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水素とアトピー性皮膚炎

水素の治療効果

水素水がブームになっているようです。

大手飲料メーカーの水素水がコンビニに陳列され、大手家電メーカーの水素水生成器が販売され、健康のために水素を取り入れている有名人が紹介されたりしています。

 

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水素水が注目を浴びるようになったのは、日本医科大学教授の太田成男氏らが、2007年、Nature Medicineに発表した次の論文が端緒であるといわれています。

Ohsawa I et al. Hydrogen acts as a therapeutic antioxidant by selectively reducing cytotoxic oxygen radicals. Nature Medicine 13, 688–694 (1 June 2007).

水素が治療に応用できる可能性があるという論文です。

H2 can be used as an effective antioxidant therapy; owing to its ability to rapidly diffuse across membranes, it can reach and react with cytotoxic ROS and thus protect against oxidative damage.

水素は、膜を横断して速やかに拡散する能力をもち、細胞毒性作用をもつ活性酸素に到達し反応して酸化的損傷を防ぐことができるため、有効な抗酸化治療として利用され得る。*1

水素は抗酸化作用をもち、体を酸化させるとされる活性酸素を選択的に減らすことができるため、水素を体に取り入れることで治療効果が得られる、ということのようです。

この論文発表の後、水素を医学に応用するための研究が盛んになったようです。中部大学教授の市原正智氏は、論文に次のようにまとめています。

Therapeutic effects of molecular hydrogen for a wide range of disease models and human diseases have been investigated since 2007. A total of 321 original articles have been published from 2007 to June 2015. Most studies have been conducted in Japan, China, and the USA. About three-quarters of the articles show the effects in mice and rats. The number of clinical trials is increasing every year.

2007年以来、広範な疾患モデルおよびヒト疾患に対する水素分子の治療効果が研究されている。合計で321の原著論文が2007年から2015年6月までの間に発表された。研究の多くは、日本、中国、アメリカで行われている。論文の約4分の3はマウスやラットにおける効果を示している。臨床試験の数は毎年増え続けている。*2

 

これらの研究により導き出された水素の治療効果は、どのように評価されているのでしょうか。

アメリカで発表された水素に関する総説論文は、ヒトの病気の動物モデルにおける水素の効果をレビューした結果、水素が様々な疾患に有用であると結論しています。

Molecular hydrogen has proven useful and convenient as a novel antioxidant and modifier of gene expression in many conditions where oxidative stress and changes in gene expression result in cellular damage.

水素分子は、新たな抗酸化作用物質として、また、酸化ストレスや細胞障害を起こす遺伝子発現変化が生じている多くの疾患の遺伝子発現修飾因子として、有用で便利であることを証明した。*3

最近は、動物実験だけでなく、ヒトを対象とした二重盲検試験も徐々に増えてきています。

 

水素の治療効果への疑義

一方で、水素の治療効果について、慎重な意見もあります。

水素が患部に本当に到達するのかどうか、また、活性酸素の除去によりどのようなメカニズムで疾患が治癒するのかなどの未解明の部分があること。また、ヒトにおける臨床試験のデータが少なくエビデンスがあるとはいえない、などの指摘があります。

 

例えば、明治大学教授の石川幹人氏は、TBSラジオ『荻上チキ・Session-22』に出演した際、水素水の抗酸化作用について、次のように説明しています。

荻上氏:抗酸化作用があるというふうな主張、ということなんですけれども、抗酸化作用というのはどういう作用だというふうに主張されているんですか?

 

石川氏:はい、体の中で、そういった酸素に関わる、悪さをするとされるものをブロックする、抗酸化の抗というのはブロックするという意味ですね、そういう作用があるとされているんですね。

ただあの、水素にそういうような作用がありそうだという研究はあります。例えば、試験管の中で、細胞にそういった水素の作用で抗酸化物質が減らせたというような研究はあるんですけれども、そういった細胞のレベルで現象がつかめたとしても、動物の体ではどうなのか、ましてや人間の体ではどうなのか、となりますと、またこれはかなり研究を積まないといけないんですね。

その研究を積んだレベルにまだなっていないので、一般の市民の方に応用する段階ではないと、こういうふうに判断できるんです。(中略)

どういうメカニズムでどのように働くからどのぐらいの量が必要だとか、こういう人にはこのぐらいの量でいいけれども、この症状にはこのぐらいの量が必要だなどということを、理論化していかないと実際には使えないんですね。

なんか調子悪いけどどれぐらい飲んだらいいんですか、というときにですね、解答がないわけですね。*4

 

また、法政大学教授の左巻健男氏は、活性酸素がおしなべて悪影響を及ぼすわけではないことを指摘しています。 

活性酸素というと、すべてが悪者で全部消してしまえばいいと誤解されがちですが、実はさまざまな種類の活性酸素が存在しています。活性酸素は、悪さをするばかりではないのです。

さまざまな細菌やウィルスなどの病原体が、呼吸をするたびに大量に体内へ侵入してきます。しかし、それでも簡単に病気にならないのは、「免疫」という防御システムがあるからです。その防御システムに活性酸素がはたらいている部分があります。活性酸素を武器にして、体内に侵入する細菌やウィルスと戦っているのです。つまり、活性酸素は私たちの身体を守る強力な武器でもあります。*5

むしろ免疫システムにとっては、活性酸素は必要であるとしています(ただし、水素は悪玉活性酸素のヒドロキシルラジカルのみを選択的に減らすと主張されています)。

さらに、左巻氏は、そもそもヒトは水素を自ら作り出している、とも指摘します。 

あまり知られていないかもしれませんが、実は、私たちの体内では日々水素が多量につくられています。大腸には水素産生菌がいて、水素を産生しているのです。(中略)

おならとして外部に出る以外は体内に吸収されて血液循環に乗っていきます。これは、水素水から摂取する水素量と比べてはるかに多量です。筆者は、その研究などの進展も見守ろうという立場です。ヒトの大規模な臨床試験で問題がなく、効果があるという結果が出るまで、水素水には手を出さないほうがよいと思います。*6

体の中で水素が作られているのだから、効果があるかわからない水素水などを外部から取り入れる必要はないであろう、というわけです。

 

水素が活性酸素を減らすとしても、ヒトの健康にどう影響するかはわからないので、行政は注意を呼びかけています。

国民生活センターは、今年、市販の水素水生成器について注意喚起を行いました。センターは、水素水生成器のなかには確かにヒドロキシルラジカルを大幅に消去する能力をもつものがあるとしたうえで、その水を飲んでも体内のヒドロキシルラジカルを消去するかは明らかでないと、消費者にアドバイスしています。そして、事業者に対しては、その水にどのような効果があるのかを明確にするよう要望しました。

 

国立健康・栄養研究所も、健康食品の素材情報データベースに「水素水」の情報を掲載しています。

現時点においては、要約すると次の3点を指摘しています。

  • 「活性酸素を除去する」などと言われているが、ヒトでの有効性について信頼できる十分なデータが見当たらないこと。
  • 水素水研究のほとんどが疾病患者を対象としているため、その研究結果が(健常者が飲む)市販水素水の有効性の根拠とはいえないこと。
  • 水素分子は腸内細菌によって体内でも産生されているので、その量も考慮すべきこと。

 

以上をまとめると、水素による治療効果ついては、その有効性を示唆する研究はあるものの、ヒトで明らかに有効であるというには十分なデータがない、といえそうです。

 

水素のアトピーに対する効果

さて、水素による治療は、アトピー性皮膚炎に対して効果はあるのでしょうか。

 

先に紹介した中部大学の市原氏の論文において、2007年から2015年の間に発表された水素の効果を調べた原著論文のうち、「アトピー性皮膚炎」に関するものは2報ありました。

2報とも韓国の同じ研究グループによるものです。ひとつはこちら。

Yoon et al. Positive Effects of Hydrogen Water on 2,4-Dinitrochlorobenzene-Induced
Atopic Dermatitis in NC/Nga Mice. Biol. Pharm. Bull. 37(9) 1480–1485 (2014).

アトピー性皮膚炎のような皮膚炎をもつマウスに水素水を飲ませたところ、アトピー性皮膚炎の指標となるTARCやIgEなどの測定数値が有意に低下したとしています。

もうひとつはこちらです。

Ignacio RM et al. The Drinking Effect of Hydrogen Water on Atopic Dermatitis Induced by Dermatophagoides farinae Allergen in NC/Nga Mice. Evid Based Complement Alternat Med. 2013;2013:538673.

アトピー性皮膚炎のような皮膚炎をもつマウスに電解水素水を飲ませたところ、血中サイトカインなどのレベルが有意に減少したとしています。

このように、マウスの皮膚炎に対してはある程度の効果が観察されたようですが、これら報告のみでは、ヒトのアトピー性皮膚炎に対する効果はよくわかりません。

 

ところで、Yoonらの論文に気になる記述がありました。それは、活性酸素や酸化ストレスなどの言葉を用いて、それらをアトピー性皮膚炎と関連付けようとしていることです。

これは、水素の治療効果が活性酸素を減らすことにあるとすれば、活性酸素がアトピー性皮膚炎の原因でなければ理屈が通らないからだと思われます。

AD is characterized by an impairment of the skinbarrier function, increased oxidative stress, and dysfunctional immune system. Intense infiltration of inflammatory cells release bioactive substance such as cytokines, chemokines, and reactive oxygen species (ROS).³⁾

アトピー性皮膚炎は、皮膚バリア機能障害、酸化ストレスの増加、免疫システム機能不全によって特徴づけられる。炎症細胞の高度浸潤は、サイトカインやケモカイン、活性酸素種などの生物活性物質を放出する。

(中略)

Together, oxidative stress such as increased ROS and lipid peroxidation is evident in any stage of AD.⁸⁻¹⁰⁾ 

活性酸素種の増加や脂質化酸化反応のような酸化ストレスは、アトピー性皮膚炎のいかなる段階でも明らかである。*7

私は、アトピー性皮膚炎に関する論文で、もちろん大量に目を通しているわけではありませんが、これらの言葉を初めて目にしました。ですから、率直に言って、にわかには理解し難い感じが印象として残りました。

 

この点について他の情報を探してみると、太田成男氏が、自身のウェブサイトで次のように解説していました。 

何故水素が炎症を拡大するサイトカインを減らすのか分からない点もたくさんあります。また、炎症作用と抗酸化作用の関係も分からない点がたくさんあります。

まだまだ分からない点がありますが、水素には抗炎症作用があることは確かです。*8

水素は抗酸化作用をもち、よくわからないけれども、サイトカインを減らす抗炎症作用もある、ということだそうです。

 

活性酸素がアトピー性皮膚炎に影響するという理論はあるものの、理論が証明されたといえるほどの研究成果があるのか。抗炎症作用といっても、重症アトピー性皮膚炎の皮疹も回復させるのか。疑問点は残ります。

そもそも活性酸素のみがアトピー性皮膚炎の原因なのでしょうか。活性酸素は、皮膚バリア機能や異常をきたした免疫システムにどう影響しているのでしょう。

免疫システムひとつとっても、IL-4があやしいなどの話はありますが、どのようにアトピー性皮膚炎に影響しているか明らかではないのが現状です。

よくわからないけど、効果があるから使ってしまえ、というのならば、ヒトに勧める前に、ヒトで十分に試験をしてもらいたいところです。

 

いずれにせよ、水素のヒトのアトピー性皮膚炎に対する効果はよくわかっておらず、研究も動物実験の初期段階にあります。つまり、現時点では十分なデータがない、ということになるかと思います。

 

水素風呂のススメ?

さて、水素水を飲むよりも、より効率的に水素を体に取り入れることができるとされる水素風呂なるものがあります。

水素を発生するというパック型入浴剤を風呂の中に入れ、皮膚から全身に水素を取り込もうというわけです。

順天堂大学医学部付属順天堂医院の水素風呂の研究において、研究に協力したアトピー性皮膚炎患者の症状が改善し、それがテレビ番組で紹介され話題となりました(健康カプセル!ゲンキの時間|CBCテレビ|アーカイブ)。

番組を見る限り、確かにこの患者さんには効果があったようです。研究を行った韓哲舜氏は、水素風呂について次のように述べています。

少人数で行った研究では、皮膚の蒸散量低下の傾向が見られ、かゆみが減り、赤みが抑えられていた。アトピー肌では、炎症と活性酸素の発生の2つが起こり、互いに関連して症状が悪化すると推測される。水素にはこれら2つを抑える効果があると思われる。*9

ただ、研究が少人数であること、テレビで紹介された患者さん以外の結果が不明であること、研究結果が論文としてまとめられていないことなど、留意点は残ります。

 

この番組を受けて、太田成男氏が、自身のウェブサイトで注意喚起を行っています。

いままでは、特定の商品を紹介するのを控えていましたが、今回のテレビ番組を見て、水素入浴製品と思って有害品をつかったために、かえってアトピーを悪化させてしまう懸念がありますので、例外的にお知らせします。

(1) まず、水素を発生させる素材で、化粧品成分として登録されているのは、MgH2(水素化マグネシウム)だけです。

(中略)

(2)有害成分NaBH4(水素化ホウ素ナトリウム)を使って水素を発生させている商品もあるので、注意しましょう。悪質なことに、販売社は、有害成分の成分を表示しないので、消費者が見分けるのは困難です。現在の目安としては、「安かろう、悪かろう」です。MgH2と書かれてなのは、NaBH4の可能性が高いです。*10

水素入浴剤のなかには有害成分が配合されているものもあるようです。水素を発生させる方法にも注意を払う必要がありそうです。

 

一方、アトピー性皮膚炎を対象とした研究ではありませんが、水素入浴による抗炎症作用を調べたところ、主効果が観察されなかったとする報告もあります。

本研究では,水素入浴の影響を調査するための副次的な評価項目として,炎症マーカー(IL-6, IL-17a)の測定を行った.しかしながら,これらの項目において,試行による主効果は観察されなかった*11

そして、炎症反応を抑制するための効果的な水素入浴条件について更なる検討が必要だとしています。

 

また、水素風呂の利用に関しては、効果云々以前の注意点があります。

国民生活センターに、ここ数年、水素を発生するというパック型入浴剤によるやけどなどの危害・危険情報が寄せられているからです。

同センターが入浴剤をいくつか調査したところ、入浴剤を湯につけるとすぐに入浴剤の表面が90℃程度の高温となることがわかりました。

入浴剤はケースに入っていますが、子供の指がケースの隙間に入る可能性があること、また、高温のまま湯から取り出すと蒸気が発生するなど、やけどを負う可能性があることを指摘しています(発熱反応を伴い水素を発生するというパック型入浴剤−使い方によっては、やけどのおそれも−(発表情報)_国民生活センター)。

 

水素の効能効果表示と広告

この水素を発生するというパック型入浴剤をめぐっては、危険情報だけでなく、表示・広告も問題となりました。

インターネット広告等において、効能効果に該当すると考えられる表示がなされていたのです。 

なかには、アトピー性皮膚炎への効能効果をうたった表示もありました。

 

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(このインターネット広告はすでに表示を修正しています。)

 

この水素入浴剤は、アトピー性皮膚炎への効果が国から認められた医薬品ではないので、その効能効果等を表示して広告をすることは禁じられています。

国民生活センターは、これらのインターネット上の広告表示について、医薬品医療機器等法に抵触するおそれがあるとし、厚生労働省に対して、必要に応じ事業者を指導するよう要望しました。

 

効能効果と機能性の表示

水素関連商品を検討するうえで、この問題は大変重要だと考えます。以下、詳しくみていきたいと思います。 

 

国の認可または基準を満たすことにより認められた範囲で効能効果等を表示できるのは、「医薬品」「医薬部外品(いわゆる薬用化粧品を含む)」「化粧品」等です。

食品の機能性を表示できるものには「保健機能食品」があります。「特定保健用食品」「栄養機能食品」「機能性表示食品」の3つです。

一般食品は、もちろん機能性を表示できません。また、保健機能食品以外で医薬品的な効能効果を標ぼうした食品は「いわゆる健康食品」(無承認無許可医薬品)などと呼ばれ、行政が対応に苦慮しています(ステロイドが含有された健康食品など)。

 

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効能効果・機能性について、認可等を受けていなかったり、範囲をこえた表示を標ぼうして広告をすると、医薬品医療機器等法などの法令に違反するおそれがあります。

 

水素入浴剤の広告規制

では、水素入浴剤は、法律上、何に該当するのでしょうか。

医薬品であった六一〇ハップなき今、現在流通している浴用剤は、

「医薬部外品」・・・薬用入浴液など。

「化粧品」・・・浴用化粧料など。

「雑貨」・・・入浴剤など。医薬品医療機器等法の対象外のもの。

のいずれかに分類されると思われます。

そして、水素入浴剤は、このうち「化粧品」か「雑貨」のどちらかで販売されていると思われます。

 

まず、水素入浴剤が「化粧品」として販売されていた場合を検討します。

医薬品医療機器等法における「化粧品」の定義は次の通りです。

「化粧品」とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なものをいう。

医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律より抜粋

この化粧品の効能効果の範囲について、医薬品等適正広告基準は、「薬事法の施行について」(薬発第44号)の第一3(3)に定める範囲をこえないものとするよう定めています。

「薬事法の施行について」には、化粧品の効能の範囲を別表第一のとおりとする旨記載されています。別表第一には56効能が列挙され、例えば次のようなものがあります。

皮膚を清浄にする。
皮膚を保護する。乾燥を防ぐ。
皮膚にうるおいを与える。
肌を整える。

「薬事法の施行について」(薬発第44号)別表第一より抜粋

「化粧品」としての水素入浴剤は、こうした効能の範囲をこえた表示を標ぼうして広告できません。

したがって、アトピー性皮膚炎への効能効果をうたうこともできません。「化粧品」は、「医薬品」のように疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされているものではないからです。

 

次に、水素入浴剤が化粧品ではなく「雑貨」として販売されていた場合です。

色や香りを楽しむなどの雑貨としての入浴剤は、医薬品医療機器等法の対象外とされます。人の身体に対する作用は標ぼうできません。当然、アトピー性皮膚炎への効能効果は表示できません。

 

それでは、「化粧品」や「雑貨」としての水素入浴剤を、アトピー性皮膚炎に効果があるなどと表示をして広告をすると、どうなるのでしょうか。

疾病の治療又は予防を目的とする効能効果は、医薬品的な効能効果に該当します。ところが、水素入浴剤は、現時点で「医薬品」として国の承認許可を受けていません。すると、その水素入浴剤は無承認無許可の「医薬品」に該当すると判断され、承認前の「医薬品」を広告したものとみなされるおそれがあります。

承認前の医薬品の広告をすることは、医薬品医療機器等法68条に違反します。

承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止

第68条  何人も、第14条第1項、第23条の2の5第1項若しくは第23条の2の23第1項に規定する医薬品若しくは医療機器又は再生医療等製品であつて、まだ第14条第1項、第19条の2第1項、第23条の2の5第1項、第23条の2の17第1項、第23条の25第1項若しくは第23条の37第1項の承認又は第23条の2の23第1項の認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない。

医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律より抜粋 

 

このほかにも、医薬品等(化粧品を含む)の広告については、様々な制限・禁止事項が設けてられています。

例えば、化粧品の効能効果等または安全性が確実である保証をするような表現を禁止しています。

医薬品等の効能効果等又は安全性について、具体的効能効果等又は安全性を摘示して、それが確実である保証をするような表現はしないものとする。

医薬品等適正広告基準より抜粋

医薬品等において、効能効果に関わる「使用体験談」「使用前後図・写真」等を掲げることは、効能効果が確実であるかの誤解を与えるため認められていません。

 

これは、具体例をみるとイメージしやすいかもしれません。

東京都福祉保健局のウェブサイトには、医薬品医療機器等法に違反する化粧品等の不適表示・広告例が掲示されています。

赤字部分が医薬品医療機器等法上の違反字句です。

広告例

当社の△△化粧品をご使用中の方から次の声が寄せられています。
◎東京都在住 ○坂 ×子(28歳)
私が△△化粧品とめぐり会ったのは5年前。ちょうど肌あれに悩んでいた頃です。△△化粧品を塗ると肌あれを防ぐことができるんです!これはいいと友達にも紹介したところ本当によく効くと喜んでいます。有り難うございました。*12

 

インターネット広告の不適例です。

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効能効果等についての虚偽又は誇大な記事や、保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告することは、医薬品医療機器等法66条に違反します。

(誇大広告等)

第66条  何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。
2  医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の効能、効果又は性能について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布することは、前項に該当するものとする。

医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律より抜粋

 

水素水の広告規制

それでは、水素水には広告規制はあるのでしょうか。

水素水は、水素という食品添加物が添加された食品です。現時点では、医薬品等でもなく、保健機能食品でもありません。したがって、効能効果や機能性を表示することはできません。

このような水素水について、アトピー性皮膚炎に効果があるなどと表示をして広告をすると、無承認無許可の「医薬品」を広告したものとみなされるおそれがあります。

「無承認無許可医薬品の指導取締りについて(薬発第476号)」が定める「医薬品の範囲に関する基準」によれば、人が経口的に服用する物について、インターネット等の広告等によって「疾病の治療又は予防を目的とする効能効果」が表示説明されている場合は、医薬品的な効能効果を標ぼうしているものとみなされ、原則として医薬品とみなされるのです。

2 医薬品的な効能効果の解釈

その物の容器、包装、添付文書並びにチラシ、パンフレット、刊行物、インターネット等の広告宣伝物あるいは演述によって、次のような効能効果が表示説明されている場合は、医薬品的な効能効果を標ぼうしているものとみなす。また、名称、含有成分、製法、起源等の記載説明においてこれと同様な効能効果を標ぼうし又は暗示するものも同様とする。

(一) 疾病の治療又は予防を目的とする効能効果

(二) 身体の組織機能の一般的増強、増進を主たる目的とする効能効果
ただし、栄養補給、健康維持等に関する表現はこの限りでない。

(三) 医薬品的な効能効果の暗示

医薬品の範囲に関する基準より抜粋

先程述べた通り、承認前の医薬品の広告をすることは、医薬品医療機器等法68条に違反します。

 

広告の該当性と罰則 

上記のように、無承認医薬品の水素水や水素入浴剤を広告したり、水素入浴剤(化粧品)の効能効果等が確実である保証をした記事を広告したりすると、医薬品医療機器等法違反となるおそれがあります。

同法66条および68条は、その対象を「何人も」としているので、水素水や水素入浴剤の製造・販売業者のみならず、インターネット上で紹介している個人・法人も対象となります。

 

では、どんなものが「広告」にあたるのでしょうか。

広告の該当性を満たす三要件は次の通りです。

1.顧客を誘引する(顧客の購入意欲を昴進させる)意図が明確であること

2.特定医薬品等の商品名が明らかにされていること

3.一般人が認知できる状態であること

薬事法における医薬品等の広告の該当性について(医薬監第148号)より抜粋

このいずれの要件も満たす場合、広告に該当するものと判断されます。

 

広告に該当すれば、医薬品医療機器等法66条もしくは68条違反となり、違反者に対しては罰則があります。

第85条  次の各号のいずれかに該当する者は、2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

4  第66条第1項又は第3項の規定に違反した者
5  第68条の規定に違反した者

医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律より抜粋

 

水素ビジネスの是非

水素の効果に関して、新聞紙上で論争が起きるなど、効果を主張する人たちがいる一方、懐疑的な姿勢をもつ人たちもいます。

私は、水素に関する研究はどんどん進めてもらったら良いと思いますし、一方で、それら研究がどれくらい信頼できるものなのかを科学的に評価し、社会に知らしめることも大切だと思います。

 

問題は、疑似科学論争とは次元を異にする、研究途上の水素をビジネスにしようとする人たちの存在であると思います。

水素に効果があるかもしれないとする研究が出るや否や、水素に関連づけた商品によって経済的利益を得ようとする人々です。

こうした人々が、とにかく水素には効果があるというような誇大な広告をすることで、水素は疑似科学ではないかとの世間の不信感が高まり、ひいては水素研究の妨げとなるように思います。

 

水素のヒトのアトピー性皮膚炎に対する効果はよくわかっていません。医薬品としては未だ認可されていません。 

現時点では、用量・用法も、アトピーのどんな症状に効くかもわからないのに、なぜ水素をアトピー性皮膚炎患者に勧める人たちがいるのでしょうか。

水素自体に副作用はないかもしれません。しかし、例えば医師の診察を受ける機会を逸し、従前に受けていた薬物治療を受けないことにより症状を悪化させるリスクもあります。

 

重要なことは、健康という、人にとって本当に大切なものに関わることだということです。お金が儲かれば、他人の健康などどうでもよいのでしょうか。

アトピー性皮膚炎に対する有効性や安全性が確認されていない商品を、販売したり他人に勧めたりして、それを使用した人が健康を害したら、どのように責任をとるつもりなのでしょうか。

責任をとるつもりがない人たちがあまりに多いので、法は、承認前医薬品の広告等を禁じ、罰則まで設けているのでしょう。

商品を売り上げて企業を存続させることに拘泥するあまり、規範意識が欠落しているのでしょうか。 企業であれば、企業コンプライアンスや、企業の社会的責任が問われてしかるべきです。

 

以上、長文となりましたが、案外、次のツイートを紹介するだけで十分だったかもしれません。

 

(本稿は信頼できると考えられる情報に基づいて作成しておりますが、その正確性や完全性を保証するものではありません。)
(当サイトはいかなる治療法をも推奨するものではありません。また、当サイトに掲載されている情報を利用することにより発生したいかなる損害についても責任を負うものではありません。)
(引用部分の翻訳および赤字による強調表示は東京都作成の資料を除き当サイトによります。正確な翻訳を期していますが、正確性を保証するものではありません。)

*1:Ohsawa I et al. Hydrogen acts as a therapeutic antioxidant by selectively reducing cytotoxic oxygen radicals. Nature Medicine 13, 688–694 (1 June 2007).

*2:Ichihara M et al. Beneficial biological effects and the underlying mechanisms of molecular hydrogen - comprehensive review of 321 original articles -. Medical Gas Research (2015) 5:12.

*3:Nicolson GL et al. Clinical Effects of Hydrogen Administration: From Animal and Human Diseases to Exercise Medicine. International Journal of Clinical Medicine, 2016, 7, 32-76.

*4:TBSラジオ『荻上チキ・Session-22「なぜ人は疑似科学にはまるのか?」』(2016年5月20日放送)より

*5:左巻健男 (2015), 水の常識ウソホント77, 平凡社.

*6:左巻健男 (2015), 水の常識ウソホント77, 平凡社.

*7:Yoon et al. Positive Effects of Hydrogen Water on 2,4-Dinitrochlorobenzene-Induced Atopic Dermatitis in NC/Nga Mice. Biol. Pharm. Bull. 37(9) 1480–1485 (2014).

*8:水素の抗炎症作用について | 太田成男のちょっと一言

*9:日経ヘルス, 2016年4月号.

*10:「元気の時間」(TBS系12月13日7:00〜7:30)の水素入浴:有害物に気をつけて | 太田成男のちょっと一言

*11:Kawamura T et al. Effects of hydrogen bathing on exercise-induced oxidative stress and delayed-onset muscle soreness. Jpn J Phys Fitness Sports Med, 65(3): 297-305 (2016).

*12:使用体験談、使用前後図・写真について 東京都福祉保健局