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アトピー性皮膚炎における発汗障害

汗が出ないとアトピーは悪化する?

先の記事「アトピーと汗」 で、アトピー性皮膚炎患者の多くが、うまく汗をかくことができない、いわゆる「発汗障害」をもっていることに触れました。

今回は、その発汗障害について、さらに詳しく掘り下げてみたいと思います。

 

まず前提として、汗が出ないとなぜアトピーが悪化するかについて押さえておきます。

仮説のひとつとして、次のようなメカニズムの存在が指摘されています。

汗をかく機会(体温上昇、精神的ストレス、緊張など)

→汗が(出ているように感じても)必要な量出ない

→皮膚に熱がこもる、乾燥する、乾燥しやすくなる

→皮膚症状の悪化*1

補足すると、汗が必要な量出ないことで、角層水分量が不足し、皮脂膜が十分に形成されず、TEWL(経表皮水分蒸散量)が増加するなど、皮膚バリア機能の低下につながることが考えられます。その結果、皮膚乾燥などによりかゆみが生じる可能性があります。

 

では、なぜアトピー性皮膚炎において発汗障害が起きるのでしょうか。原因は現時点ではよくわかっていませんが、次の説が指摘されています。

  • 汗腺からの産生・分泌異常
  • 汗腺(汗管・汗孔)の閉塞
  • 発汗を支配する交感神経の異常

 

汗腺からの産生・分泌異常

まず、汗腺から汗が分泌されにくい原因として、ヒスタミンが汗の分泌を抑制しているという報告があります。

アセチルコリンで実験的に誘発される発汗がヒスタミンによって抑制される現象を確認しました。光コヒーレンストモグラフィーによる観察ではアセチルコリンを投与した際の皮膚内の汗管を通る汗を観察できますが、ヒスタミンを投与すると汗は出てこなくなります(図2)。このことから、ヒスタミンは汗腺に直接影響すると考えられました。研究グループは2光子顕微鏡を用いて汗腺の動きを観察した結果、ヒスタミンが汗腺に作用し、汗の分泌を障害することを確認しました(図2)。

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図2 汗と汗腺の動きの可視化*2

 

アトピー性皮膚炎がアレルギー疾患であるという立場からすれば、アレルギーにかかわるヒスタミンによって発汗障害が起きているという指摘は受け入れやすい話です。

ヒスタミンが原因であれば、抗コリン作用を伴わない抗ヒスタミン薬の内服等によって発汗機能が改善するのかもしれません。

 

汗腺(汗管・汗孔)の閉塞

汗が汗腺から分泌されていても皮膚表面に供給されないのは、汗管や汗孔が詰まっているからだという指摘は昔からなされてきました。

また、閉塞によって汗が周辺組織に漏出し、その汗に何らかのアレルゲンが含まれているから疾患が生じているともいわれます。

次に引用するのは、サルツバーガーらによって提示された仮説です。

数人の研究者らが、(汗が皮膚表面へ正常に供給される代わりに)機能性の分泌腺房を含む固定された栓または管の閉塞が、周囲皮膚組織への分泌汗の漏出または注入を引き起こしうるという事実を確認している。

これら大量に繰り返される組織への汗の自己注入は、いくつか例を挙げれば、汗疹のいくつかの兆候の原因だけでなく、様々な他の"チクチク"感やかゆみ感覚の誘因、また、ある種の水疱・湿疹病変、丘疹や苔癬様発疹、特殊な蕁麻疹などの発現において、重要な役割を果たしているとみなされている。

理論的には、場合によっては少なくとも、上記の病変や類似する皮膚病は、個人に曝露されている特異的アレルゲン、または食事由来の刺激物、吸入抗原、薬物等を含んだ汗の自己皮内注入に起因している可能性があるように思われる。*3

 

実際に、汗腺の周囲組織において、汗腺から分泌される物質(ダームシジン)が検出されることが確認されています。つまり、汗腺から汗が漏れていることはどうやら確からしいのです。

もっぱら汗腺で産生される新しい抗菌ペプチドであるダームシジンは、汗腺や汗管、管腔だけでなく、汗腺に隣接する皮膚組織においても多量に検出される。

これらの結果は、汗が管腔内に貯留し、または皮膚組織の中へ流れ込んだために、炎症が引き起こされている可能性を示している。このように、アトピー性皮膚炎の慢性炎症は、ひとつには汗供給システムの機能障害が原因かもしれない。*4

 

下図は汗疹(あせも)における汗の貯留を示したものです。場合によっては、貯留するだけにとどまらず、周囲組織へ汗が漏出している可能性が考えられます。

汗疹に限らず、このような汗腺の閉塞が、アトピー性皮膚炎や蕁麻疹などの疾患に悪影響を及ぼしているのかもしれません。

f:id:atopysan:20160617185047p:plain(清水宏(2011)『あたらしい皮膚科学 第2版』中山書店. より)

 

発汗障害におけるかゆみ

さて、発汗障害が「かゆみ」を誘発するメカニズムのひとつとして、アセチルコリンがマスト細胞を刺激してヒスタミン遊離を誘導している可能性が指摘されています。

例えば、減汗性コリン性蕁麻疹では、交感神経(Sympathetic nerve)から放出されたアセチルコリン(Ach)がマスト細胞(Mast cell)の脱顆粒を誘導しているのではないかという仮説があります。

下図のように、正常発汗部(Normal hidrotic area)では、アセチルコリンが汗腺(Sweat gland)のアセチルコリン受容体(AchR)に取り込まれて正常発汗が生じています。

しかし、低発汗部(Hypohidrotic area)では、過剰となったアセチルコリンが一部漏出してマスト細胞に直接作用していることが推測されるのです *5

なお、汗管閉塞などで漏出した汗にマラセチアなどの抗原が含まれており、自己汗皮内反応に陽性である場合は、発汗障害によりアレルギーが生じることも考えられます*6

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(Bito T et al. Pathogenesis of Cholinergic Urticaria in Relation to Sweating. Allergology International. 2012;61:539-544. より引用)

 

発汗を支配する交感神経の異常 

エクリン汗腺は交感神経の支配を受けています。

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交感神経は、汗腺に対して作用するために、神経伝達物質(Neurotransmitter)のアセチルコリンを放出します。アセチルコリンがその受容体と結合することで、汗腺から発汗が促されます。

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アセチルコリンの受容体は、ムスカリン受容体とニコチン受容体の2つに大別されます。

このうち、ニコチン受容体を介した交感神経節後線維の刺激によって生じる発汗を、「軸索反射性発汗」と呼んでいます。

そして、アトピー性皮膚炎患者では、この軸索反射性発汗量が有意に低下しており、かつ、発汗に要する時間が有意に延長しているという報告があります*7

すなわち、アトピー性皮膚炎患者では、交感神経のうち節後線維部の機能低下が起きていることが示唆されているのです。

 

患者の実感として

いわゆるアトピー患者としては、汗が出にくいという実感があります。ただ、私の場合、汗の量が少ないという感じはあまりありません。

はっきりしているのは、次の2点です。

  • 皮疹部と無疹部で汗の出方に違いがある
  • 汗が出るまでに時間がかかる

 

まず、汗の出方の違いです。

無疹部では、いわゆる「玉のような汗」が出ます。一方、皮疹部、とくに皮膚萎縮や苔癬化が生じている部位では、「滲み出て濡れる汗」となります。

当たり前のようですが、皮疹部は皮膚が薄くなったり肥厚したりしているので、汗管に組織形態学的な変化が生じて、汗がうまく通れないことが容易に推測されます。おそらく漏出もしやすいのでしょう。

次に、汗が出るまでに時間がかかることについてです。

汗が出にくいといっても、もちろんまったく出ないわけではありません。感覚としては、汗を出すべき状態となったときに、体全体としては汗を出すことを欲しているのに、汗腺など末端では出すのをぎりぎりまで我慢して、溢れ出そうになった時にようやくだらだら出し始めるのです。この時点を越えれば、汗の量はそれなりに出ます。

確かに自律神経系の異常があるのかもしれません。アトピー患者に多い寒がりであることも関係しているような気がします。寒がりだと温熱刺激を認識するまでに時間がかかりますし、日常的に体温を下げないように毛包部などが引き締められているように感じるからです。皮膚が引き締まっているために汗が出にくいという感覚があります。鳥肌も立ちやすいです。

 

現在の発汗の様子について記します。私はよくジョギングをするのですが、自覚的に発汗が生じ始めるのは大体2km地点付近です。1km走るのに約5~6分かかりますから、発汗を生じさせるには、運動による温熱刺激を10~12分負荷しつづけなければなりません。

それも、やっと胸と腹などの体幹に汗がじわりと出てくる程度です。それから徐々に背中、尻、首、額など体の中心部から末端方面へ発汗部位が広がり、さらに3km地点(約15~20分)付近で腕に発汗が生じてきます。ただし肘窩は早めに発汗します。

そこから下肢に発汗が生じるまでにはさらに時間がかかります。やはり膝窩は早めに発汗します。冬は下肢まで発汗させるのに一苦労です。

もちろん季節的な変動があり、発汗量は気温に大きく左右されます。上記は概ね寒い時期の場合で、夏はより早く発汗します。また、夏は発汗に慣れるという要素もあります。

 

以上のような発汗異常への対策として、最近、ヘパリン類似物質が有効であるという報告がありました。 

発症から5年以内の急性期では全体として発汗反応は低下するものの,他部位での代償性の発汗亢進が著明であり,これが皮疹の増悪因子になっている.しかし発症から5年以上経過すると,その代償性発汗もみられなくなり,全体として著明な発汗低下をきたすようになる.この発汗低下はAD患者の皮膚の特徴である乾燥に重要な役割を果たしており,外用剤として広く用いられているステロイド剤はこの発汗反応を抑制する.それに対して保湿剤として用いられているヘパリン類似物質は,この発汗反応を著明に亢進させることも明らかになった.*8

ステロイド剤は発汗反応を抑制し、ヘパリン類似物質は発汗反応を亢進させるそうです。 

後者については、にわかには信じがたいです。私の場合、軟膏ベースの保湿剤を塗ったところに汗をかくとかゆくなるからです。汗孔が塞がれて汗の逃げ場がなくなるからかもしれません。

ヒルドイドのなかでもローションタイプなら良いのでしょうか。いずれにせよ、気になる報告ではあります。

 

最後に

汗の出方がおかしい、汗をかくとかゆい、など、汗に関しては日常生活で困ることがたくさんあります。私だけではなく、多くのアトピー患者が汗に悩まされていると思います。

例えば、発汗に関して、次のような不思議な現象に悩まされている患者もいるのです。 

ある症例では、ステロイドと保湿離脱初期に、ピロカルピンテスト(ピロカルピンを皮内注射すると、1~2分以内に注射周囲に発汗が起こる現象を調べるテスト)では発汗があるにもかかわらず、運動で発汗が生じなかった。皮疹がよくなると運動で発汗が生じた。別の症例では、脱ステロイド初期に発汗部位の日内変動が起こった。午前には体幹の右半分だけであったのに、正午に近づくにつれて全体に発汗が生じ、午後になると左側のみに発汗が生じた。また、別の患者では、掻破した部分のみの発汗が生じた、などである。*9

発汗異常の原因が、先に挙げたような汗腺や自律神経の異常にあるという指摘は、その通りであるように思います。しかし、このような報告を目にすると、それだけでは説明できない何らかの異常が生じているようにも思えます。

私の場合、汗をかくと皮膚症状が改善するタイプなので、発汗障害が克服できればさらなる改善への一歩となることは間違いありません。発汗障害を含む汗に関する研究がさらに発展することを望みます。

 

(当サイトはいかなる治療法をも推奨するものではありません。また、当サイトに掲載されている情報を利用することにより発生したいかなる損害についても責任を負うものではありません。)

(引用部分の翻訳および赤字による強調表示は当サイトによります。正確な翻訳を期していますが、正確性を保証するものではありません。)

*1:室田浩之, アトピー性皮膚炎における発汗障害. 日皮会誌 : 124(7), 1289-1293, 2014.

*2:アレルギーの主役・ヒスタミンが発汗を抑制していた―アトピー性皮膚炎や発汗異常症などの治療に光― — 大阪大学

*3:Sulzberger MB, et al. Studies of sweating. VI. On the urticariogenic properties of human sweat.J Invest Dermatol. 1953 Nov;21(5):293-303.

*4:Shiohara T (ed): Pathogenesis and Management of Atopic Dermatitis. Curr Probl Dermatol. Basel, Karger, 2011, vol 41, pp 68–79.

*5:Bito T et al. Pathogenesis of Cholinergic Urticaria in Relation to Sweating. Allergology International. 2012;61:539-544.

*6:戸倉新樹, 発汗障害とコリン性蕁麻疹, 臨床免疫・アレルギー科, 64(5) : 501-515, 2015.

*7:Kijima A et al. Abnormal Axon Reflex-Mediated Sweating Correlates with High State of Anxiety in Atopic Dermatitis. Allergology International. 2012;61:469-473.

*8:塩原哲夫, S10-1 発汗障害と皮膚アレルギー, 第64回日本アレルギー学会春季臨床大会抄録集より, 2015年5月.

*9:佐藤健二 (2015)『〈新版〉患者に学んだ成人型アトピー治療』,つげ書房新社.