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アトピー覚書ブログ

成人型アトピー 脱ステ・脱保湿患者のブログ

期待の新薬ネモリズマブ

治療薬

アトピーにも抗体医薬品

アトピー治療は近く大きな転換期を迎えるかもしれません。

アトピー性皮膚炎を対象とする新しい抗体医薬品の登場によってです。

すなわち、デュピルマブとネモリズマブです。

現時点では、デュピルマブが先行し、その後をネモリズマブが追う形で開発が進められています。

デュピルマブについては過去の記事「期待の新薬デュピルマブ」で紹介しました。今回は、ネモリズマブについて、その概要を記したいと思います。

 

ところで、アトピー性皮膚炎の治療薬として、アンジェスMG社により、核酸医薬品に位置付けられるNF-κBデコイオリゴDNA軟膏製剤の開発が行われています。

開発の進捗状況が気になるところですが、今週発表された同社プレスリリースによれば、国内第Ⅲ相臨床試験において、有効性についてはプラセボ投与群との間で統計学的有意差が示されなかったとのことです。

この結果を受けて、アトピー新薬の開発競争としては、デュピルマブとネモリズマブの2つが抜きん出たといってもよいのではないかと思います。

 

ネモリズマブとは

ネモリズマブは、スイス製薬大手ロシュ傘下、中外製薬による自社創製の抗体医薬品です。中外製薬はネモリズマブ(CIM331)について次のように説明しています。

インターロイキン-31レセプターA(IL-31RA)を標的とした、抗IL-31レセプターAヒト化モノクローナル抗体です。IL-31は、そう痒誘発性サイトカインであり、アトピー性皮膚炎および透析患者におけるそう痒の発生に関与していることが報告されています。Nemolizumabは、IL-31とそのレセプターの結合を競合的に阻害することにより、IL-31の生物学的作用を抑制し薬効を発揮します。*1

 

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 IL-31とは

インターロイキンー31(IL-31)は、かゆみを引き起こすサイトカインであると考えられています*2 。

アトピー性皮膚炎診療ガイドラインにおいても、IL-31はヒスタミンとは異なる誘発機序のかゆみを引き起こすメディエーターとして言及されています。

アトピー性皮膚炎の瘙痒に対する抗ヒスタミン薬の効果は症例によって異なることから,ヒスタミン以外のメディエーターの存在が想起されている.近年,Th2 細胞が産生するサイトカインの1つであるIL-31 が瘙痒を誘導することが報告された¹¹⁾.*3

ネモリズマブは、IL-31とその受容体であるIL-31レセプターAとの結合を特異的に阻害することで、搔痒(かゆみ)を抑えるとのことです。

 

ヒト化モノクローナル抗体とは

モノクローナル抗体は、分子標的薬のなかの抗体医薬品に分類されます。

分子標的薬とは、病気の原因となる分子を標的とする薬のことです。病気の細胞を標的として攻撃するため、正常な細胞にはほとんど影響を与えず、副作用が少ないとされています。

「分子標的薬」は、病気の細胞(がん細胞など)の表面にあるたんぱく質や遺伝子をターゲットとして効率よく攻撃するくすりとして注目されています。*4

分子標的薬は、大きく次の2つに分類されます。

  • 低分子医薬品
  • 抗体医薬品

低分子医薬品は、分子量の小さい「低分子化合物」を用いた薬です。

抗体医薬品は「抗体」を用いた薬です。免疫グロブリンとして生物学的製剤にも含まれます*5

  

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抗体は、免疫グロブリンとも呼ばれ、ヒト免疫グロブリンには IgG、IgM、IgA、IgD、IgEの5種類のアイソタイプがあります。IgE 抗体は、アトピー性皮膚炎患者にとって馴染みのあるものと思います。なお、抗体医薬品の殆どが IgG 抗体です。

抗体医薬品は、抗体が抗原に特異的に作用する働きを利用するため、より効果的で副作用の少ない薬であるとされています。

私たちの体は、病原菌などの異物(抗原)が体内に入ってくると、その異物と結合する抗体をつくり、異物を無毒化する働きをもっています。これは「抗原抗体反応」と呼ばれ、人間にもともと備わっている免疫(めんえき)機能です。

「抗体医薬」は、この仕組みを人工的に利用したくすりです。病気の原因となっている物質に対する抗体をつくり出して体内に入れ、病気の原因を排除することで、予防や治療をおこないます。*6

 

現在、抗体医薬品の主流はモノクローナル抗体です。

B0007277 Monoclonal antibodies

B0007277 Monoclonal antibodies | Flickr
Anna Tanczos. Wellcome Images (CC BY-NC-ND 2.0)

 

モノクローナル抗体とは、単一のB細胞由来のクローンから得られる、特定のエピトープのみを認識する1種類の抗体の集合体です。

つまり、特定の目印(エピトープ)のついた敵(抗原)のみを攻撃する抗体の集合体(クローン)といえます。

この辺りの説明は、中外製薬のウェブサイトがわかりやすいです。「モノクローナル抗体とは?|バイオのはなし|中外製薬

 

また、モノクローナル抗体は、由来する遺伝子から、マウス抗体、キメラ型抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体に分けられます。ヒト抗体に近いほど安全性が高いとされています。

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モノクローナル抗体の命名においては、世界保健機関(WHO)が定める医薬品国際一般名称(INN : International Nonproprietary Name)が使用されています。

INNのモノクローナル抗体に共通するステムは「-mab」です。「monoclonal antibodies」の意味です。日本語では語尾がすべて「~マブ」となります *7

さらに、由来種によるサブステムがあります。ネモリズマブはヒト化抗体なので、サブステムは「-zu-」です。

  • マウス抗体「-o-」  blinatum-o-mab(ブリナツモマブ)
  • キメラ抗体「-xi-」  ritu-xi-mab(リツキシマブ)
  • ヒト化抗体「-zu-」nemoli-zu-mab(ネモリズマブ
  • ヒト抗体 「-u-」  dupil-u-mab(デュピルマブ)

 

ネモリズマブのねらいは「かゆみ」

ネモリズマブのポイントは「かゆみ」を抑えるところです。掻けば掻くほど炎症が強まりさらにかゆくなる「イッチスクラッチ・サイクル」を遮断することをコンセプトとしています。

アトピー性皮膚炎に伴うかゆみは、睡眠を妨げるなど患者さんのQOL を低下させるだけでなく、Itch-scratch cycle(かゆみとかきむしりの悪循環)による皮膚炎の悪化にもつながりうるものです。CIM331(引用者注:ネモリズマブの開発コード)は、この Itch-scratch cycle の遮断による皮膚炎の改善をコンセプトとして開発された、新しいメカニズムの新薬候補化合物です。*8

中外製薬によれば、中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者264名を対象とした第Ⅱ相国際共同治験において、CIM331の12 週時における有効性および忍容性が確認されたとのこと。

また、同治験において比較的多かった有害事象は、アトピー性皮膚炎、鼻咽頭炎だったとのことです。

 

デュピルマブとネモリズマブ

先月行われた日本皮膚科学会総会では、両新薬の治験の成果が一般演題で題目となっていました。皮膚科学会の重鎮たちも名を連ねています。

  • ネモリズマブ(CIM331)
    O3-5(P2-27)中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者を対象とした抗 IL31受容体抗体(CIM331)の第2相試験
    古江 増隆,Thomas Ruzicka,Jon M Hanifin,江藤 隆史,三原 良介,椛島 健治

  • デュピルマブ
    O20-1(P20-1)成人アトピー性皮膚炎患者に対する dupilumab の国際共同第 IIb 相試験:日本人サブ解析
    五十嵐敦之,川島 眞,江藤 隆史,大槻マミ太郎,奥泉 薫,有馬 和彦,Gianluca Pirozzi,Richard Wu,Neil Graham,Marius Ardeleanu

 

徐々に、アトピーの新薬登場が現実味を帯びてきています。日刊薬業(2016年6月23日付)によれば、デュピルマブは今年7~9月にもアメリカで申請する予定で、ネモリズマブは国内外ともに2019年以降の申請を目指しているとのことです。

 

この2つの薬に共通するのは、中等症から重症アトピー性皮膚炎を対象とした、皮下注射で投与するモノクローナル抗体であるということです。

異なるのは、標的となるサイトカインです。ネモリズマブはIL-31RAを阻害することでかゆみを抑制し、デュピルマブはIL-4RAを阻害することでIL-4およびIL-13によるTh2系の炎症反応を抑制するものと考えられます。

  • ネモリズマブ nemolizumab
     製薬会社:中外製薬(日:スイスロシュグループ)
     抗体:ヒト化抗体
     標的:IL-31RA

  • デュピルマブ dupilumab
     製薬会社:サノフィ(仏)、リジェネロン(米)
     抗体:ヒト抗体
     標的:IL-4RA

 

正直、どちらの薬が良いのかわかりませんが、先に上市されるであろうデュピルマブがシェア獲得において有利になると推測します。

いずれにしても、個人的に気になるのは次の3点です。

  • 副作用
  • 薬価
  • 外用薬との併用

 

副作用

副作用の情報としては、これまでに、デュピルマブでは結膜炎等、ネモリズマブでは鼻咽頭炎等が公に報告されています。

デュピルマブによる結膜炎に関して、治験の被験者によるネット掲示板への書き込みをみると、デュピルマブとの因果関係はわからないものの(被験者はデュピルマブとプラセボのどちらを投与されているかわからないため)、深刻な目の充血や炎症が起きたという書き込みが目立ちました。

デュピルマブの第Ⅲ相試験では、有害事象として、結膜炎がデュピルマブ群で7-12%、プラセボ群で2%みられ、投与中止が1 例ありました。デュピルマブによって非常に症状が改善したという人の話も聞きますが、リスクがないわけではありません。

 

薬価

薬価は、非常に高くなると思われます。サイトカインを阻害するという点では対症療法になると考えられるので、長期使用となれば大変な医療費がかかることでしょう。

モノクローナル抗体のひとつに、すでに関節リウマチ等の治療に用いられているアダリムマブ(ヒュミラ)という薬があります。一例として、ヒュミラの場合の医療費をみてみましょう。

ヒュミラの薬価(皮下注40mgシリンジ0.8mL)は、現時点で65,144円です。健康保険の3割負担の場合で19,540円です。これを2週に1回皮下注射する場合、月に2本必要となるので、毎月の薬剤費は39,080円です。年間で468,960円になります。実際には、高額療養費制度や医療費控除をうまく活用して費用を抑えていくことになると思います。

ネモリズマブやデュピルマブがどのくらいの薬価になるのかわかりませんが、モノクローナル抗体は高価なものという認識を予め持っておいた方が良いかもしれません。

 

外用薬との併用

ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬などとの併用がどのような形になるのかも気になります。

もし、週1回、あるいは2週に1回の皮下注射のみで治療が済むのであれば、外用薬を塗る必要がなくなるので、標準治療患者にとっては治療が格段に楽になると思います。

他方、例えば、ネモリズマブの標的がピンポイントでかゆみであり、抗炎症作用に乏しいのであれば、強い炎症がある場合にはステロイド外用薬との併用もあり得るのかもしれません。

デュピルマブについても、第III相試験において、ステロイド外用薬単剤による治療よりも、デュピルマブとステロイド外用薬を併用した治療の方が有意に改善したというデータが示されています*9

既存の外用薬と併用する形となると、それはそれでややこしいことになりそうです。

 

私は今のところ、免疫応答を抑制する薬物治療を行っていませんし、これからも行う予定はありません。ただ、これら新たな抗体医薬品について、本当に副作用が少ないのか、高いコストにみあう効果はあるのか、ステロイドやタクロリムスからのパラダイムシフトはあるのか、といった点に興味はあります。今後もその動向に注目したいと思います。

 

 

(2017年3月13日追記)

2017年3月2日、ネモリズマブの治験結果に関する論文がNEJMに掲載されるに際して、研究チーム及び製薬会社から報道発表がありました。

いくつかの報道機関が取り上げていましたが、一部気になる報道内容がありましたので、指摘しておきます。

 

まず、産経WESTによるネモリズマブの「副作用」についての報道です。

薬の副作用もなかった。*10

 

しかし、中外製薬のニュースリリースには副作用について次のように記されています。

頻度の高かった有害事象はアトピー性皮膚炎の悪化、鼻咽頭炎、上気道感染症、末梢性浮腫、およびCPK上昇でした。

有害事象のため治験中止に至った症例はnemolizumab群で15例であり、主なものはアトピー性皮膚炎に関連した事象(アトピー性皮膚炎の悪化、剥脱性皮膚炎)10例でした。*11

 

次に、NHKによる、ネモリズマブが「根治療法」であると誤解されかねない報道です。

アトピー性皮膚炎は、これまで湿疹を抑える塗り薬などはありましたが、かゆみを根本的に治す治療法はありませんでした。*12

あたかもネモリズマブが、かゆみを根治する薬であるかのような言い回しです。

確かに、ネモリズマブは、かゆみを引き起こすとされるIL-31に対して特異的に作用すべく開発されていますが、IL-31の産生にはEPAS1やDOCK8欠損などが関与していると考えられています。

したがって、この経路においてIL-31のみをねらいとするネモリズマブは、根治療法とはいえず対症療法であるといえるでしょう。


上記の産経とNHKの報道を併せ読むと、"ネモリズマブはかゆみを根本から治して、副作用もない薬" であると誤解する人が出てくる可能性があります。

私の理解では、"ネモリズマブはかゆみを抑えて、副作用も従来より少ないと考えられる薬" であると思います。

 

 

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