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アトピー覚書ブログ

成人型アトピー 脱ステ・脱保湿患者のブログ

汗と角層水分量

アトピーと汗

汗は角層水分量を上昇させる

発汗機能の回復により、いわゆるアトピー性皮膚炎が改善することが示唆されています。

その理由のひとつは、汗が角質層の水分量を上昇させるからです。杏林大学医学部付属病院教授の塩原哲夫氏は、角層水分量を決定する因子として次の5つを挙げています*1

  1. 環境の湿度(80%以上で吸収あり)
  2. 角層脂質の水分保持能
  3. 水分蒸散量
  4. 発汗
  5. 併用薬

 

塩原氏は、発汗が角層水分量を上昇させることを下図を用いて説明しています。

まず、左側の図に注目してください。

前提として、シャワーを浴びると、角層水分量は減少します。一般的に入浴後は入浴前よりも皮膚が乾燥します。アトピー患者ならよく知っていることと思います。

その後の角層水分量は、ヒルドイドを塗った場合は上昇していますが、ステロイドを塗った場合は減少しています。外用なしではその中間を推移しています。

ここでのポイントは次の2つです。

  • 保湿剤の外用は角層水分量を上昇させる
  • ステロイドの外用は角層水分量を減少させる

 

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次に、右側の図に注目してください。

シャワーを浴びてから、ヒルドイドまたはステロイドを塗った後に、今度は屋外での運動(グレーの斜線部)が因子として加わっています。

この図から、次のことがわかります。 

  • 運動(発汗)は角層水分量を著明に上昇させる

 

運動をせずにヒルドイドを塗った場合と、運動のみ(発汗)で何も外用しない場合を比べても、運動のみ(発汗)の方が角層水分量を高く維持しています。すなわち、ヒルドイドをベタベタ塗るよりも、運動で汗をかいた方が、角層水分量は多くなるといえるのです。

 

ただし、留意したいのは、これは健常人のデータであるということです。

では、発汗低下のみられるアトピー性皮膚炎(AD)患者の場合はどうなのでしょうか。

塩原氏が、ステロイド外用薬等の使用群と、ステロイド外用に加えて入浴励行や運動量増加などの発汗指導を行った群とを比較したところ、次のような結果が得られたとしています。

  • ステロイド外用薬のみ
    →皮疹は著明に軽快したものの発汗反応は改善しなかった。
  • ステロイド外用薬および発汗指導
    →発汗反応が改善するとともに、ステロイド外用薬をあまり使わなくても皮疹に著明な軽快が得られた。

 

 アトピー性皮膚炎における角層の水分保持機能

発汗によって角層水分量が増えるのなら、アトピー患者は運動をしてひたすら汗をかけばよいのではと考える人も多いことでしょう。

しかしながら、話はそう簡単にはいかないのです。

 

アトピー性皮膚炎患者にはさまざまなタイプがありますが、皮膚がガサガサの「乾燥系」と、ジュクジュクした傷口などをもつ「湿潤系」の2つに大別することができます。

乾燥系アトピーである私の経験からいうと、皮膚に水分を与えてもその水分がすぐに蒸発してしまい、余計に乾燥してしまうことがあります。とくに入浴後に顕著で、その程度は健常人の比ではありません。

汗をかいたときも例外ではなく、かいた直後は良いとしても、まもなく水分は蒸発してしまいます。

 

汗の加湿効果を検証した実験でも、アトピー性皮膚炎患者では角層保水機能が低下していることが指摘されています。 

健常群では軸索反射性発汗量と保水機能とに正の相関がみられたけれども、アトピー性皮膚炎患者では軸索反射性発汗量と保水機能とに相関はみられなかった。これらの結果は、汗が角質層水分の主要な供給源かもしれないこと、また、たとえ患者に十分な発汗量があったとしても、アトピー性皮膚炎における角質層の機能的異常が保水機能の評価を低下させているかもしれないことを示唆している。この観点からは、アトピー性皮膚炎患者の損傷した角質層を補修することが、水分保持能力を維持するためには重要かもしれない。*2

ひたすら汗をかいたとしても、角質層がその水分を保持できないために、元のガサガサの皮膚に戻ってしまうというわけです。

 

なぜ、角質層が水分を保持できないのでしょうか。 

一言でいうと、皮膚バリア機能が損なわれているためといわれています。より具体的には、フィラグリン遺伝子変異および天然保湿因子の減少、セラミドなど細胞間脂質の減少、皮脂分泌減少による皮脂膜形成不全などにより、経皮水分蒸散量(TEWL)が上昇することが指摘されています。

 

皮膚バリア機能の低下要因

では、なぜ皮膚バリア機能が破壊されてしまうのでしょうか。

これは、かゆみによる「掻破」以外にも、様々な要因があります。

例えば、「角層pHの上昇」です。わかりやすいのは、石けんなど界面活性剤の使用によるpH上昇です。

緩衝液を用いた洗浄では角層への影響は少ないが,界面活性剤を含むことで角層への影響に差が認められ,アルカリ性(pH9)では角層への影響が大きくなり,穏和な洗浄条件であっても角層細胞間脂質の溶出などの影響が認められた.*3

 

また、「プロテアーゼ」(黄色ブドウ球菌やダニ由来など)によっても、皮膚バリアが障害されることが指摘されています。

ヒョウヒダニ類より分離されたアレルゲンのうち,もっともよく知られ研究の進んでいるものは Der f 1 であるが,この蛋白はアレルゲンであると同時にプロテアーゼとしても働くことが明らかになっている.(中略)

プロテアーゼ活性をもつ Der f 1を塗布したマウスにおいては,背部皮膚のバリア機能障害が確認された.すなわち,環境抗原の代表的な物質である Der f 1 は生体に侵入しアレルギー反応を惹起するのみならず,付着した表皮のバリア機能の障害を引き起こす可能性が示唆された.*4

 

そして、「ステロイド外用薬」の長期連用によって皮膚バリアが破壊されることは、もはや常識といってもよいと思います。

ステロイド外用剤は、皮膚の炎症が強いときに用いるとこれを抑えますが、長期連用すると、皮膚バリア機能は破壊され、アレルゲンなどが侵入しやすくなり、アトピー性皮膚炎の悪化が起きやすくなります。この状態がエスカレートして、外用すると治まるが、外用をやめるとすぐに悪化してしまう、そのような悪循環に陥ってしまった状態が「ステロイド依存(steroid addiction)」であるというわけです。*5

 

このように、皮膚バリアを破壊する要因は様々ですが、その結果として角層水分量保持機能の低下につながり得るのです。

したがって、発汗の恩恵を享受するには、先に皮膚バリア機能を回復させることが必要なのかもしれません。

 

皮膚萎縮と苔癬化

それなら、皮膚バリアを回復させれば良いと思われるでしょう。しかし、これも簡単ではありません。

私の場合は、皮膚萎縮および苔癬化部位があるために、万事解決といかないのです。つまり、発汗による水分が速やかに失われていくわけですが、それは皮膚萎縮および苔癬化部位において顕著なのです。

私の自己診断では、ステロイドの影響により首周りが皮膚萎縮を起こしていると思われます。ちりめん状(さざ波様)のしわができ、ガサガサで弾力性がなく、うっすらと色素沈着しており、一言でいうと老人のような皮膚です。
かゆみも強く、悪化しやすい部位です。いくら発汗を繰り返しても、何年も治らないままです。

 

アトピー患者が汗をかいても水分を保持できない理由は、主として皮膚バリアが損なわれているためと考えられますが、一部では皮膚萎縮および苔癬化が大きく影響しているのではないかと推測します。

皮膚萎縮は、ステロイドの連用による繊維芽細胞の増殖抑制等によって引き起こされることが確認されています。苔癬化は、慢性的な掻破によって引き起こされると考えられています。とくに皮膚萎縮は真皮にまで影響が及んでしまうと難治です。色素沈着がセットになっているのなら、色素が真皮に沈着しているのかもしれません。そうなると、ひたすら発汗を繰り返しても、なかなか改善に結びつかないということも考えられます。

皮膚萎縮が治るか治らないかは、角層水分量への影響という以上に、脱ステロイド患者の経過においても非常に重要な鍵を握るものと思います。

  

最近、アトピー患者はむしろ汗をかいた方が良いと、聞きかじりの知識をひけらかす皮膚科医が増えていると感じます。
しかし、「汗をかきましょう」というだけでは不十分で、発汗時のかゆみへの対策、皮膚萎縮などステロイドが使えない場合の角層保水機能低下への対策まで含めて指導をしないと、ほとんど意味がないように思います。

 

また、アトピー患者の水分保持機能を維持するために保湿剤の使用が推奨されることがあります。しかし、これは必ずしも解決にはなりません。

なぜなら、ステロイド外用薬による不可逆性の皮膚萎縮が起きていれば、毎日一生涯保湿剤を塗り続けなければならないことになるからです。それを解決と呼ぶなら否定はしませんが、いずれにせよ、そのことをしっかりと患者に説明しなければなりません。

また、ステロイド外用薬を使用した患者のなかには保湿依存に陥っている患者が一部おり、保湿剤の長期使用が適用できないケースがあります。

 

発汗によってアトピー性皮膚炎が改善することが期待されています。しかし、こうしたところでも、第一選択薬であるステロイドの副作用が大きな障害として立ちはだかっているようにみえます。

ステロイド外用薬を使用する前に、発汗機能を回復させることを第一に考えていたならば、こうした状況は防げたのかもしれません。

 

(当サイトはいかなる治療法をも推奨するものではありません。また、当サイトに掲載されている情報を利用することにより発生したいかなる損害についても責任を負うものではありません。)

(引用部分の翻訳および赤字による強調表示は当サイトによります。正確な翻訳を期していますが、正確性を保証するものではありません。)

*1:塩原哲夫, アトピー性皮膚炎と発汗―発汗はアトピーに良いか悪いか?, 医学のあゆみ, Vol.228, No.1, 2009.

*2:Takahashi A et al. Decreased Sudomotor Function is Involved in the Formation of Atopic Eczema in the Cubital Fossa. Allergology International. 2013;62:473-478.

*3:奥田峰広, 吉池高志, 皮膚洗浄方法の角層バリア機能に及ぼす影響について. 日本皮膚科学会雑誌, Vol.110(2000), No.13.

*4:光石幸市, アレルギー性疾患の治療の将来展望 1.アトピー性皮膚炎と皮膚のバリア機能. 日本医師会雑誌, 133巻, 4号, 2005.

*5:Dr.Corkの表皮バリア破綻説(その1)