖がって使わないと二次的なリスクが生じることもある。

などと主張されています。

最近流行りの、正しい情報を選択してステロイド外用薬を用いた正しい治療を受けましょう、という考え方です。

ステロイドを怖いと思い込んでいたら良くなる機会を逃してしまいますよ、とのこと。

 

副作用を経験した患者の一人として、やはりこのような記事を読むと反論したくなります。以下、私の個人的な考えを述べます。

まず、タイトル。

「ステロイド=怖い」の思い込み

という文言ですが、すべての患者が「思い込んで」いるわけではありません。

私がステロイドとプロトピックを長期連用していた時のこと、ある朝起きたら、首から上の顔全体が真っ赤に腫れあがっていました。滲出液がダラダラ流れ出て2週間とまりませんでした。頭がどうにかなりそうなかゆみに襲われ、夜中はまったく眠れず、夜の9時から朝の4時まで、休みなく全身を掻き続けていました。

このような経験をして、ステロイドは怖いと考えることは、間違っているのでしょうか。医師の指示通りにステロイドとプロトピックを塗っていましたが、やはり塗り方が悪かったのでしょうか。

私にとって、「ステロイド=怖い」という考えは、決して思い込みではなく、事実から学んだ知識です。

 

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次に、阿真氏が、ステロイドを怖がる親たちにその理由を聞いたときのエピソードについて。

「どうして怖いのですか?」とお聞きすると、「名前のイメージで」「何となく…」「一度使うとやめられなくなると聞くから…」と、明確な理由は見られません。

「一度使うとやめられなくなると聞くから...」という親の考えは、明確な理由です。どこが不明確なのでしょうか。麻薬に一度でも手を出すとやめられなくなるらしいから...という理由で、麻薬を怖いと感じるのは一般的な感覚であると思います。

使用経験者として言わせてもらえば、ステロイドは一度使うと手放しにくくなります。やめようとすると悪化する場合があるからです。

「ステロイド塗る→良くなる→やめる→悪化→ステロイド塗る→良くなる→やめる→悪化→ステロイド塗る」

そして、薬を塗らないと湿疹を抑えきれなくなり、さらには、一部の患者において、薬がだんだん効かなくなり、より強い薬を求めるという負のスパイラルに陥ります。私がそうでした。いわば薬物依存状態です。

ステロイドを一度使うと生じるこのリスクを回避するため、すなわち一度使うと治癒の機会を逃すリスクを回避するため、ステロイドを使わないという選択は、私は賢明であると思います。

 

阿真氏は次のように続けます。

通常の小児科を受診すれば、必要な場面でステロイドが処方され、きちんと説明があり、患者も理解して使用することで、症状が改善されてステロイドが必要なくなる、という道筋をたどる方がほとんどかと思います。

道筋をたどった方は問題ないのです。そうではなく、その道筋をたどれなかった人が少なくないことが問題なのです。

しかし、受診した病院が、たまたまステロイドを避ける医療機関(ごくわずかですが存在します……)だったりすると、とてもひどい状態になってしまうことがあります。

確かに、ステロイドを避けることで、ひどい状態になってしまうことはあるでしょう。

けれども、ステロイドからの離脱症状を起こすリスクは避けられます。また、ステロイドをすでに使用していた場合は、いったん悪化した後で、すっかり良くなることもあります。

 

次は、原医師のコメントです。

ご存じのとおり、そもそも副作用のない薬はありません。しかし副作用をできるだけ少なくする使い方を目指すことも、処方する医師と、(用法・用量をきちんと守るという意味で)処方された患者双方の大切な役割です。『副作用があるから使わない』というのは正解ではないのではないでしょうか。

この指摘は、私が全く意見を異にするところです。

副作用のない薬はないのだから、薬を飲む以上は副作用のリスクは甘受すべきだという論法です。

その通りだと思います。

しかし、ステロイドは、副作用が「重大」で、おそらく「高頻度」に生じる点が問題だと考えます。

例えば、副作用のひとつ、リバウンドは、生き地獄とも形容されます。レッド・バーニング・スキン・シンドロームとも称されます。全身が「赤く燃え盛る皮膚炎症候群」です。それも、安静にしていれば数日で治るというものではありません。仕事や学校を休んだり辞めたりしなければならず、人生に影響します。

一方、副作用の頻度の詳細は不明ですが、用法・用量を守ったとしても、症状がコントロール不良となれば、長期使用による副作用が生じることが推測されます。

九州大学の古江増隆氏の論文によれば、ステロイド外用薬を用いた6か月にわたる治療において、乳児のコントロール不良群は7.2%でした(小児9.4%、青年および成人19.4%、全体13.1%)*1

7.2%が多いか少ないか。参考として、市販の風邪薬で起きうる副作用「スティーヴンス・ジョンソン症候群(SJS)」の頻度と比較してみます。SJSは、全身に紅斑等が多発して表皮の壊死性障害が生じ、死に至ることもある重大な副作用です。

SJSの発症頻度は、中毒性表皮壊死症を含めた重症多形滲出性紅斑としては、年間人口100万人当たり1~10人程度と推定されています*2 。すなわち、0.0001~0.001%です。

SJSは大変恐ろしい副作用ですが、0.0001~0.001%と発症頻度が低いので、私は風邪薬を飲むことを躊躇しません。一方で、ステロイド外用薬は、全体として約10~20%がコントロール不良となります。これは、私はリスクが高いと考えますし、何より、実際に副作用が生じました。

私にとっては、ステロイドは「副作用があるから使わない」のではなく、副作用の程度が人生設計に影響を及ぼすほど重大で、しかも相当の確率で生じるから使わないのです。

 

ところで、原医師がリバウンドについて言及した部分を紹介します。

やめるとリバウンドがあるというのは完全なウソではありませんが、だからこそリバウンドの出ないよう、徐々にレベルダウンしながら使うのがよいでしょう

ひと昔前は、「リバウンドはウソだ」と口角泡を飛ばして主張する皮膚科医のコメントを目にすることが多かった印象があります。この点、原医師は、リバウンドは完全なウソではないと、慎重に述べています。賢明であると思います。

一方、原医師の次の指摘は、傾聴に値します。

「このときの赤ちゃんの場合、頬に強い炎症があるままにしておくことで、皮膚のバリア機能が失われ、二次的なアレルギーが起こりやすくなります」

湿疹を放置すると、皮膚からアレルゲンが侵入して感作が成立する可能性があるという指摘です。湿疹を放置している脱ステ患者は念頭におくべきでしょう。

 

さて、この記事が示すように、ここ十数年、「ステロイド=怖くない」というメディア情報を目にする機会が本当に多いです。

阿真氏は次のように言います。

ステロイドを使って、過去に何か悪いことが起きたという方には、今のところお会いしたことがありません。

この記述を読むと、ごく少数へのヒアリングしか行っていないのではないか、偶然が重なっただけではないのか、などの疑念が生じます。私には信じられません。

本当の実態を調べたいのであれば、ステロイドを避ける医療機関を取材するべきです。「ステロイドを使って過去に何か悪いことが起きたという方」が集まるところだからです。

ステロイドさえ塗っておけば大丈夫というお題目だけを伝えて、実態を伝えない情報の価値は低いです。

私は、

  • ステロイドは病気を治すのではなく症状を和らげるものであること
  • ステロイドですべての患者の症状が常に和らぐわけではないこと
  • ステロイドでは重大な副作用が少なからず生じる可能性があること

などの実態を伝えるべきと考えます。

 

また、この記事が伝える、子どものアトピー性皮膚炎にステロイドを使うべきという情報は、絶対的に真実なのでしょうか。

ステロイドの作用機序は未解明であり、副作用や離脱症状を完全に避ける使用方法は確立されておらず、十年単位で長期追跡した調査は未だ行われていない現状であっても、そうなのでしょうか。

ステロイドを赤ちゃんから塗り始めて、80年にわたり一生塗り続けても、一度も副作用はおきなかった、というサンプルデータが十分に蓄積されたなら、私も同意するでしょう。

しかし、約1割がコントロール不良に陥ることが示唆されています。もし子どもがステロイドからうまく離脱できなかったらどうするのか。「副作用のない薬はない」「副作用は患者の不適切な使用が原因だ」などとうそぶくような医師らは、親から愛想をつかされ、結局はステロイドを避ける医療機関がその子どもの面倒をみることになるのではないでしょうか。というよりも、それが今起きている現実です。

 

この記事の情報では、ステロイドの怖さをよく知らない乳幼児の親は懐柔できても、長年いわゆるアトピーを患っている患者らを説得することは到底できないでしょう。

それとも、副作用を起こした患者には「お会いしたことがありません」と言い切り、都合の悪い存在は無きものとするのでしょうか。それはそれで、残念な考え方ではあります。

*1:Masutaka Furue, Takahito Chiba, Satoshi Takeuchi,. Current status of atopic dermatitis in Japan. Asia Pac Allergy, 2011 Jul;1(2):64-72.

*2:難病情報センター | スティーヴンス・ジョンソン症候群(指定難病38)