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アトピー覚書ブログ

成人型アトピー 脱ステ・脱保湿患者のブログ

二重スイッチ数理モデル

理化学研究所などの国際共同研究グループは、15日、アトピー性皮膚炎の発症および悪化のメカニズムを解明するための「二重スイッチ数理モデル」を構築したと発表しました。

アトピー性皮膚炎の発症・悪化・予防に関わる二重スイッチ | 理化学研究所

 「アトピーの○○を解明!」といった研究発表は、過去に何度もなされてきたわけですが、今回の発表は、それらとは一線を画す重要な研究成果であるように感じます。

 

研究グループは、アトピー性皮膚炎のメカニズムを、スイッチ1とスイッチ2の2つのスイッチ、つまり二重スイッチのモデルにより表現しています。

アトピー性皮膚炎の進行には

炎症を発症させるスイッチ1
 2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)が活性化し症状を悪化させるスイッチ2が関わっていること、

スイッチ1が頻繁にオンになると、スイッチ2がオンになる *1

 

また、研究グループは、原論文において、アトピー性皮膚炎の遺伝的・環境的リスク要因として「皮膚バリア機能」「免疫システム」「微生物叢」の3つを挙げています。

これらのリスク要因と2つのスイッチについて当サイトなりにまとめると次のようになります。

 

スイッチ1・・・炎症を発症させるスイッチ。可逆的。

外部から皮膚に入る細菌に反応するタンパク質などのセンサー。

自然免疫反応と皮膚バリア(STAT3遺伝子やfilaggrin遺伝子)の状態とのバランスによって制御(遺伝的要因)。

細菌の量が閾値を超える→センサー活性化→炎症反応→抗菌タンパク質の発現亢進→カリクレイン活性化→皮膚バリア傷害。

 

スイッチ2・・・症状を悪化させるスイッチ。非可逆的。

IL-4のレベルを上昇させることにより、炎症を悪化させる。

転写因子GATA3発現→Th2細胞の反応促進→IgE抗体の産生量上昇→炎症悪化。

 

そして、スイッチ1が長時間または高頻度にオンになっているとスイッチ2がオンになり常にオンの状態になるといいます。

スイッチ1が長時間オンになっている(炎症が長時間継続する)、あるいは断続的だが頻繁にオンになっている(炎症が高頻度で続く)場合に、スイッチ2がオンになります。スイッチ2は非可逆的のため、一度オンになると常にオンの状態になり、アトピー性皮膚炎の症状はどんどん悪化します

 

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(出典:アトピー性皮膚炎の発症・悪化・予防に関わる二重スイッチ | 理化学研究所

この説明は、私の患者としての個人的実感にも合います。

というのは、長年アトピーを患っている者として述べると、1度調子が落ち込むと、長期にわたり調子が悪い状態が続くという現象を経験したことがあるからです。

 

さて、現在アトピー性皮膚炎の診療現場は混乱しています。その理由は、ステロイド外用薬使用の是非をめぐる問題に収束するといってよいでしょう。

概ね、ステロイド肯定派は、ステロイド使用によって軽症から中等症で症状を維持できており、一方のステロイド否定派は、ステロイド使用により重症化した経験があるものと推測されます。

つまり、アトピー性皮膚炎患者を全体として見渡すと、大多数からなる軽症から中等症アトピー性皮膚炎患者のグループと、ステロイド忌避あるいはステロイド治療抵抗性の重症アトピー性皮膚炎患者のサブグループとに分けられます。

現状では、このサブグループに対しても、ガイドラインに沿った治療を施そうとするので混乱が生じています。

日本皮膚科学会は、このサブグループが生じた原因について、"不適切治療" によるものとみなしており、未だ科学的評価はなされていません。

なお、サブグループの患者は基本的に標準治療を行う皮膚科を受診しないので、統計データに捉えられることはほとんどありません。

 

私が今回の理研の発表について好感をもったのは、重症アトピー性皮膚炎について "不適切治療のせい" と一言で片づける非科学的態度ではなく、数理モデルを用いた科学をもって解き明かそうとしているからかもしれません。

原著論文は、イントロダクションにおいて、なぜ容易に重症アトピーへ進行する患者がいるのか、なぜ軽症と重症のアトピー性皮膚炎が存在するのか、などを問うています。

我々はアトピー性皮膚炎の発症と悪化に潜在するメカニズムを明らかにし、アトピー性皮膚炎の悪化を防ぐ有効な治療戦略を検証し、アトピー性皮膚炎の発症・悪化・予防についての3つの根本的な疑問に答えた。

なぜアトピー性皮膚炎の遺伝的リスク要因をもつ一部の患者は、最初は無症状であるのに、臨床的に容易に重症アトピー性皮膚炎へと進行するのか?

なぜ一部の患者は重症アトピー性皮膚炎へ進行するのか、一方で他の患者は軽症のままなのか?

最近の臨床試験が示した、新生児への保湿剤の使用がアトピー性皮膚炎の進行を効果的に予防することの背景にある基本的メカニズムは何か?*2

 

原著論文はオープンアクセスにより発表されていますので、全文を無料で読むことができます。ただ、数理モデルの方程式は高度に専門的であり、素人の私には理解できませんでした。

スイッチ1の可逆スイッチは Reversible Receptor(R)-switch と表現され、スイッチ2の非可逆スイッチは Irreversible Gata3(G)-switch と表現されており、2つのスイッチのオン・オフに応じて4つのアトピー性皮膚炎表現型が示されています。

例えば、スイッチ1とスイッチ2が両方オンになると、全身性アトピー性皮膚炎の炎症が頻繁に生じるとされています。

 

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(出典:http://www.jacionline.org/article/S0091-6749(16)31433-6/abstract

 

論文の主眼は、アトピー性皮膚炎発症機序の数理モデル構築や、ダブルスイッチにより分類される4つのアトピー性皮膚炎表現型を提示することにあり、スイッチ2をオフにするための有効な治療法は研究途上といったところのようです。

他方、「予防」に関しては、保湿剤の使用による皮膚バリアの保護が、症状悪化のサイクルを止められる効果的な予防法であるとしています。

 

最後に、非可逆的な作用といえばステロイドによるDNAメチル化があります。いわゆるアトピー性皮膚炎において非可逆スイッチがあるとするなら、副腎皮質ステロイド薬への曝露という要因についても研究してほしいと思います。 重症アトピー性皮膚炎患者はほぼ例外なくステロイド薬の使用歴があるからです。

 

(当サイトはいかなる治療法をも推奨するものではありません。また、当サイトに掲載されている情報を利用することにより発生したいかなる損害についても責任を負うものではありません。)

(引用部分の翻訳および赤字による強調表示は当サイトによります。正確な翻訳を期していますが、正確性を保証するものではありません。)

*1:アトピー性皮膚炎の発症・悪化・予防に関わる二重スイッチ | 理化学研究所

*2:Domínguez-Hüttinger E, Christodoulides P, Miyauchi K, Irvine AD, OkadaHatakeyama M, Kubo M, Tanaka RJ, Mathematical Modeling of Atopic Dermatitis Reveals “Double switch” Mechanisms Underlying Four Common Disease Phenotypes, Journal of Allergy and Clinical Immunology (2017), doi: 10.1016/j.jaci.2016.10.026.