読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

アトピー覚書ブログ

成人型アトピー 脱ステ・脱保湿患者のブログ

マラセチアとアトピー性皮膚炎

アトピーと汗

マラセチアとは

マラセチア(Malassezia)は皮膚に常在するカビの一種です。

マラセチア属真菌はヒトや動物の毛包の開口部周囲に常在している真菌で、脂質を栄養源として利用している唯一の真菌*1

Malasseziaは環境中には存在せず、ヒトや動物の皮膚に常在する担子菌系の酵母である。増殖に脂質を要求することから皮脂の多い部位に定着しやすく、癜風や脂漏性皮膚炎等の各種疾患の原因となる。*2

マラセチア属として、現時点では、次の14菌種が報告されています。赤字で示したのがヒトに寄生する菌種です *3*4*5

  • M. caprae
  • M. cuniculi
  • M. dermatis
  • M. furfur
  • M. equina
  • M. globosa
  • M. japonica
  • M. nana
  • M. obtusa
  • M. pachydermatis
  • M. restricta
  • M. slooffiae
  • M. sympodialis
  • M. yamatoensis

 

このうち、特にM. globosa(マラセチア グロボーサ)とM. restricta(マラセチア レストリクタ)が、次の皮膚疾患等と関連することが指摘されています。

  • 癜風(でんぷう)
  • マラセチア毛包炎
  • 脂漏性皮膚炎
  • アトピー性皮膚炎

 

Malassezia globosa
Malassezia globosa
AJC ajcann.wordpress.com/Flickr (CC BY-SA 2.0)

 

マラセチアとアトピー性皮膚炎

とりわけアトピー性皮膚炎患者では、M. globosa および M. restricta の検出率が健常人と比べて高いことが報告されています。

 

f:id:atopysan:20160610192055j:plain

 

2013年、M. globosa の産生する蛋白質 MGL_1304 が、 ヒトの汗の中に含まれるヒスタミン遊離活性物質(汗抗原)であると同定されたことは画期的な発見でした。

つまり、アトピー性皮膚炎患者が汗をかいてかゆくなる理由のひとつとして、汗に含まれる MGL_1304 へのアレルギー反応が考えられるのです。

MGL_1304は、M. globosaから分泌され、ヒト肥満細胞株から脱顆粒を起こすとともに、アトピー性皮膚炎患者末梢血好塩基球からはアレルギー反応に重要なサイトカインの一つであるIL-4の産生を引き起こすこともわかりました。*6

 

今のところ MGL_1304 に対する直接的な治療法は開発されていません。ただ、これまでも、ある種の皮膚疾患に真菌のマラセチアが関与しているだろうことは知られていたので、マラセチア対策として抗真菌薬による治療が行われてきました。

一般的には、ケトコナゾール(商品名:ニゾラール等)の外用や、イトラコナゾール(商品名:イトラコナゾール、イトリゾール等)の内服が行われていると思います。

そして、これら抗真菌薬が、一部のアトピー性皮膚炎に対して有効であることが示唆されています。例えば、アトピー性皮膚炎患者では、IL-4,IL-5の放出量が健常者と比較して高いところ、抗真菌薬はこれらサイトカインの放出を抑制したという報告があります。

アゾール系抗真菌薬ケトコナゾール, イトラコナゾール, ミコナゾール, 非アゾール系抗真菌薬テルビナフィン, トルナフタートはアトピー性皮膚炎患者T細胞において抗CD3,CD28抗体刺激によるIL-4, IL-5の放出を濃度依存性に抑制し, 1μMが示適濃度であった*7

 

また、成人型アトピー性皮膚炎のなかには、ステロイド外用薬による治療が奏功しないケースがあり、かつ、こうしたケースではしばしば頭頸部の症状が重篤であるといわれます。

ここで、M. globosa や M. restricta の部位別の検出量をみると、頭頸部での検出量が体幹や四肢に比べて有意に多いことが報告されています。

 

f:id:atopysan:20160610192400j:plain

 

したがって、ステロイドがあまり効かず、頭頸部の症状が重篤である症例において、抗真菌薬による治療が試みられる場合があります。実際に、こうした治療が有効なケースがあるようです。

治療前にMalasseziaの菌量を調べてみると、皮疹部は無疹部に比較して多く、頭頚部や躯幹に多く認められました。投与例14例の内、アトピー性皮膚炎の頭頚部の湿疹の改善度を見ると、軽快が9例、不変が5例でした。また、有効例においてMalassezia菌量が減少している傾向がみられました。さらに、一部の症例においては、イトラコナゾール投与後にMalassezia菌量とMalassezia特異的IgE 抗体が減少し、症状も軽快している症例が認められました。*8

 

MGL_1304対策

さて、アトピー性皮膚炎患者において、M. globosa由来のMGL_1304特異的IgEが産生されていることが確認されたわけですから、このMGL_1304への対策がこれから重要性を増してくると思われます。

具体的には、今のところ次のような対策が考えられると思います。

  1. 抗真菌薬により M. globosa を減らして MGL_1304 の産生を減らす。
  2. ステロイド等の外用により皮膚をよい状態に保ち、汗の浸透を防ぐ。
  3. MGL_1304抗原を用いたアレルゲン免疫療法(減感作療法)を行う。

この点、1.は従来から行われているわけですが、有効な症例が限られており、また皮膚常在菌を減らすことによる二次被害の可能性があることから、積極的には選択しにくい治療であるように思います。

2.はステロイド外用薬の免疫抑制機能および皮膚バリア破壊機能がむしろ悪影響を及ぼす可能性があります。

すると、3.のアレルゲン免疫療法が最適な治療法ではないかと、個人的には考えます。

すでに、広島大学では、マラセチア抗原を用いた減感作療法の治験を行っているようです。

精製汗抗原またはマラセチア抗原を用いた減感作療法の有効性の検討|関連する治験情報【臨床研究情報ポータルサイト】

 

 

ただ、ここまで話を進めておきながら元も子も失うような話ですが、MGL_1304だけが悪者なのか、という問題もあります。

例えば、MGL_1304を同定した広島大学の研究者らは、次のようにも記しています。

汗中には今回同定された MGL_1304 の他に少なくとも1つ以上の即時型アレルギー抗原が存在することを示す証拠があり、それらの抗原について検討中である。*9

MGL_1304の他にも抗原が存在するというのです。そうであれば、MGL_1304特異的な対策よりも、患者それぞれの精製汗抗原を用いた減感作療法の方が有効なのかもしれません。

現時点では、汗に含まれる抗原に関して、なかなか出口の見えない話となっています。

 

最後に

いずれにしても、MGL_1304を同定したという広島大学の研究成果は画期的なものであったと思います。また、汗に関しては、大阪大学でも盛んに研究が行われているようです。

広島大学や大阪大学が、アトピーに関連して汗にも着目して研究を行っている点は秀逸だと思います。患者にヒアリングをすれば、おのずと「汗」がクローズアップされてくるはずであり、患者の声を汲み取ってくれているように感じられるのです。

私の場合、1日で皮膚を掻き壊してしまう原因の殆どは汗によるものでした。汗による悪化さえなければ、アトピーは相対的にかなり楽になるはずです。掻き壊しの機会を減らすことができれば、ステロイド等の治療薬の量も減らせるでしょう。標準治療の観点からも、汗対策は合目的だと思います。

ステロイドによる治療を望まない個人的な立場からは、精製汗抗原を用いた免疫療法の確立に力を注いでほしいと思います。今後の研究に最も期待したい分野です。

 

*1:清佳浩, マラセチア関連疾患. Med. Mycol. J. Vol.53,97-102, 2012.

*2:杉田隆, Malasseziaの菌学, Jpn.J. Med. Mycol. Vol.48 (No.4), 2007.

*3:Cabanes, FJ, Theelen, B, Castella, G, Boukhout, T (2007). "Two new lipid-dependent Malassezia species from domestic animals". FEMS Yeast Research 7 (6): 1064-1076.

*4:Cabanes FJ, Vega S, Castella G (2011). "Malassezia cuniculi sp. nov., a novel yeast species isolated from rabbit skin". Medical Mycology 49 (1): 40-48.

*5:Kaneko T et al. "Human external ear canal as the specific reservoir of Malassezia slooffiae". Med Mycol. 2010 Sep;48(6):824-7.

*6:広島大学ニュースリリース「アトピー性皮膚炎患者における汗アレルギーの原因物質を同定」(2013年6月6日)より

*7:神田奈緒子, 抗真菌薬はアトピー性皮膚炎患者T細胞のIL-4,IL-5産生を抑制する. Jpn.J.Med.Mycol.Vol.45,137-142,2004.

*8:坪井良治, アトピー性皮膚炎と脂漏性皮膚炎における真菌、特にマラセチアの役割について. マルホ皮膚科セミナー. 2011年7月21日

*9:平郡真記子, 平郡隆明, 秀道広, アトピー性皮膚炎と汗抗原. 臨皮, 68巻5号, 2014.