アトピー覚書ブログ

成人型アトピー 脱ステ・脱保湿患者のブログ

汗をかくのに練習は必要ない?

最近流行りの汗対策の実例

先の記事で、アトピー性皮膚炎の汗対策として、次の2点がセットで語られることが多いことを指摘しました。

  1. 「汗をかくこと」を避ける必要はなく、発汗した方が改善につながる。
  2. 「かいた後の汗」が症状を悪化させるので、汗は洗い流す。

この実例を紹介します。最近の朝日新聞の記事(朝日新聞デジタル2016年7月4日付)が、この2点に触れていました。

アトピー性皮膚炎も、夏に悪化することが多い皮膚トラブルです。汗をかいたままにすることが症状をより悪くするので、汗をかいた時に可能だったらシャワーを浴びましょう。無理なら水道で汗を流す、汗を拭く、汗で濡れた洋服を取り替えるだけでもいいです。(中略)

汗をかかないように運動を控えている場合と、運動で汗をかいた後に流してスキンケアをし直すのとでは、後者の方が皮膚の状態がいいと言われています*1

こういう記事を読むと、一患者としてはもやもやしてしまいます(理由は過去記事を参照「アトピー患者の汗対策」)。

この汗対策の内容は今どきの典型的なものです。こうした記事を読む限り、アトピー患者が汗を克服する日はまだまだ遠いことを感じます。

 

汗をかくのに練習は必要ない?

それはさておき、同記事のなかに、大変気になる記述がありました。

以前、ネットの記事で「汗をかかない子になってしまうから、保育園ではクーラーは使わないように」と医師が言っているのを見て驚きました。汗をかくか、かかないかに練習は必要ありません。子どもは体温調節能力が大人に比べると低いので、真夏の最中(さなか)に蒸し風呂のような室内に長時間いた方が、熱中症になるリスクはより高くなるでしょう。水分・塩分が十分に取れなければ、命にも関わります。

 これを読んで驚きました。

 「汗をかくか、かかないかに練習は必要ありません」というのです。

つまり、子どもの「発汗機能」は一定だというのです。そのうえで、熱中症リスクについては発汗機能を除いた「体温調節能力」のみを考慮すべきであるから、その能力の低い乳幼児のためにはエアコン等で快適な環境を整えるべき、という主張のようです。

確かに、熱中症を予防するためにはエアコン等を適切に使用すべきでしょう。しかしながら、熱中症のリスクを考えるうえでは、乳幼児の発汗機能も考慮すべきではないでしょうか。

脱水症状には注意が必要ですが、汗の蒸発による気化熱は体温を下げるため、発汗機能(体温調節能力)が高まれば、熱中症のリスクはより低下するはずです。

f:id:atopysan:20160715184114p:plain
(出典: 環境省「熱中症環境保健マニュアル2014」)

 

いずれにせよ「汗をかくか、かかないかに練習は必要ありません」というのは大胆な主張です。この朝日新聞記事の主張が妥当なものであるかどうか調べてみました。

f:id:atopysan:20160715184158j:plain

  

能動汗腺

汗腺のうち、実際に汗を分泌する能力をもつ汗腺を能動汗腺といいます。能動汗腺の数は、生後2~3年以内の発汗刺激によって決定され、以後その数は一生変わらないとされています。

この説を裏付けるように、寒冷地域で生まれ育った人は、温暖地域で生まれ育った人に比べて、相対的に能動汗腺が少ないことが報告されています。

例えば、日本人より暑い地域に住むフィリピン人の方が、能動汗腺の数が多いのです。

f:id:atopysan:20160715184231j:plain

 

四六時中冷房の効いた部屋の中は、寒冷地域の環境に近いと思われます。そのように汗をかきにくい環境下で生後2~3年を過ごした場合、能動汗腺の数が少なくなるかもしれません。その場合、発汗機能の低下につながり得ます。

発汗刺激の多寡により能動汗腺の数が左右されるとすれば、汗をかくのに練習は必要であるともいえるでしょう。

 

暑熱順化

暑さに体を慣らす「暑熱順化」により発汗機能が亢進することが指摘されています。暑熱順化は、昔は夏になれば誰もが自然と経験していたことと思います。

しかし、最近は冷房のある環境で過ごす人が増えたために、暑熱順化が起こりにくくなっているという指摘があります。

冷暖房の普及により自然の温度刺激を受ける機会が減少し,さらに内部温度刺激をもたらす身体運動が減少した現代生活において,暑熱順化が起こりにくい状況を作っているとも言え,このことが熱中症発生の増加に拍車をかけている可能性が指摘されている.*2

そして、暑熱順化は有効な熱中症対策のひとつとして位置付けられているのです。

熱中症対策として、今すぐ始めたいのが暑さに体を慣らす「暑熱順化(しょねつじゅんか)」だ。

暑熱順化とは、夏の暑さに耐えられる体になること。「かつては誰でも梅雨の間に暑さにさらされ順化したが、冷房のある環境で過ごす人が増えた今は積極的に順化するための対策が必要」と星教授。梅雨明けまでに順化しておけば、熱中症にかかるリスクをぐんと下げられる*3

 

暑熱順化で良い汗をかく

暑熱順化を獲得するのに適しているのが、暑熱環境下における運動です。

下のグラフは、9日間連続で暑熱下において100分間の運動を行った人の発汗量等の変化を調べたものです。

毎日の運動によって徐々に暑熱順化が起こり、発汗量が増加し、体温(直腸温)の上昇が抑えられていることがわかります。 

 

f:id:atopysan:20160715184244j:plain

 

この結果からは、「汗をかくのに練習は必要である」と言えるのではないでしょうか。そして、練習により暑熱順化が獲得されれば、熱中症リスクも低下するのです。

なお、暑熱順化により発汗量が増加する理由としては、発汗の始まる体温の閾値が下がること、また、汗腺あたりの発汗量が増加することが挙げられます。

 

さらに、暑熱順化には、発汗機能を向上させるだけでなく、汗の成分を変化させる効果も確認されています。

下のグラフは、暑熱順化後における、汗のNa⁺(ナトリウムイオン)濃度の低下を示しています。

つまり、体外に流出する塩分が減るということなので、体液バランスを保つことにつながります。これは熱中症対策にもなります。

また、汗中のナトリウムによる皮膚への刺激も少なくなると考えられています。

 

f:id:atopysan:20160719224234j:plain

 

暑熱順化のために、汗をかく練習をすると、このような良いことも起こるのです。

そうであるから、環境省のマニュアルでも、子どもの熱中症を防ぐポイントとして「日頃から暑さに慣れさせる」ことが推奨されているのでしょう。

 

f:id:atopysan:20160715184329p:plain
(出典: 環境省「熱中症環境保健マニュアル2014」)

 

暑熱順化のための汗腺トレーニング

暑熱順化には、どのような運動が適しているのでしょうか。これについて、NHKの番組「ためしてガッテン」が面白い実験を行っています。

30~40代の女性5人を対象に、「自転車こぎ、ホットヨガ、サウナ、岩盤浴、半身浴」の5つの運動のうち1つを1人に割り当て、1日20分~60分のメニューを8日間行ってもらい、汗のかき方に変化があるかどうかを調べたそうです。

結果として、汗をかくトレーニングをすれば、ほとんどの人は汗の出方が速くなり、量も増え、さらに塩分の再吸収もよくなっていい汗をかけるようになりました。

この実験では、とくに自転車こぎとホットヨガで顕著な効果が出たとのことです。その他の運動でも、長期的に行うことで汗腺トレーニングになるとしています。もちろん王道はジョギングとウォーキングです。

熱中症は、急に暑くなり始める6月下旬から急激に増加します。暑くなる前から汗腺トレーニングをして汗をよりいい汗にすれば、こうした危険を予防する効果が期待できます。*4

 

”汗をかくのに練習は必要”

さて、ここまで見てきたように、汗腺の能動化や暑熱順化など、汗をかく練習をすることで発汗機能が亢進することを考えると、朝日新聞の記事がいうように「汗をかくか、かかないかに練習は必要ありません」とは言い切れないのではないでしょうか。

もちろん、まったく汗をかく練習をしなくても、乳幼児が一滴も汗をかけないわけではないでしょう。そのことは否定しません。

しかし、熱中症を予防するという本来の目的を果たしたいのであれば、むしろ汗をかく練習をしておいた方が良いと、私は思います。

 

エアコン使用の是非

さて、環境省等が参加する「熱中症予防 声かけプロジェクト」のウェブサイトでは、子どもの熱中症予防のポイントのひとつとして、「日頃から暑さに慣れさせる」ことを挙げています。

そのため、常にエアコンの効いた部屋にいることをすすめていません。

f:id:atopysan:20160715184413p:plain
子ども(保護者)への声かけ|熱中症予防・対策にひと涼み

 

一方で、日本小児科学会は、熱中症対策のひとつとして、エアコンの使用を推奨しています。

f:id:atopysan:20160715184435p:plain
こどもの救急 こどもの事故と対策 熱中症

 

これらの、一見すると相反する2つの対策を、どのように捉えればよいのでしょうか。

思うに、これは、様々ある熱中症のリスク因子のなかで、

  • 前者は「暑さに慣れていないこと」への対策→「暑熱順化」
  • 後者は「冷房欠如による高温の室内」への対策→「エアコンの使用」

を、各々指摘しているものと考えられるでしょう。

つまり、暑熱順化のためにはエアコンが不要なだけであって、どちらかの対策が間違っているわけではなく、どちらも必要な対策といえます。

 

f:id:atopysan:20160715184455j:plain

出典: Occupational Exposure to Heat and Hot Environments. Centers for Disease Control and Prevention, National Institute for Occupational Safety and Health.

 

また、「暑熱順化」と「エアコンの使用」は、それぞれ対策を行う時期にも注目したらよいのではないでしょうか。

まず、エアコンは熱中症シーズンを通じて適切に使用すべきでしょう。

次に、暑熱順化は、予防の観点からは熱中症シーズンに入る前に獲得しておくことが望ましいです。

下のグラフは、2010年の東京と大阪の各日の最高気温(折れ線グラフ)と熱中症患者数(棒グラフ)との関係を表したものです。7月中旬の最高気温が35℃近くに達するあたりで患者数が著増していることがわかります。

したがって、このシーズンに入る前に暑熱順化を獲得しておけば熱中症にかかりにくくなることが期待されます。

f:id:atopysan:20160715185301p:plain

出典: Ono M, Heat Stroke and the Thermal Environment. JMAJ 56(3): 199–205, 2013. 

 

子どもに汗をかかせるということ

個人的には、最近の傾向として、「エアコンを適切に使用する」のではなく、「エアコンを常に使用する」ケースが増えているように感じます。

すると、エアコンを自動運転モードにしているから温度管理は適切だといわれてしまいそうです。しかし、そうはいってもエアコンが過剰に効きすぎているように感じられることが多々あります。

常に、過剰に、冷房が効いているなかでは、汗をかく機会は奪われることでしょう。けれども、死につながりうる熱中症を予防するためには、そのような環境こそが必要なのでしょうか。

朝日新聞の記事は、死の危険を根拠に、発汗機能を高めるために保育園でクーラーを使用しない方針を槍玉に挙げていました。

私は、保育園でのクーラー使用に関して、まったくクーラーを使用しないことは危険だと思います。一方、さほど暑くないのに、低すぎる温度設定で常にクーラーを使用することは「汗をかかない子になってしまう」かもしれないので心配です。

要は程度問題であり、臨機応変に対処すべき問題なのではないでしょうか。窓を開けて風通しを良くすることでも、暑さを防げる日や時間帯はあると思います。時間帯に限らず室内気温が高いのであれば、扇風機など併用しつつ速やかにクーラーを使用すべきでしょう。子どもの皮膚に潤いがなく乾燥しているのであれば、クーラーが効きすぎているのかもしれません。また、熱中症を考えるうえでは、湿度も関係してくると思います。水分補給は大前提です。

 

ところで、このところ、アトピー性皮膚炎の予防のためには生後から全身に保湿剤を塗る方が良いと医師により主張されています。さらに、汗をかくことに練習は必要ないなどと言われると、何とも言えぬ不自然さを感じないではいられません。

私には、こうした風景は、子どもを世界から隔離しているように映ります。全身保湿剤のバリアで外界から遮断し、夏でも暑さを感じない冷房の効いた部屋で過ごさせる。

子どもを外の世界へ適応させることが必要だと考えることは間違っているのでしょうか。私に子どもがいたなら、子どもの全身に保湿剤を塗ることはさせたくないし、夏の暑さを感じさせたいと思います。それが自然だからです。

そして、真夏が訪れる前に汗をかく練習をさせるでしょう。真夏でも、四六時中冷房の効いた部屋で過ごさせることはしないでしょう。窓を開けて風通しを良くし、日陰を通る風の心地よさを感じさせるでしょう。

涼しい時間帯であれば、外へ散歩に連れていき、しっとりと汗をかかせる程度に運動させることでしょう。帽子を被らせ、水をこまめに飲ませ、常に体調の変化に目を配りながら。

 

最後に、熱中症の参考資料を紹介します。この記事を書くなかで、大変参考になったのが、環境省の冊子「熱中症環境保健マニュアル2014」です。

よくまとまっていて有用なのですが、昨今情報が溢れるなかでこの情報にたどり着くことが難しいかもしれません。環境省のウェブサイトからダウンロードできます。そのウェブサイト自体も有用です(環境省熱中症予防情報サイト)。

また、この冊子のなかで、暑熱順化が説明されています。汗をかく練習の大切さを認識できると思います。

1.日常生活での注意事項

(4)暑さに備えた体作りをしましょう

熱中症は梅雨の合間に突然気温が上がった日や、梅雨明け後の蒸し暑い日によく起こります。このようなとき体はまだ暑さに慣れていないので熱中症が起こりやすいのです。暑い日が続くと、体がしだいに暑さに慣れて(暑熱順化)暑さに強くなります。この慣れは、発汗量や皮膚血流量の増加、汗に含まれる塩分濃度の低下、血液量の増加、心拍数の減少などとして現れますが、こうした暑さに対する体の適応は気候の変化より遅れて起こります。
 暑熱順化は、「やや暑い環境」で「ややきつい」と感じる強度で毎日30分程度の運動(ウォーキングなど)を継続することで獲得できます。実験的には暑熱順化は運動開始数日後から起こり、2週間程度で完成するといわれています。そのため、日頃からウォーキングなどで汗をかく習慣を身につけて暑熱順化していれば、夏の暑さにも対抗しやすくなり、熱中症にもかかりにくくなります。じっとしていれば、汗をかかないような季節からでも、少し早足でウォーキングし、汗をかく機会を増やしていれば、夏の暑さに負けない体をより早く準備できることになります。また生活習慣病の予防効果も期待できます。*5

 

(当サイトはいかなる治療法をも推奨するものではありません。また、当サイトに掲載されている情報を利用することにより発生したいかなる損害についても責任を負うものではありません。)

(引用部分の翻訳および赤字による強調表示は当サイトによります。正確な翻訳を期していますが、正確性を保証するものではありません。)