アトピー覚書ブログ

成人型アトピー 脱ステ・脱保湿患者のブログ

ステロイドバッシングは存在したのか

ステロイドバッシング説

アトピー性皮膚炎の標準治療を行う医師のなかには、1990年代、ステロイド外用薬を過剰に非難する「ステロイドバッシング」があったと主張する人たちがいます。

マスメディアが主導してステロイドバッシングが行われたため、多くのアトピー患者がステロイドを忌避するようになり、当時治療現場が混乱したとされています。

なかでも、1992年7月に放送されたテレビ朝日「ニュースステーション」による特集『「魔法」の薬 ステロイド剤の落し穴』が、ステロイドバッシングのきっかけとなったという話が流布しています。(外部サイト動画へのリンク Atopy and steroids in Japan in 1992 смотреть онлайн видео от Natasha0104 в хорошем качестве.

そして、90年代のステロイドバッシングは、今もなお影響力をもっているというのです。

「ステロイドは絶対に処方しないでください」

 アトピー性皮膚炎の子どもを持つ親たちが、口々に訴えかける。説明を尽くすと、午前中の診療はいつも午後2時、3時までかかった。

 日本アレルギー学会理事長で国立成育医療研究センター副研究所長の斎藤博久医師(小児科)が、1990年代初めに経験したことだ。なぜ、ステロイド外用剤を恐れる人が増えたのか。原因の一つに、そのころ過熱したメディアの「ステロイドバッシング」を挙げる医師は多い。

 金沢大学教授の竹原和彦医師(皮膚科)によれば、92年、テレビのニュース番組で1週間に及ぶステロイド特集が組まれ、副作用の危険性が喧伝されたことが一つのきっかけになったという。それから四半世紀近くが経つが、「ステロイドはアトピーの治療に必要な薬なのに、今でも『怖い』と誤解している患者は少なくありません」(斎藤医師)

*1

 

このステロイドバッシング説を広めたのが竹原和彦医師です。竹原医師は次のように主張しています。

90年代前半にはステロイドバッシングが本格化しました。その嚆矢となったTV番組の特集で、番組の最後に司会者はこう言ったものです。

 「ステロイドは大変な薬です。最後の最後まで使わないでください」と。

これで次の日から、「ステロイドは使わないでくれ」という患者が殺到しました。これ以降も新聞などで“薬害”として一方的に報道され、患者サイドに“ステロイドアレルギー”が起きてしまったかのようになったのです。*2

 

 

ステロイドバッシングは存在したのか

一人の患者として、上記のような "定説" に、違和感を感じざるを得ません。

私が自ら皮膚科を受診して初めてステロイド外用薬を処方してもらったのは、2000年代前半です。その当時、私は、ステロイド依存も、効果減弱も、リバウンドも、その他ステロイドに関する副作用について一切知りませんでした。90年代をずっと日本で過ごしていましたが、メディアでそのような情報を目にしたことはありませんでした。

また、アトピーに関わる民間療法についても全く知りませんでした。日本オムバスも温泉療法も知りませんでした。漢方による治療も聞いたことがありませんでした。

私がステロイド外用薬について、初めて恐怖を抱いたのは、使用しているうちに徐々にその効果が薄れてきたときです。その後まもなくリバウンドを経験して、自分がステロイドによる副作用を起こしていることを確信しました。ステロイドの副作用について真剣に調べ始めたのはそれからです。

つまり、メディアからの情報は一切なしに、民間療法に心惑わされることもなく、ひとえにステロイドの副作用を経験したことで、ステロイドへ恐怖を抱くようになったのです。したがって、私個人に関する限り、ステロイドバッシングが患者の恐怖を招いたとする説は誤りです。

 

メディアによるステロイドバッシングはあったのでしょうか。ここでは、「メディアによる」というところがポイントです。ステロイドバッシング説を主張する人々は、メディアのせいにしたいのかもしれません。

つまり、ステロイドの副作用のためにステロイドを怖がるようになったのではなく、メディアの誤った報道によってステロイドを怖がる人が増えたことにしたいのかもしれない、ということです。

そうすれば、ステロイドの副作用の実態から目を逸らせることができます。

 

さて、竹原医師によれば、ニュースステーションの特集が嚆矢となって90年代前半にステロイドバッシングが本格化し、それ以降も「新聞などで“薬害”として一方的に報道され」たそうです。

本当なのでしょうか。

 

新聞記事による検証

そこで、実際に新聞記事検索を行い検証してみました。

  • 対象
     全国紙4紙(朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、産経新聞)
  • 期間
     1991年1月1日から2000年12月31日
  • 検索方法
     「アトピー」,「ステロイド」,「薬害」をキーワードとするAND検索。
  • 結果(ヒット件数)
     朝日新聞2件
     毎日新聞2件
     読売新聞1件
     産経新聞0件

ヒットしたのは10年間で5件でした。すべてが、ステロイドバッシングとは認められない、アトピーに関わる活動や番組の紹介記事でした。

  • 朝日新聞の2件は、ビオチン療法の紹介記事と、テレビ番組「しのびよる薬害!?~急増するアトピー重症患者」の紹介記事。
  • 毎日新聞の2件は、江崎ひろこ氏による電話相談開設の紹介記事と、「アトピーのステロイド被害を考える会」結成の紹介記事。
  • 読売新聞の1件は、江崎ひろこ氏による電話相談開設の紹介記事。

 

次に、雑誌記事検索も行いました。

  • 対象
     大宅壮一文庫雑誌記事検索
  • 期間
     1991年1月1日から2000年12月31日
  • 検索方法
     「アトピー」,「ステロイド」,「薬害」をキーワードとするAND検索。
  • 結果(ヒット件数)
     0件

ヒットしたのは10年間で0件でした。 

 

この検証において、ステロイドについて「"薬害"として一方的に報道」した記事は1つも存在しませんでした。

 

脱ステロイドバッシング 

他方で、面白いことがありました。

雑誌記事検索の結果が0件というのも、あまりな結果なので、検索キーワードを、

「アトピー」,「ステロイド」,「被害」

として、AND検索にて再検索してみたのです。

 

すると、次の4件の記事がヒットしました。 

  • 笠本進一, アトピー性皮膚炎、不適切治療で重大な被害続出 皮膚科学会が防止に本腰, サイアス, 1999年6月, 22-23.
  • 渡辺勉, 専門医が警告!「ステロイドの恐怖」で儲けるアトピー商法,  サンデー毎日, 1999年3月21日, 23-25.
  • 竹原和彦, アトピー性皮膚炎 ステロイド外用薬 誤解が生んだ「悪魔の薬」伝説 被害続出の民間療法の温床に, サイアス, 1999年1月, 26-27.
  • 笠本進一, アトピー性皮膚炎 ステロイド外用への誤解を背景に、氾濫する民間療法で被害が続出, サイアス, 1998年10月2日, 4-5.

 

1998年以降、民間療法や脱ステロイドなどを不適切治療として批判する記事が4件ヒットしたのです。

つまり、「ステロイドバッシング」の記事は見つからなかったのですが、「脱ステロイドバッシング」の記事は見つかったということです。

「ステロイドバッシング」はなかったけれども、「脱ステロイドバッシング」は存在したことが示唆されます。

 

メディアによる自己検証が必要

思うに、こうした検証は、メディアこそが行うべきなのではないでしょうか。

ステロイドバッシングを行ったとされるメディア自身が、ステロイドバッシングの検証を行い、反省すべき点を明らかにする必要があります。ことによると、いわれなき批判に対して反論する結果になるかもしれません。

この点、最近のメディアによるアトピー関連の報道をみていると、ステロイドバッシングを所与の事実として受け止めているようにみえます。

先に引用したAeraの記事にも、

そのころ過熱したメディアの「ステロイドバッシング」

とあり、断定的に記述しています。Aeraはステロイドバッシングを事実として認めてしまっているのです。

確かに、検証には時間がかかるでしょうし、ひとつの記事のためにわざわざその時間を費やしたくないという気持ちはわかります。

とはいえ、1990年代にメディアの「ステロイドバッシング」があったとする主張は仮説なのですから、せめて仮説と事実を明白に識別して記述する努力は怠ってはならないと思います。

ステロイドバッシングに限らず、現状として、メディアがまったく検証を行わないまま日本皮膚科学会の主張をそのまま垂れ流していることは残念なことです。厚生労働省のお墨付きを得た標準治療の方針に沿う報道をしていれば、批判を受けることはないと考えているのでしょう。

しかし、アトピー性皮膚炎の現場を丹念に調べてみれば、何かただならぬことが起きていると感じるはずです。有能な記者であれば、標準治療の医師のみ取材して記事を書くことがいかに危ういことか、気付くはずです。そろそろ日本皮膚科学会の広告記事を書くような楽な仕事から卒業するべきです。

 

f:id:atopysan:20160907231414j:plain

 

医師は責任転嫁すべきでない

私は、90年代に、メディアによるステロイドの副作用についての報道は存在したけれども、メディアによるステロイドバッシングの報道は存在しなかったと考えます。一方で、脱ステロイドバッシングは存在したと考えます *3

要するに、この20年間というもの、ことマスメディアにおいては、「ステロイドは怖くない」というキャンペーン記事が繰り返し掲載され、ステロイドを使わないことは危険であると指摘され続けてきたのです。

 

それでも、ステロイドを怖がる患者は減っていません。その理由について、真偽の定かでないステロイドバッシング説を安易に採用してしまう医師(特に皮膚科以外の医師)がいることも問題です。

常識的に考えて、現時点において、存在したかどうかも不確かな20年前の言説を信じている患者がいるでしょうか。それよりも、ここ20年の「ステロイドは怖くない」とするメディアの記事を目にした患者の方が大多数のはずです。

ステロイドを怖がる患者がいる理由をメディアのせいにしようとする医師は、メディアに責任転嫁をしている点において、また、ステロイドの副作用に対して真摯に向き合わない点において、不誠実であるといわざるを得ません。 

 

 ステロイドバッシングが起きたのは2000年前後?

(※2017年2月12日追記)

ステロイドバッシング説に関して、竹原医師の "新しい判断" がありました。

竹原医師が2017年のNHKラジオ番組「NHKジャーナル」(2017年2月8日放送)に出演した際に、ステロイドバッシングが行われたのは、1990年代ではなく、2000年前後であると発言したのです。

発言部分を引用します。

キャスター:ステロイドが怖いというイメージというのが染みついたのにはですね、やはり気軽にステロイド出しすぎた医療側の責任というのは結構大きいんじゃないですか?

竹原和彦氏:プラス、メディアの責任もあると思います。

キャスター:それはどういう?

竹原和彦氏:いわゆる1990年代、えー、2000年、すいません、2000年前後に激しいステロイドバッシングというのがメディアで起こって、それが患者さんの心を今なお傷つけていると思い、日々の診療でそれを正すべくがんばっています。

竹原氏は、これまでステロイドバッシングが起こった時期については、「1990年代」と明言してきました。それが、急に今になって、「2000年前後」と主張を改めたのです。

番組では、「1990年代」と発言したあとで、言葉につまり、わざわざ「2000年前後」と言い直しています。

推測ですが、1990年代に流布した考え方が今も流布しているとは誰も信じないであろうから、2000年前後という、比較的最近起きたことにして、ステロイドバッシング説に信憑性をもたせようとしたのではないでしょうか。

しかしながら、先述したように、2000年前後の時期は、「ステロイドバッシング」ではなく「脱ステロイドバッシング」が起きた時期であるというのが事実です。

結論として、このラジオ番組の発言により、竹原氏のいうステロイドバッシングが、竹原氏の頭の中でこしらえられた仮説である可能性が限りなく高いことが露わになったといえます。

 

 

なお、ニュースステーションのステロイド特集については、深谷元継医師の記事が詳しいです。

*1:直木詩帆, 知識 患者を惑わせる五つの"誤解" : 根拠のない俗説に振り回されない. Aera, 2016.03.07. 21-23.

*2:難病でも不治の病でもないアトピー性皮膚炎医療の混乱はなぜ起きたか? (2009.6.18)

*3:竹原和彦,飯塚一,伊藤雅章ほか:アトピー性皮膚炎における不適切治療による健康被害の実態調査,日皮会誌,110 : 1095―1098, 2000.