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アトピー覚書ブログ

成人型アトピー 脱ステ・脱保湿患者のブログ

アトピー患者の汗対策

最近流行りの汗対策

多くのアトピー性皮膚炎患者は、汗をかくとかゆくなります。これは根拠を示さずとも常識的に受け入れられる話であると思います。

ところが、汗でかゆくなるにもかかわらず、2~3年程前から、むしろ汗をかいた方がアトピーの改善には良いと主張されることが多くなりました。

私も総論的にはこの主張に賛同しますが、各論については賛同しかねる点があります。今回は、この汗対策に関して一患者の意見を述べたいと思います。

 

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最近、アトピー性皮膚炎の汗対策について、次の2点がセットで語られることが多くなりました。

  1. 「汗をかくこと」を避ける必要はなく、発汗した方が改善につながる。
  2. 「かいた後の汗」が症状を悪化させるので、汗は洗い流す。

この2点が、アトピーについてよく知らない医師、または重症アトピー患者を診察したことがない医師によって、医院ホームページやその他メディアにコピペされ、増幅され、認知されてしまっているように思います。

 

コピペ元であろうアトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版を確認します。

汗には皮膚の温度調節,感染防御,保湿といった大切な役割がある⁸⁷⁾.汗はアトピー性皮膚炎の悪化因子との見方もあるが⁸⁸⁾,病態への関与については「汗をかくこと(発汗)」と「かいた後の汗」を区別して考える必要がある.発汗が症状を悪化させるという科学的な根拠はなく,また発汗を避ける指導が症状を改善したとするエビデンスはない.つまり発汗を避ける指導は必要ない.むしろ,アトピー性皮膚炎では発汗機能に異常を認め,時間あたりの発汗量が少ない⁸⁹⁾~⁹¹⁾.よって発汗機能の回復も治療到達目標の一つとなりうる.
一方,「かいた後の汗」は痒みを誘起することがある⁹²⁾.発汗の多い季節の症状緩和に(水道水による)シャワー浴が有効なことから⁹³⁾~⁹⁵⁾(CQ10:推奨度1,エビデンスレベル:B),かいた後の汗はそのまま放置せず,洗い流す等の対策を行う事が推奨される

この記述にはアトピーと汗を語るうえで、抜け落ちている点がいくつかあるように思います。

 

「汗をかくこと(発汗)」と「かいた後の汗」

ガイドラインは、かく汗のタイミングの違いから、汗を2つのタイプに区別しています。

「汗をかくこと(発汗)」と「かいた後の汗」を区別して考える必要がある.

「汗をかくこと(発汗)」(以下、「発汗」という。)は、言い換えれば、かいた直後の汗です。「かいた後の汗」とは、かいた後にしばらく放置した汗をさします。

そして、前者の「発汗」については避ける必要はないといいます。

発汗が症状を悪化させるという科学的な根拠はなく,また発汗を避ける指導が症状を改善したとするエビデンスはない.つまり発汗を避ける指導は必要ない.

一方で、「かいた後の汗」はかゆみを引き起こすことがあるといいます。

「かいた後の汗」は痒みを誘起することがある⁹²⁾.

この「かいた後の汗」について、一般的には次の要因等でかゆみが起きるといわれています。

  • 皮膚に残された汗の成分が皮膚を刺激する。
  • 皮膚のpHが弱酸性からアルカリ性に傾いて皮膚(細菌叢等)に影響する。
  • マラセチアグロボーサによるMGL_1304の分泌量が多くなる。

 

整理すると、ガイドラインは次のように主張しています。

  • 「発汗」    →悪化しない
  • 「かいた後の汗」→悪化する

一方、私の患者としての実感は次の通りです。

  • 「発汗」    →悪化する(条件付き)
  • 「かいた後の汗」→悪化しない

 

つまり、ガイドラインとは正反対なのです(但書きの「条件付き」については後述します)。この点、多くのアトピー患者の賛同を得られると信じています。

以下、具体的に解説します。

 

「発汗」によって当然に悪化する

なぜ、「発汗」によって悪化すると思うのでしょうか。それは、汗をかいたらすぐにかゆくなるからです。私の場合、汗によるかゆみは即時型です。

汗が皮膚表面に出てきたときが最もかゆくなるときです。掻き壊してしまうのも発汗時です。ですから、「発汗」によって悪化しうると考えるのです。

また、汗によるかゆみの強さは皮疹の重症度にも左右され、重症の場合は大変にかゆくなることがあります。ですから、重症患者が、いたずらに汗をかくと、あまりのかゆみにひどく掻き壊して非常に悪化してしまう可能性があります。

したがって、一時的には「発汗」を避ける対策により、症状が改善する場合もあるのです。

ガイドラインは、「発汗」が症状を悪化させる科学的根拠はないといいます。しかし、現実には、「発汗」は症状を1日にして極端に悪化させる大変恐ろしいものなのです。

 

下の図をみてください。成人ないし重症アトピー性皮膚炎患者3名(10年以上顔面を含む全身にステロイド外用を行っていた症例)の経過を追ったグラフです。急性増悪が「発汗」によってもたらされていることがわかると思います。なかには、リバウンドに近い悪化もみられます。

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アトピー性皮膚炎には悪化と寛解の波があるといわれますが、このように「発汗」は大きく悪化に振れる要因のひとつです。

 

私自身の例を示します。

脱保湿を始めて間もない頃のことです。全身的にかゆみと乾燥が強く、赤く炎症を起こしており、所々浸出液も出て、重症アトピー性皮膚炎といってよい状態でした。その状態で汗をかくと、猛烈にかゆくなりました。

そのため、当時は発汗を避けるように努力していました。とはいえ、夏は外へ出れば汗をかかざるをえないので、ある種の覚悟を決めて外出していました。

猛烈なかゆみがどの程度のものなのかは、なかなか理解してもらえません。

例えば、あるターミナル駅の構内を急いで移動していたときのこと。早歩きのために多めに発汗してしまったことがありました。その時は、あまりのかゆみに歩くこともままならず、その場に座り込んでしまいました。多くの人が行き交うターミナル駅構内で、人目も気にせず掻きむしります。こうなると他には何もできなくなります。かゆみの嵐が去るのを待つほかありません。発作的なかゆみに耐え続けたあと、再び立ち上がって歩き出すまで10分くらいかかりました。大変な無力感とともに、深い傷跡が残りました。

こうした「発汗」による掻きむしりの傷は、場合によっては数か月治らないこともありました。汗によるたった1度の掻破によってです。

アトピー患者のなかには、夏場はエアコンの効いた部屋の中で過ごしているという人がいます。医師や他のアトピー患者は、そうした人を見て、「外へ出て積極的に汗をかいた方が改善するのに」と考えるかもしれません。

でも、私には、そのようなアトピー患者の気持ちがわかる気がします。おそらくかなりの重症患者で、汗をかけば "猛烈に" かゆいのです。このかゆみは、健常人のみならず、軽症~中等症アトピー患者でもわからないと思います。一部の重症患者は、猛烈なかゆみに伴う激しい掻破と悪化を経験しているので、気軽に汗をかくことができないのです。

 

以上のような患者としての経験からは、ガイドラインの「発汗を避ける指導は必要ない」とする主張は、到底受け入れられるものではありません。

ガイドラインがそのように考えるのは、発汗時のかゆみが、

  • 即時型であること
  • 重症の場合は大変にかゆいこと

について、認識が甘いからだと思われます。つまり、患者へのヒアリングが足りないのです。

 

「かいた後の汗」は取るに足らない

次に、ガイドラインは「かいた後の汗は痒みを誘起することがある」といいます。しかし、私の場合、自覚的には、かいた後の汗でかゆくなったことは1度もありません。

入浴後の汗が良い例です。熱い湯に浸かった後は、タオルで身体を拭いた後も汗が出てきますが、その風呂上がりの汗を放置してもかゆくなることはありません。

日中の場合でも、汗をかいて発汗時に1度かゆみの発作が起きた後では、その汗を放置してもかゆくなることはありません。少なくとも私の場合はそうです。

他にも、私には脱風呂の経験があります。脱風呂とは、皮脂分泌や痂疲形成を促進させることなどを目的として、あえて風呂に入らないことを指します。夏場にこの脱風呂を実践していたときのこと。日中に汗をかいても、シャワーを浴びず、風呂にも入らないという生活を1週間ほど続けていました。それでも、汗を放置していたことによってかゆみが生じるということはありませんでした。もちろん、「発汗」時にはかゆみを覚えました。

思うに、「かいた後の汗」などという悠長なことを言っている間に、「発汗」時の即時型なかゆみによって掻き壊してしまうことは必至で、あとの祭りとなってしまいます。

 

「かいた後の汗」を洗い流す?

続いて、ガイドラインによる具体的な汗対策の記述をみてみます。

かいた後の汗はそのまま放置せず,洗い流す等の対策を行う事が推奨される.

これについては失笑するほかありません。

以下、「かいた後の汗」は取るに足らないことを前提に、発汗対策全般として述べます。

汗をかいたときにシャワー浴によって症状が緩和されることについては、異論はありません。しかし、本当に単純な疑問なのですが、外出先で汗をかいたらどこでシャワーを浴びればよいのでしょうか。

学校や職場にいつでも使えるシャワー設備が整っているところなど一握りでしょう。世間はいつでもどこでもアトピー患者にシャワーを浴びさせてくれるほど、アトピーに理解を示していません。

これに対して、外出先ではおしぼりやウェットティッシュで汗を拭き取りましょうと指導されることがあります。しかし、繰り返しますが、汗によるかゆみは即時型なので、この対策もうまくいくとは限りません。

具体的な場面で説明しましょう。夏、日中に汗をかく場面は、通勤時が多いです。朝から気温が高い日を想像してください。暑い中を家から駅まで歩きます。そして駅で電車に乗ります。実に、発汗が起こるのはこのときです。運動中はそれほど汗が出ないのに、運動を止めた瞬間に汗が大量に出てくることを経験した人も多いことでしょう。まさに電車に乗り込んで歩みを止めた瞬間に汗が噴き出てくるのです。そして、かゆみが生じるのもこの瞬間です。猛烈なかゆみです。想像してください。このときあなたはウェットティッシュで汗を拭くことができるでしょうか。

混雑する車内で立ち位置を確保し→バッグを手繰り寄せ→バッグを開け→ウェットティッシュを探し出し→ウェットティッシュを取り出し→衣服をずらして→汗をふく

このように、いくつものアクションを経なければならないのです。ものの数秒かもしれませんが、瞬間的に襲ってくる猛烈なかゆみに数秒間耐えることは困難です。ウェットティッシュに手が伸びる前に、かゆいところを掻破してしまう確率の方がはるかに高いといえるでしょう。

さらに、発汗部位が一部に限られているわけではありません。額、首、胸、腹、肩、背中、腰、腕など、ほぼ上半身全体に発汗することがあり得ます。その場合、すべてを拭き取る前に掻破してしまうでしょう。

また、車内の人の目があるので、ウェットティッシュで汗を拭く行為自体がはばかられることもあります。

現実をみれば、「汗をかいたら洗い流しましょう、拭き取りましょう」という指導は、机上の空論にすぎません。

 

汗をかいた方が良い場合もある

ここまで、発汗で悪化することについて述べてきました。私の主張を再掲します。

  • 「発汗」    →悪化する(条件付き)
  • 「かいた後の汗」→悪化しない

ただし、条件によっては改善することもあると考えています。つまり、条件次第ではガイドラインと同意見です。ここで、「条件付き」の意味について説明します。

発汗による悪化と改善。矛盾するようですが、2つの現象を重ね合わせると、下図のようなイメージです。

 

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感覚的には、汗をかいて皮膚を掻いてしまったとしても、掻破による炎症を上回る力で炎症を抑え込む力が発汗にはあるのです。乾燥が軽減され、赤味が落ち着き、湿疹が徐々に消失していきます。夏場に改善する理由も発汗によるところが大きいです。

ただし、どんな発汗でも良いというわけではありません。例えば、先程示したように、重症患者に対していきなり発汗を促しても悪化するだけです。

どのような発汗によって改善しうるのか、重症患者がいかに汗をかけるようになるのか、それらについては稿を改めたいと思います。

 

最後に

上記はすべて、私個人の経験を基にした記述ですから、すべてのアトピー患者にあてはまるわけではないことはわかっています。

しかし、ステロイドに依存する患者がいるように、ワセリンで悪化する患者がいるように、発汗で悪化する患者は確かにいます。

にもかかわらず、「発汗を避ける指導は必要ない」などと軽々に主張されると、異論を述べたくなるわけです。

現行ガイドラインが示す汗対策によって、アトピー患者の汗問題が解決することはないでしょう。皮膚科医にありがちな、理論を現実にあてはめようとする傾向、エビデンスを一律に患者へあてはめようとする傾向を、是正していくところから始める必要があると思います。

 

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