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白内障とステロイド

アトピー性白内障とステロイドの関係

アトピー性皮膚炎における頻度の高い合併症として、白内障(Cataract)があります。

白内障は高齢者に多い病気というイメージがありますが、アトピー性皮膚炎に合併する白内障(アトピー性白内障)は若年者に多いことが知られています。

若年者に多いというのは、アトピー患者の多くが若年者であるからと推測されます。他方、なぜアトピー患者が白内障にかかりやすいのか、原因は明らかではないようです。

「アトピー性皮膚炎-よりよい治療のためのEvidence-Based Medicine (EBM)とデータ集;2010年改訂版」によれば、白内障がステロイドの全身投与ステロイド点眼剤によって誘発されるほかにも、病因として次の諸説があるとされています。

  • 外胚葉由来である水晶体はアトピー性皮膚炎患者の皮膚同様に障害のターゲットになるというshock organ説
  • 毛様体上皮が毒素・アレルゲンを放出するという説
  • 自己免疫反応に関与するという説
  • 顔面の掻破・叩打によるという外傷説
  • 好酸球顆粒蛋白であるMBP(major basic protein)やECP(eosinophilic cationic protein)が水晶体に沈着し眼内組織障害を引き起こすという説
  • レンズ上皮のアポトーシスが原因という説、など

 

このように様々な説がありますが、アトピー患者の多くが気になっているのは、次の2つの因子ではないでしょうか。

  • 顔面の掻破・叩打
  • ステロイド外用薬

どちらかが原因になり得るのか、あるいはどちらの影響が大きいのか、という問いです。

 

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ステロイド薬の添付文書をいくつか確認すると、内服薬と外用薬を問わず、副作用として緑内障とともに「白内障」が記載されています。

ステロイド外用薬のインタビューフォームから引用します。

眼瞼皮膚への使用に際しては、眼圧亢進、緑内障、白内障を起こすおそれがあるので注意すること。 大量又は長期にわたる広範囲の使用、密封法(ODT)により緑内障、後嚢下白内障等の症状があらわれるおそれがある。

「ロコイド軟膏0.1% 医薬品インタビューフォーム改訂第4版」より

次に、ステロイド内服薬のインタビューフォームからです。

連用により眼圧上昇,緑内障,後嚢白内障(症状:眼のかすみ),中心性漿液性網脈絡膜症・多発性後極部網膜色素上皮症(中略)を来すことがあるので,定期的に検査をすることが望ましい。

「プレドニン錠5mg 医薬品インタビューフォーム改訂第14版」より

なお、すでに後嚢白内障を発症している患者に対しては原則禁忌とされています。

 

一方で、日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドラインには、ステロイド外用薬は白内障のリスクを高めないと記載されています。 

白内障に関しては7件の症例集積研究が報告されており,ステロイド忌避による顔面皮疹の悪化や叩打癖が危険因子と考えられるほか,アトピー性皮膚炎自体による炎症もリスクファクターと考えられている¹³⁵∼¹³⁷.ステロイド外用薬の眼周囲への使用期間についてはいずれも関係がないと報告されており,白内障のリスクを高めるとは言えないと考えられた.

「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版」より

要するに、ステロイド外用薬よりも、アトピーそれ自体の炎症や顔面の掻破・叩打などが要因となって白内障にかかりやすくなるとしています。

 

日本眼科医会も、薬の影響について指摘はなく、皮膚炎や顔面の掻破・叩打が危険因子であるとしています。

どうしてアトピー性皮膚炎に合併するのかはわかりませんが、皮膚炎にかかっている時期が長いほど、また顔の皮膚症状が重いほど白内障を合併する率が高いといわれます。目のかゆみのために目をこすったり、叩いたりする行為が関与している可能性もあります

6-1.アトピー白内障とは  |  公益社団法人日本眼科医会

 

やはり叩いたりこすったりすることが原因なのでしょうか。それならなぜステロイドの添付文書に副作用としての記載があるのでしょうか。私は顔を叩いたりこすったりしますし、ステロイドの使用歴もありますが、白内障を発症したことはないので体験的なことはいえません。

そこで、ヒントを探るため、アトピーと白内障の関連を調べた文献を、五月雨式にピックアップしてみました。

 

1985年の上原正巳氏らによる論文。白内障が重症アトピー性皮膚炎に合併しやすく、頻度は低いものの視力障害を伴う場合があることを指摘しています。

アトピー性白内障が、日本の思春期から若年成人のアトピー性皮膚炎患者153人のうち19人 (12.4%) にみられた。患者19人のうち、4人は視覚障害を伴う白内障であり、15人は視力障害を伴わない初期の白内障であった。白内障は重症アトピー性皮膚炎患者において最も頻繁に生じる。白内障の進行は、皮膚病変の分布、皮膚炎の臨床経過、呼吸器系アトピー疾患の既往歴、血清IgEレベル、併発した尋常性魚鱗癬とは関係がなかった。*1

 

1999年の谷口裕子氏らによる論文。まず、重症アトピー性皮膚炎の多くが、なかなか治らない赤ら顔に悩まされており、これに対してはステロイド外用薬も使えないことを認識しています。

そこでステロイド外用薬を中止するわけですが、中止後に白内障や網膜剥離が観察されました。ステロイドを中止したから白内障等が増えたようにみえますが、その発生頻度はステロイドを使用していた場合とあまり変わらないことを指摘しています。

つまり、白内障の発症率は、ステロイドの使用有無に影響されないことが示唆されています。

日本の重症アトピー性皮膚炎患者の多くが持続性の顔面の紅斑(アトピーの赤ら顔)に悩まされている。これはステロイド外用薬に抵抗性があるだけでなく、多くの場合、その使用によりさらに悪化する。3年間(1991-1993)、我々は重症アトピー性皮膚炎をもつ入院患者79人を、入念な毎日のスキンケア、保湿剤の使用、増悪因子の排除を組み合わせて治療した。これらの例では治療前後において眼の合併症が検査された。

ステロイド外用薬からの離脱後、ほとんど全ての患者が皮膚症状の一時的な悪化を示した。その直後は、彼らの眼の症状に変化はなかった。白内障が20例でみられ(25.3%)、網膜剥離は9例だった(11.4%)。2か月後、白内障が11例、周辺部網膜剥離が5例観察された。しかし、これらの発症率は、ステロイド外用薬による通常の治療中に、日本で報告された数値と近似している

白内障または網膜剥離の進行は、血清IgEレベル、呼吸器系アトピー疾患の既往歴、顔面へのステロイド外用薬の使用期間、ステロイド内服薬による治療との関連はなかった。我々の観察結果は、習慣的に強く顔を叩いたりこすったりする患者が、統計的に有意に高頻度で、白内障または網膜剥離へ進行する傾向があることを示唆している

アトピー性皮膚炎患者は、顔面からの浸出液(facial oozing attack)またはステロイド離脱以降の1年間は、1~2か月に一度、眼科の検査を受けるべきである。*2

結論として、白内障または網膜剥離は、顔面へのステロイド外用薬塗布および内服薬の使用と関連はなかったとし、習慣的に顔をこすったり叩いたりすることが関連しているかもしれないと述べています。

この論文は、白内障におけるステロイド因子説を否定するものといえ、皮膚科医にとっては都合のよい内容であり、皮膚科学会のガイドラインの参照文献にも採用されているところです。

 

さて、次に引用するのは、ステロイド外用薬との関連はないとしても、ステロイド内服薬によるステロイド誘発性白内障が発症する可能性を指摘した論文です。

我々は、アトピー性皮膚炎患者におけるステロイド外用薬の累積投与量及びまぶたや眼窩周囲部へのステロイド外用薬の使用と、緑内障および白内障の進行が関連しているかどうかを判定するために評価を行った。

患者88人(男性41人と女性47人)、平均年齢37.2±14.3歳(mean ± SD)のうち、1人に一時的な高眼圧症がみられ、1人に緑内障性視野障害を伴わない視神経乳頭陥凹がみられた。7人が白内障と診断された(1人がアトピー性皮膚炎に関連するもの、2人がステロイド誘発性、4人が加齢に関連するもの)。ステロイド誘発性白内障の両患者はステロイドの内服も行っていた。全体で88人中37人がまぶたや眼窩周囲部にステロイド外用薬(クラス3および4)を使用していた。平均的頻度としては、4.8年間、週3.9日、年6.4月であった。

この後向き研究では、緑内障はみられなかった。2人のアトピー性皮膚炎患者がおそらくステロイド内服によるとみられるステロイド誘発性白内障に罹患していた。まぶたや眼窩周囲部へのステロイド外用薬の塗布は、それが長期間にわたっても、この調査対象母集団においては緑内障または白内障の進行との関連はなかった*3

白内障の病因を、アトピー性皮膚炎、ステロイド、加齢の3つに分類しているところが注目されます。 

 

次は、成書となっている海外文献を確認してみます。

引用する文献では、白内障の原因は必ずしもステロイドではなく、皮膚疾患の重症度や個人の感受性などがより重要な因子であると述べられています。

一方で、ステロイド外用薬の大量使用またはステロイド内服により、後嚢下白内障のリスクが増加する可能性については否定されていません。

細隙灯顕微鏡検査では、アトピー性皮膚炎に関連する2つのタイプの白内障が識別されている。前嚢下白内障と後嚢下白内障である。これらの白内障はしばしば両側性であり (50%-70%)、前嚢下白内障よりも後嚢下白内障が多い。前嚢下白内障がアトピー性皮膚炎に特異的であるようにみえる。一方で、アトピー性皮膚炎における後嚢下白内障が、グルココルチコステロイドにより引き起こされたかどうか区別がつかないことがよく知られている。

前嚢下白内障および後嚢下白内障は、両者ともおそらく類似した病理学的機構の結果であろう。皮膚および水晶体が外胚葉起源であることは、皮膚および水晶体が変化する原因に共通因子があるという推論を導くものである。

しかし、おそらくこれは、ステロイド使用というよりも皮膚疾患の重症度に関係したものであろう。ステロイドの使用と白内障の進行およびタイプとの間には相関はなかった。他方で、内服または特に眼窩周囲部での強力なステロイド外用薬の大量使用が、後嚢下白内障の形成および眼圧上昇のリスク増加に関与することが示唆された

他の研究においても、ステロイドの使用が、アトピー性皮膚炎における後嚢下白内障の進行に寄与するかどうかについて疑問の余地があるようにみえる。合併症は関連しているようにみえるが、必ずしもステロイドが原因ではない。さらに、角結膜炎のような単純ヘルペスウイルス感染による感受性の増強が角膜の瘢痕を引き起こしているかもしれない。厳密な線量効果関係はみられず、個人の感受性がコルチコステロイド誘因性後嚢下白内障の進行における最も重要な因子であるとみられる。ソラレンまたは紫外線A (PUVA) 療法が白内障進行に関連しているとする報告もある。*4

 

ここで、ステロイド薬がアトピー性皮膚炎の診療に導入される前はどうだったのかを確認してみます。上記の成書から再び引用します。

白内障とアトピー性皮膚炎の関連は、1914年、Andogsky によって初めて報告された。彼は若者の皮膚炎に合併する両側性の白内障の進行を報告した。1921年、Davis は、神経皮膚炎および喘息に罹患していた15歳の患者に両側性白内障が急速に進行したことを報告した。その他にも複数の文献が1950年代のステロイド導入以前に発表されていたことは、若年患者の白内障と皮膚炎との間に関連がある可能性を支持するものである。

要するに、ステロイド薬が登場する前から、アトピー性皮膚炎に白内障が合併することは報告されていたので、ステロイドよりは皮膚炎そのものと関連がありそうだということです。

米メイヨー・クリニックで行われたアトピー性皮膚炎患者の眼科検査では、1940年から1953年までの1158例のうち、136例(11.7%)でアトピー性白内障が観察されています。3分の2以上が30歳未満でした*5

 

以上を勘案すると、アトピー性皮膚炎に合併する白内障(アトピー性白内障)の発症原因としては、患者個人の疾患感受性が大きく、皮膚炎そのもの、また顔を叩いたりこすったりすることなども危険因子として影響すると考えられます。ただし、ステロイド外用薬のまぶた周辺への大量使用には注意が必要と思われます。また、ステロイド内服によって白内障が生じ得る(ステロイド白内障)ことにも留意すべきでしょう。

 

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(引用部分の翻訳および赤字による強調表示は当サイトによります。正確な翻訳を期していますが、正確性を保証するものではありません。)

*1:Uehara M et al. Atopic Cataracts in a Japanese Population With Special Reference to Factors Possibly Relevant to Cataract Formation. Dermatologica 1985;170:180–184.

*2:Taniguchi H et al.,(1999), Cataract and Retinal Detachment in Patients with Severe Atopic Dermatitis Who Were Withdrawn from the Use of Topical Corticosteroid. The Journal of Dermatology, 26: 658–665. doi:10.1111/j.1346-8138.1999.tb02068.x

*3:Topical corticosteroids in atopic dermatitis and the risk of glaucoma and cataracts. Haeck, Inge M. et al. Journal of the American Academy of Dermatology , Volume 64 , Issue 2 , 275 - 281.

*4:Thomas Ruzicka, Johannes Ring, Bernhard Przybilla, Handbook of Atopic Eczema. Springer Science & Business Media, 2013.

*5:Brunsting LA, Reed W, Bair HL, Occurrence of Cataracts and Keratoconus with Atopic Dermatitis. AMA Archives of Dermatology. 1955;72(3):237-241.