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12月2日のNHKニュースに思う

厚生労働省が指針を取りまとめ

2016年12月2日付のNHKニュースで、厚生労働省のアレルギー疾患対策推進協議会の様子が取り上げられていました。

協議会では、「アレルギー疾患対策の推進に関する基本的な指針(案)」が取りまとめられたとのことです。

ニュースの内容としては、アレルギー疾患は不適切な治療によって重症化することがあるため、科学的根拠に基づいた治療が必要であり、そのための医療体制の整備が必要とされている、というものでした。

このニュースは、指針案の次の記述をなぞるかのように構成されています。

インターネット等にはアレルギー疾患の原因やその予防法、症状軽減に関する膨大な情報があふれており、この中から、適切な情報を選択することは非常に困難となっている。また、適切でない情報を選択したが故に、科学的知見に基づく治療から逸脱し、症状が再燃や増悪する例が指摘されている。
このような中、国は、国民がアレルゲンの除去や回避を含めた予防の方法、症状軽減の方法等、科学的根拠に基づいたアレルギー疾患医療に関す
る正しい知識を習得できるよう、国民に広く周知すること並びにアレルギー疾患の発症及び重症化に影響する様々な生活環境を改善するための取組
を進める。 *1

実際に、ニュースでは、「適切でない情報を選択したが故に、科学的知見に基づく治療から逸脱し、症状が再燃や増悪する例」の実例を挙げるかのように、アトピー性皮膚炎の事例を紹介しています。

ニュースで取材を受けていたのはアトピー性皮膚炎患者の荻野美和子さんです。荻野さんは、生まれてすぐにアトピー性皮膚炎と診断され、ステロイド外用薬による治療を続けていたそうです。大学生の頃、ステロイドが効かなくなったと思い込み、ステロイドを使わないで治すとうたう医療機関を受診して重症化しました。しかし、その後、標準治療によって劇的に改善したとのことです。この場合、荻野さんが習得した「正しい知識」とは、アトピー性皮膚炎の標準治療ということになるでしょう。

ニュースはよくまとめられており、一見正論にみえるのですが、患者の一人としては、現実はもう少し複雑であるだろうと感じました。今回は、このニュースを題材に、その点を指摘したいと思います。

 

協議会における「正しい情報」

その前に、厚生労働省の協議会でどんな意見が提出されたのかを確認しておきたいと思います。

協議会は、アレルギー疾患対策基本法に基づき、アトピー性皮膚炎をアレルギー疾患の一つとして位置付けています。

(定義)
第二条  この法律において「アレルギー疾患」とは、気管支ぜん息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、花粉症、食物アレルギーその他アレルゲンに起因する免疫反応による人の生体に有害な局所的又は全身的反応に係る疾患であって政令で定めるものをいう。

アレルギー疾患対策基本法(平成二十六年六月二十七日法律第九十八号)

 

協議会の委員として、皮膚科からは、「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版」の作成委員長である、京都府立医科大学院医学研究科皮膚科学教授の加藤則人氏が出席しました。

アトピー性皮膚炎に関しては、加藤氏の意見が協議会の指針に大きく影響を与えるものと考えられます。そこで、加藤氏が提出した資料を一部抜粋して紹介します。

まず、最も重要なポイントであろうステロイド外用剤についてです。

加藤氏は、ステロイド外用剤の「正しい情報」として、適切な強さのものを適切な部位に適切な期間塗布して寛解維持する方法が一般的であるとしています。それにもかかわらず、副作用への過度の不安から適切な治療を実践できない例が多いと指摘しています。

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しかし一方で、次のようにも指摘しているのです。

重症・最重症アトピー性皮膚炎の場合は、特殊な外用療法や、シクロスポリン内服、抗体製剤(おそらくデュピルマブやネモリズマブ)などによる治療が必要であり、相当の専門的な知識とスキル、経験を有する医師・医療機関による管理が必要だとしています。

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専門的な知識がなければ手に負えない症例があるということです。これがアトピー性皮膚炎の治療における問題点のひとつといえるでしょう。

 

私は、このように、軽症や中等症のアトピー性皮膚炎と、重症や最重症のアトピー性皮膚炎は、区別して考えなければならないように思います。

それはつまり、軽症や中等症であれば、適切な強さのステロイド治療という「正しい情報」で解決できるかもしれませんが、重症や最重症となってしまうと「正しい情報」は役に立たないかもしれない、ということです。

さらに、推測ですが、重症や最重症となってしまった患者も、初めは「正しい情報」に基づいて治療していたのではないかと思われます。最初は「適切な強さ」のステロイドから始めたものの、長期使用するうちにだんだんとランクが上がり、ついにはステロイド重層療法やシクロスポリン内服に至る患者がいるものと思われるのです。

 

なお、喘息かアトピー性皮膚炎か、どの疾患に対する意見かわからないのですが、次のような意見もありました。

ステロイドの長期使用の影響に関する研究が必要。*2

 

あるアトピー患者の例について

前置きが長くなりました。以下、NHKニュースで取り上げられていた荻野さんのケースについて、ニュース記事を一部引用しつつ感想を述べます。

まず、次の一文。

荻野さんは「今は普通の生活を送ることができるようになったが、アトピーが悪化していたときは、ステロイドを使わなくても治るという医師の言葉を信じて大切な20代の5年半が暗いものになってしまった。誰もが適切な治療を受けられるような体制を整備してほしい」と話しています。

荻野さんにとっての適切な治療は、ステロイドを使う治療であったようです。

しかし、ステロイドを使う治療がすべての人にとって適切であるとは限らないと思います。

例えば、ステロイドを使わない治療によって、アトピー性皮膚炎の6か月後の症状が改善するケースもあります。この試験結果は論文にまとめられています。

 

論文へのリンク。

当ブログの過去記事へのリンク。


私が考えるアトピー性皮膚炎の適切な治療は、治療期間を生涯と仮定したうえで、患者のQOLが最も高くなる治療です。

短期的に炎症を抑えることのみが目的なら、私もステロイドを使うでしょう。けれども、過去にステロイド外用剤依存を起こしたことがあるので、重症・最重症のケースに移行する可能性があります。すると、寛解導入がより困難となり、経過が長期化し、おまけに医師から強力なステロイド、シクロスポリン、抗体製剤などを勧められることになります。結局、免疫抑制剤による対症療法が生涯続く可能性があります。これでは生涯、依存やリバウンドの不安を抱えて生きることになりかねません。

一方、ステロイドを使わない場合は、相対的に皮膚症状が良くないので日々のQOLは低いかもしれません。それでも、依存やリバウンドの不安がないので、長期的なQOLは高いと感じています。

ですから、私は、ステロイドや保湿剤は要らないといっても嫌な顔をされず、病状に応じて抗ヒスタミン剤や抗生物質、抗ウイルス薬などを処方してくれて、場合によっては紫外線治療なども受けられるような体制を整備してほしいと思います。

国が、ステロイド治療が「適切な治療」であると考えて医療体制を整備しようとしても、整備のしようがありません。もうすでに整備されているからです。アトピー性皮膚炎に対しては、99%の皮膚科でステロイドが処方されているのではないでしょうか。専門医を育成するといっても、つまるところ治療手段はステロイドの処方なのですから、大同小異です。

また、正しい情報を継続して伝えることが重要だと指摘されていますが、すでにメディア等で「ステロイドは安全である」と継続して伝えられています。

それでも、一部のアトピー性皮膚炎患者は、標準治療を行う医療機関を受診しようとしません。脱ステロイド医を受診したり、温泉に浸かったりしています。ステロイド漬けよりは温泉漬けの方がマシだと考えているのです。

アトピー性皮膚炎に関して厚生労働省が本気で対策を立てるなら、このあたりの事情をもっと理解する必要があります。

 

再びニュースから引用します。  

アレルギー疾患に詳しい医師や患者会などによりますと、アトピー性皮膚炎やぜんそくは、炎症を抑えるために、一時的にステロイドを使った治療が必要になることがありますが、副作用を避けようとしてステロイドを使わない治療を続けると重症化することもあるということです。

この文中の「一時的に」は嘘でしょう。一時的にではなく「定期的に」がより実態を表していると思います。

ステロイドを使った治療は対症療法なので、短期寛解に至らなかった場合は、定期的にステロイドを塗布する必要があります。

荻野さんも、定期的にステロイドを使用しているようです。荻野さんは日本アレルギー友の会に所属しており、同会のホームページにもしばしば登場しています。 

最近のレポートとして、主治医の江藤隆史氏と受診する荻野さんとの診察時のやりとりが紹介されています。

わたしは、江藤先生に診てもらって10年。今では3か月に1回の通院で十分にコントロールできます。

私:顔でもしばらくリドメックスを塗り続けても大丈夫ですか。

先生:良くなってきたらプロトピックに変えれば、しばらくは使っても大丈夫ですよ!

わたしの診察レポート 「明るい皮膚科」のスッキリ解決診察 | 認定NPO法人 日本アレルギー友の会

 

ステロイドを使う治療が「一時的」のケースもあるだろうし、 荻野さんのように10年以上「定期的」に続くケースもあります。もしかしたら生涯続くこともあり得るわけです。

ここは治療を選択するうえでの重要な情報なので、全てのケースが「一時的」であるかのように期待をもたせる報じ方は良くないと思います。

 

また、ニュースは「副作用を避けようとしてステロイドを使わない治療を続けると重症化することもある」と報じています。

この点、それまでステロイドを使用していた人が、方針を変えてステロイドを使わない治療を行うと重症化することはあると思います。

しかし、最初から全くステロイドを使わない治療をしていた場合に、同じ結果となるかどうかは精査が必要でしょう。思うに、それほど重症化することはないのではないでしょうか。協議会ではこうしたことを調査してほしいと思うのですが。

最近はステロイド治療が "適切な治療" として流布しているために、赤ちゃんのちょっとした湿疹、おむつかぶれなどにも安易にステロイドが処方されているようです。そして、一部の赤ちゃんで、何か月もステロイドを塗り続けているケースがあります。

もしかしたら、最初からステロイドを使わずにいたらきれいに治せたかもしれません。一方で、赤ちゃんにステロイドを塗り続けたあとに、ステロイドを使わない治療に変更すれば、重症化する可能性は高いと思います。

 

今回の厚生労働省の協議会と、それを報じるNHKニュースをみていると、アトピー性皮膚炎の適切な治療とは、すなわちステロイド治療であると考える人が多いようです。

しかし、それでも現場が混乱している現状があるのだから、やはりステロイドの長期使用による副作用の研究が必要であるし、メディアもそこに注目しなければならないと思います。

*1:第9回協議会資料「アレルギー疾患対策の推進に関する基本的な指針(案)」

*2:第6回アレルギー疾患対策推進協議会資料「これまでの主な意見のまとめ(第5回協議会まで)」