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アトピー覚書ブログ

成人型アトピー 脱ステ・脱保湿患者のブログ

PDE4阻害薬クリサボロール

アナコア社のクリサボロール

最近、新たなPDE阻害薬のエキサイティングな出現とともに、掻痒および炎症の基礎コントロールにおける関心が高まっている。*1

このようにコメントを寄せているのは、かの有名なHanifin氏です。アメリカでは、新たなアトピー性皮膚炎の外用治療薬として、PDE(ホスホジエステラーゼ)阻害薬が注目を浴びているようです。

 

各製薬会社が開発しているPDE4阻害薬のうち、実用化に最も近いとみられるのがCrisaborole(クリサボロール)です。

クリサボロールを開発しているのは米Anacor Pharmaceuticals(アナコア・ファーマシューティカルズ)社です。

なお、今年、アナコア社は米Pfizer(ファイザー)社により買収されましたので、クリサボロールが上市されれば、ファイザー社の販売網に乗せられることになるでしょう。

クリサボロールとはどのような薬なのでしょうか。アナコア社によるクリサボロールの説明は次の通りです。

クリサボロール外用軟膏2%は、軽症から中等症アトピー性皮膚炎の治療候補として開発されている、治験中の非ステロイド性局所抗炎症PDE4阻害薬です。クリサボロールは、新しいホウ素含有小分子であり、特異的作用メカニズムが完全には明らかでないものの標的細胞のPDE4を阻害すると考えられ、アトピー性皮膚炎の兆候や症状を引き起こすとされる炎症性サイトカインの産生を抑制します。*2

 

アナコア社はすでにクリサボロールの米FDAへの認可申請を済ませており、現在FDAの審査中です。アナコア社によれば、処方薬ユーザーフィー法(PDUFA)に基づくFDAレビューの審査期限は2017年1月7日とのことです。

(※各製薬会社のPDE4阻害薬についての記事 → PDE4阻害薬とアトピー性皮膚炎) 

 

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Chemical structure of crisaborole

 

クリサボロールの第3相治験結果

今年2016年7月には、アトピー性皮膚炎に対するクリサボロール軟膏2%の有効性および安全性を評価した2つの治験結果が発表されました。

この治験結果は、オープンアクセスの論文にまとめられて公表されています*3

論文によれば、この治験は、アメリカで行われた2つの多施設共同ランダム化二重盲検プラセボ対照第3相試験で、それぞれ763人と764人の2歳以上の子供および成人のアトピー性皮膚炎患者が参加しました。

患者はクリサボロール治療群と基剤軟膏投与群に分けられ、それぞれ1日2回28日間軟膏が塗布され、29日目に評価が行われました。

結果、クリサボロール治療群はプラセボ群と比較して、統計的に有意にISGAスコア改善および掻痒の早期改善を達成したとのことです(両者とも P ≤ .001)。

 

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D および E, 29日目でISGAスコアを達成した写真.*4

 

PDE4阻害薬が、なぜアトピー性皮膚炎に有効であるのか、詳細なメカニズムは不明のようです。ただ、それはステロイドとタクロリムスも同様です。

論文には、活性化T細胞のシグナル伝達経路におけるnfκBを下方制御することによりサイトカインの放出を抑制するとあります。

PDE4は、サイクリックアデノシン一リン酸塩の分解を通じたアトピー性皮膚炎における炎症性サイトカイン産生の重要な調節因子である。PDE4活性がアトピー性皮膚炎患者の血中炎症細胞において増加しており、インビトロでは単球におけるPDE4の阻害により炎症性サイトカインの放出が減少した。

 

また、「掻痒の軽減」が、クリサボロールのひとつの特徴であるようです。イッチスクラッチサイクルを絶つことで症状を緩和し、クオリティオブライフを改善し、感染症等のリスクを減少させる可能性があるとしています。

論文は、結論として、クリサボロールは、全身的疾病重症度、掻痒、他のアトピー性皮膚炎の症状などにおいて、好ましい安全性プロファイルおよび全ての有効性基準における改善を示したと結んでいます。

なお、論文には、短期の試験期間であることによる制限、アナコア社などとの利益相反が開示されています。

 

副作用について

治療関連の副作用について、クリサボロール軟膏群において有意に多かった副作用は、灼熱感やチクチク感として報告される投与部位疼痛でした。

この疼痛は、クリサボロール軟膏群の4.4%にみられ、うち76.7%が治療初日に報告されました。ただし、77.6%が開始1日以内に解消されたとのこと。

また、重大な治療関連の副作用は報告されなかったとしています。

さらに、経口のPDE4阻害薬アプレミラストに比べて、外用薬のクリサボロールは副作用が少ないとする旨が記述されています。

最近、経口PDE4阻害薬アプレミラストが中等症から重症尋常性乾癬の治療のために認可されたが、非標的組織でのPDE4阻害による胃腸副作用(吐き気および下痢)を避けるために用量漸増が必要である。PDE4阻害外用薬は、望まない副作用を避けながら、標的とする皮膚疾患の炎症を阻害する要求に対処しうる。

このほか、論文には、クリサボロールは全身吸収性が低く、不活性代謝物に速やかに代謝されるので、全身性副作用のリスクが低いとも記述されています。 

 

クリサボロールへの期待

クリサボロールが導入されることの意義は、何といっても、薬物外用療法がステロイドかプロトピックの二者択一のような状況になっているアトピー診療の現場に、新しい選択肢がひとつ増えるということでしょう。

論文は、クリサボロールが導入される背景について次のように述べています。

アトピー性皮膚炎の症状を軽減し、炎症を抑制し、再発を防ぐために、一般に外用薬が処方されている。しかし、過去15年、アトピー性皮膚炎の治療のために認可された新しい分子はなく、治療ガイドラインはステロイド外用薬、カルシニューリン阻害剤、または両者の使用を推奨してきた。それらの有効性にもかかわらず、ステロイド外用薬およびカルシニューリン阻害剤は、塗布反応の結果および長期使用に伴う安全性の懸念から使用が制限されている。ステロイド外用薬の長期使用は、局所皮膚萎縮(特に顔や股間などの感受性が強く皮膚の薄い部位)、皮膚線条の形成、全身性の副作用を避けるために制限されている。カルシニューリン阻害剤は塗布部に灼熱感・チクチク感を伴い、リンパ腫の増加リスクについての黒枠警告があるために、患者教育の強化が必要とされる。したがって、現在の治療薬のリスクベネフィットプロファイルを改善する可能性がある新しい外用治療薬が必要とされている。

このように、カルシニューリン阻害剤、つまりプロトピック軟膏等の認可から約15年を経て、必ずしも万全とは言い難かったアトピー診療の現場に、新たな外用薬が登場しようとしているのです。

既存薬にはどうしても拭い去れない懸念がありました。それはアナコア社がまとめた資料に端的に示されています。

 

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このように、ステロイド外用薬およびカルシニューリン阻害剤には、安全性への懸念と使用制限がついてまわります。

これに対してアナコア社は、クリサボロールの安全性を主張しているわけですが、さてどうなることでしょうか。

 

アトピー性皮膚炎の新薬として、デュピルマブやネモリズマブなどの開発も進められていますが、これらが対象とするのは中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者です。

一方、クリサボロールは軽症から中等症の患者を対象としています。また、2歳から使えるようです。さらには、馴染みやすい塗り薬です。ということは、推測ですが、適応となる人が多く、副作用や価格の面からも抗体医薬品よりは敷居が低く感じられる薬となるのかもしれません。

果たしてアトピー診療の現場にどのようなインパクトを与えるのか、もうしばらくでクリサボロールの真価を目の当たりにすることができそうです。

 

 

(2016年12月20日追記)

アメリカFDA(食品医薬品局)が、12月14日、Eucrisa (crisaborole) を承認しました。

www.fda.gov

 

上記リンク先のFDAプレス発表から一部抜粋して翻訳引用します。

アメリカ食品医薬品局は、本日、2歳以上の軽症から中等症の湿疹(アトピー性皮膚炎)患者を治療する Eucrisa (crisaborole) 軟膏を承認した。

Eucrisa は、1日2回局所外用する、ホスホジエステラーゼ4(PDE-4)阻害薬である。アトピー性皮膚炎に対する作用の特異的メカニズムは知られていない。

Eucrisa の安全性と有効性は、軽症から中等症アトピー性皮膚炎をもつ2歳から79歳の全1,522人の患者を対象としたプラセボ対照試験により確立された。全体として、Eucrisa治療群は、28日間の治療後に、皮膚症状なし、あるいはほぼ皮膚症状なしというより大きな反応を達成した。

Eucrisa の重大な副作用には過敏性反応がある。Eucrisa は、Eucrisa の有効成分である crisaborole への過敏性反応をもつ患者には用いられるべきではない。Eucrisa の最も一般的な副作用は、投与部位疼痛、灼熱感や刺激感である。

 

(2017年3月11日追記)

Eucrisaは、処方薬としてアメリカで処方が始まりました。

 

(当サイトはいかなる治療法をも推奨するものではありません。また、当サイトに掲載されている情報を利用することにより発生したいかなる損害についても責任を負うものではありません。)

(引用部分の翻訳および赤字による強調表示は当サイトによります。正確な翻訳を期していますが、正確性を保証するものではありません。)

*1:Hanifin JM, Commentary: New drugs for atopic dermatitis may provide clues to basic mechanisms of itch and inflammation. J Am Acad Dermatol. 2016 Sep;75(3):504-5.

*2:Crisaborole | Atopic Dermatitis | Anacor Pharmaceuticals

*3:Paller AS et al. Efficacy and safety of crisaborole ointment, a novel, nonsteroidal phosphodiesterase 4 (PDE4) inhibitor for the topical treatment of atopic dermatitis (AD) in children and adults. Journal of the American Academy of Dermatology, September 2016, Volume 75, Issue 3, Pages 494–503.e4.

*4:Paller AS et al. Efficacy and safety of crisaborole ointment, a novel, nonsteroidal phosphodiesterase 4 (PDE4) inhibitor for the topical treatment of atopic dermatitis (AD) in children and adults. Journal of the American Academy of Dermatology, September 2016, Volume 75, Issue 3, Pages 494–503.e4.