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ステロイド外用薬の副作用(9:緑内障)

緑内障とステロイド

白内障と並び、アトピー性皮膚炎に合併する眼科系疾患の代表が緑内障(glaucoma)です。

先日の記事「白内障とステロイド」で記したように、白内障は、ステロイド外用薬との関連が明らかではありませんでした。白に近いグレーといった感じでしょうか。

一方で、緑内障は、どうやらステロイド外用薬との関連があるとする考え方が一般的のようです。黒に近いグレーといったところでしょうか。

緑内障は、ステロイド内服よりも、眼や眼周囲の局所ステロイドとより頻繁に関連する。*1

 

日本皮膚科学会のガイドラインでも、白内障と比較して、緑内障はステロイド外用薬の使用によりリスクが高まる旨が記述されています。 

緑内障についても,弱いランクのステロイドを少量使用する分にはリスクは低いと考えられる⁴²⁾.しかしステロイド外用治療後の緑内障の症例は多数報告されていることから,眼周囲や眼瞼皮膚にステロイド外用薬(特に強いランクのもの)を使用する際は,外用量や使用期間に注意するほか,タクロリムス軟膏への切り替えも検討すべきである.これらの眼合併症が懸念される場合は,適宜眼科を紹介する.

「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版」より

常にリスクを低く見積もろうとする皮膚科学会のガイドラインですら注意を要すると書いているのですから、いかにリスクが高いかが窺い知れようというものです。 

 

もうひとつ、より客観的な厚生労働省のマニュアルから引用します。

顔面や眼瞼、さらには遠隔部の皮膚への軟膏など外用薬の投与でも、眼圧を上昇させるのに十分な量が吸収され眼組織に到達し、眼圧上昇を来すことが知られている。このことから、特にアトピー性皮膚炎患者への副腎皮質ステロイド外用薬使用の際には眼圧上昇の発現に注意する必要がある。

「重篤副作用疾患別対応マニュアル 緑内障」(平成21年)より

顔やまぶただけでなく、そこから離れた遠隔部の皮膚への外用でも、眼圧上昇を来しうることが指摘されています。 

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アトピー患者における緑内障の症例

では、具体的に、緑内障を合併したアトピー性皮膚炎患者はどのようにステロイド外用薬を使用していたのでしょうか。カナダからのレポートをみてみます。

ケース1

35歳の女性が、両眼のかすみを訴えて眼科を訪れた。彼女の母は緑内障を患っていた。患者は10代前半からアトピー性皮膚炎のコントロールのために顔と瞼の皮膚に毎日ベタメタゾン0.1%クリームを塗布していた。彼女は他の薬は使用せず糖尿病もなかった。近視を除き、眼の病歴に特筆すべき点はなかった。両眼の検査では異常な高眼圧(35mmHg)および弱視(右眼20/200、左目20/400)が明らかになった。視神経の萎縮、両側性の後嚢下白内障、両眼の大きな視野欠損がみられた。集中治療により眼圧のコントロールには成功したが、視覚は元に戻らなかった。

ケース2

45歳の男性が白内障手術のために我々の部門へ紹介された。彼は主に手と顔のアトピー性皮膚炎を20年患っており、吉草酸ジフルコルトロン0.1%軟膏(ネリゾン)およびベタメタゾン0.1%クリームを交互に用いて治療していた。患者は昨年中に気付いた緑内障の治療も受けていた。眼科検査では、両側性の視力低下(20/400)、視神経の萎縮白内障が明らかになった。視野欠損はなお存在した。緑内障に起因する眼への損傷が不可逆性であったため、白内障手術後の彼の視覚は部分的に回復したのみだった。*2

このように、緑内障による視神経の損傷や視野欠損は一度生じると元には戻らないため、注意が必要です。

レポートの著者は、ステロイド外用薬には眼圧の危険な上昇を生じさせるリスクがあるため、医師は瞼の近くへのステロイド塗布を避けるよう患者を指導する必要があり、一方の患者も早期発見のために眼科で定期的な眼圧測定を受けるべきであると述べています。

 

上記カナダの症例はステロイド外用薬をかなり長期にわたり使用していましたが、次に紹介する日本のレポートでは、2年間のステロイド外用薬使用で緑内障を生じた例が報告されています。

本論では、我々は眼窩周囲部へのステロイド軟膏を使用した後に開放隅角緑内障を生じた患者3例を報告する。

症例1は左眼窩周囲部の尋常性白斑のためにフルオシノロンアセトニド0.025%を2年間使用していた。眼圧は左眼で35mmHgであった。

症例2はアトピー性皮膚炎のためにメチルプレドニゾロン0.5%を14年間使用していた。眼圧は右眼が21mmHgで左眼が50mmHgであった。

症例3はアトピー性皮膚炎のために吉草酸ベタメタゾン0.12%を2年間使用していた。眼圧は右眼が68mmHgで左眼が21mmHgであった。

症例2の左眼と症例3の右眼は、緑内障性視神経萎縮および視野欠損を示し、線維柱帯切除術が行われた。*3

こちらでも、視神経の萎縮と視野欠損がみられました。また、薬物療法のみならず外科的介入が必要となる場合があります。 

 

ステロイドレスポンダー

これらの症例から、ステロイド外用薬がアトピー性皮膚炎患者における緑内障の発症に影響を及ぼしていることが示唆されます。

患者のなかには、ステロイドの影響を受けやすい人がいるようです。例えば、ステロイドにより眼圧が上昇する「ステロイドレスポンダー」が存在します。アトピー性皮膚炎患者がステロイドレスポンダーであり、かつ、ステロイド外用薬を使用した場合、緑内障のリスクが高まると考えられます。

ステロイドレスポンダーはステロイドの局所または全身投与で高眼圧をきたす人である。内因性ステロイドが原因となる症例では血中コルチゾールレベルと眼圧日内変動との関連が報告されており,副腎皮質ホルモンが上昇する疾患で高眼圧が認められている。外因性ステロイドでは点眼,全身投与,さらには皮膚科軟膏やほかの局所投与で眼圧が上がる人がいる。*4

一般人口のおよそ18-36%がステロイドレスポンダーであり、原発性開放隅角緑内障の患者ではその反応性が46-92%へ増加するという指摘もあります*5

 

さらに海外文献より引用します。 

どのような経路でもコルチコステロイド曝露後の眼圧上昇を経験した人はステロイドレスポンダーと呼ばれる。臨床的に健康な眼のおよそ3分の2は非反応性である。臨床的に健康な眼の3分の1は、4~6週間のコルチコステロイド外用後にいくらかの眼圧上昇を示すことがある。健康な眼のおよそ5%はステロイド外用薬曝露後に高い眼圧上昇を示すことがある

ステロイド反応性の危険因子には、開放隅角緑内障の既往歴、一等親血縁者の開放隅角緑内障、ステロイド使用後の眼圧上昇の過去における発現、糖尿病、高度近視、結合組織疾患(特に関節リウマチ)、コルチコステロイドの長期使用、眼の周囲への強力なステロイドの使用眼の前方部分への外傷歴が含まれる。

開放隅角緑内障歴をもつ患者のおよそ50%はステロイドレスポンダーであり、治療中の緑内障患者において、ステロイド外用薬は眼圧の制御不能を引き起こし得る。高齢者や小さな子供はステロイド反応性のリスクが特に高い。*6

眼科においては、患者がステロイドレスポンダーであるかどうかについて注意が向けられることが一部あるようですが、皮膚科ではおそらく何ら注意は払われないでしょう。

現在はタクロリムス外用薬もあるので、顔の炎症にステロイド外用薬を平気で処方する皮膚科医も多くはないと思われますが、患者の方でも注意する必要がありそうです。

 

アトピー性緑内障

ここまで、アトピー性皮膚炎に合併する緑内障に関して、ステロイド外用薬のリスクを取り上げてきました。そのリスクが高いことは上記見てきた通りです。

ところが、去年、ステロイド外用薬のみがリスクではないと主張する論文が発表されました。

その内容は、アトピー性皮膚炎に合併する緑内障には、ステロイドに誘発される緑内障のみならず、純粋にアトピー性皮膚炎そのものに合併する緑内障があるとする論文で、両者を含めた「アトピー性緑内障(Atopic glaucoma)」という新しい病型を提案したものです。 

アトピー性皮膚炎に伴う緑内障は、多くの場合、重症アトピー性皮膚炎の治療に広く使用されているグルココルチコイドの副作用の一つにみなされている。

我々は以下の理由から、病型のひとつとしてアトピー性緑内障を提案したい。

第1に、我々は高度の緑内障をもちながら、副作用への恐怖のためグルココルチコイド治療を拒否してきた重症アトピー性皮膚炎患者を数例経験した。

第2に、多くのアトピー性緑内障患者は、重篤な緑内障性視神経変化および白内障や網膜剥離のような他のアトピー関連の眼科合併症の共存のために、低下した視覚のアウトカム(poor visual outcomes)であった。

第3に、アトピー性緑内障は、多くの場合、高眼圧および眼表面の瘢痕形成による重度の緑内障となる傾向があるため、外科的介入を必要としている。*7

私の理解力が足りないために、もしかしたら間違っているかもしれませんが、この主張は要するに、アトピー性皮膚炎患者のなかには、ステロイド薬を使用していない者がおり、かつ緑内障を発症しやすい要素をもつ者が多いので、緑内障の発症原因はステロイド薬の影響のみとはいえない、ということだと思います。

 

論文では、アトピー性緑内障の45例(62眼)をレトロスペクティブにレビューしており、グルココルチコイド使用歴については、ステロイド外用薬使用ありが40眼(64.5%)、使用なしが14眼(22.6%)、6か月以上使用なしが8眼(12.9%)でした。

緑内障には、アトピー性白内障が43眼(69.4%)、網膜剥離が19眼(30.6%)で合併し、50眼(80.6%)が外科的介入を必要としました。

また、炎症性サイトカイン(IL-8およびCCL2)の上昇がアトピー性緑内障患者から得られた房水サンプルでみられ、老人性白内障のサンプルと比較して濃度が有意に高かったとのこと。さらに、線維柱帯組織の分析では強角膜網において10-30nm線維の異常蓄積がみられたとのことです。

 

そして論文は、アトピー性緑内障の概念を次の図のように表しています。

図では、アトピー性緑内障が、純粋なアトピー性緑内障から混合性のアトピー性/グルココルチコイド誘発性緑内障としても現れることが示されています。

 

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純粋なアトピー性緑内障(Atopic glaucoma)では、アトピー性皮膚炎は重症化の傾向があり、しばしばアトピー性白内障およびアトピー性網膜剥離を合併します。グルココルチコイド使用歴はありません。

 

個人的に注目したいのは、レビューした45例(62眼)中14眼(22.6%)で、ステロイド使用歴がないにもかかわらず緑内障を発症していたことです。

アトピー性皮膚炎の場合、房水での炎症性サイトカインの産生亢進など、何らかの要因によりアトピー性緑内障のリスクが高まるのかもしれません。

アトピー性白内障も、皮膚炎そのものが危険因子であるという指摘があります。アトピー性皮膚炎には眼科系合併症がつきものということでしょうか。

 

緑内障とDNAメチル化

最後に、最近の研究成果の一端をみてみたいと思います。

 

緑内障診療ガイドラインによれば、緑内障のうち、ステロイド緑内障は、「線維柱帯に房水流出抵抗の主座のある続発開放隅角緑内障」のひとつに分類されます。

線維柱帯に房水流出抵抗の主座のあるもの
落屑物質, 炎症性産物, マクロファージ, 虹彩色素などにより異常房水流出抵抗が生ずる. 副腎皮質ステロイドの副作用としても生じる.
日本緑内障学会「緑内障診療ガイドライン第3版」より

この分類から明らかなように、ステロイド緑内障の発症には、眼の線維柱帯細胞が関わっているとされます。

 

そのため、緑内障と線維柱帯の関連について様々な研究が行われているわけですが、去年、培養ヒト線維柱帯細胞がグルココルチコイド(デキサメタゾン)に曝露されたときのDNAメチル化状態の変化を調べた研究が発表されました。(DNAメチル化については過去の記事を参照ください→ステロイドとDNAメチル化

結果として、FKBP5遺伝子などのプロモーター領域のDNA脱メチル化と遺伝子発現の亢進が認められたそうです。

デキサメタゾン刺激後、我々は3種全ての線維柱帯の遺伝子発現が亢進したFKBP5、ZBTB16、SCNN1A遺伝子プロモーター領域内の脱メチル化CpGサイト並びに3種全ての遺伝子発現が抑制されたARSI、HIC1、GREM2、MATN2遺伝子プロモーター領域内のメチル化CpGサイトを発見した。5-aza-dC処理によるDNAメチル化の阻害は、デキサメタゾン刺激下のFKBP5およびSCNN1AのメッセンジャーRNA発現のさらなる亢進を引き起こした。*8

(以下、私は専門家ではないので間違っているところがあるかもしれません。)

DNAメチル化により遺伝子発現は抑制状態になり、脱メチル化により遺伝子発現の抑制状態は解除され、転写が促進するとされています。

この研究でも、FKBP5遺伝子プロモーター領域の脱メチル化により、FKBP5遺伝子発現が促進していることが認められました。

そして、FKBP5はGRβとともに緑内障患者におけるステロイド反応性を高めているという指摘があります*9

つまり、ステロイド(デキサメタゾン)への曝露により、線維帯柱細胞におけるFKBP5遺伝子のDNA脱メチル化が生じて、同遺伝子の発現が促進され、緑内障のリスクが増加する可能性が示唆されたのです。

なお、5-aza-dCはDNAメチル化阻害剤であり、脱メチル化を引き起こすようです。

そして、研究は次のように結論しています。

デキサメタゾン刺激はヒト線維柱帯細胞におけるDNAメチル化状態の変化を引き起こす。エピジェネティック修飾は線維柱帯遺伝子発現プロファイルに影響を与えている可能性がある。

ステロイド緑内障は、ステロイドによるDNAへの半永久的作用が含まれる副作用なのかもしれません。

 

さて、グルココルチコイド(ステロイド)がDNAに作用して、DNA発現に関わるスイッチのオン/オフに影響を与えることがわかってきています。

私は、ステロイド外用薬が、半永久的な皮膚細胞のDNAメチル化や脱メチル化を引き起こしているのではないかと考えることがあります。個人的体験として、ステロイドの使用により皮膚の感覚が不安定になり、何年経っても元に戻らないからです。いわゆるアトピー性皮膚炎は、今やエピジェネティクス抜きには語れない病気なのではないかとも思います。

実際、眼科で上記のような研究が始まっているのですから、皮膚科も「ステロイドは安全な薬です」などと能天気なことを言っていないで、エピジェネティクス修飾について勉強を始めたら良いのではないでしょうか。

 

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(引用部分の翻訳および赤字による強調表示は当サイトによります。正確な翻訳を期していますが、正確性を保証するものではありません。)

*1:Renfro L, Snow JS, Ocular effects of topical and systemic steroids. Dermatologic Clinics [1992, 10(3):505-512].

*2:Michaeli-Cohen A et al. Case report: Visual loss caused by facial steroids. Can Fam Physician. 1998 Nov; 44: 2462–2463.

*3:Katsushima H. Corticosteroid-induced glaucoma following treatment of the periorbital region. Nippon Ganka Gakkai Zasshi [1995, 99(2):238-243].

*4:久保田敏昭, 眼科ーステロイドレスポンダーとノンレスポンダーの違い. 週刊日本医事新報 2015年3月7日.

*5:Tripathi RC et al. Corticosteroids and glaucoma risk. Drugs Aging. 1999 Dec;15(6):439-50.

*6:Donald Rudikoff, Steven R. Cohen, Noah Scheinfeld, Atopic Dermatitis and Eczematous Disorders. 2014, CRC Press.

*7:Takakuwa K et al. Atopic Glaucoma: Clinical and Pathophysiological Analysis.  Journal of Glaucoma, Volume 24, Number 9, December 2015, pp. 662-668(7).

*8:Matsuda A et al. DNA Methylation Analysis of Human Trabecular Meshwork Cells During Dexamethasone Stimulation. Investigative Ophthalmology & Visual Science June 2015, Vol.56, 3801-3809. doi:10.1167/iovs.14-16008

*9:Zhang X, Clark AF, Yorio T. FK506-binding protein 51 regulates nuclear transport of the glucocorticoid receptor beta and glucocorticoid responsiveness. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2008;49:1037–1047.