アトピー覚書ブログ

成人型アトピー 脱ステ・脱保湿患者のブログ

アトピーと汗

はじめに

これから始まる夏に、戦々恐々としているアトピー患者も多いのではないでしょうか。

アトピー性皮膚炎の増悪因子の代表が「汗」です。夏場に汗をかくことで、とてもかゆくなり、掻き壊して急激に悪化してしまうアトピー患者は少なくないと思います。汗こそアトピー最大の悪化因子といっても言い過ぎではないでしょう。

 

なぜ汗でかゆくなるのでしょう。

 

残念ながら、汗でかゆくなる原因は、完全には明らかになっていないようです。現在、さまざまな見地からの研究が進められています。

今回は、汗についてこれまでに指摘されてきたことをまとめてみます。

 

汗の基礎知識

汗の成分
  • ミネラル(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、銅、鉄、ニッケルなど
  • 乳酸
  • 尿素
  • その他

主な成分は水です。汗は、水にミネラルや乳酸、尿素などが含まれたものといえます。 *1 *2 

 

2つの汗腺

ヒトの汗腺には2つの種類があります。

  • エクリン汗腺
  • アポクリン汗腺

 f:id:atopysan:20160602210015p:plain

(清水宏(2011)『あたらしい皮膚科学 第2版』中山書店. より)

いずれの汗腺も、コイル状の分泌部と汗管からなります。

エクリン汗腺は、ほぼ全身に存在し、とくに手のひらや足の裏、腋の下に多く分布しています。一般的に汗といえば、このエクリン汗腺から分泌される汗をさします。エクリン汗腺の汗管は直接表皮につながっています。

アポクリン汗腺は、エクリン汗腺より数が少なく、腋の下や外陰部などに存在しています。アポクリン汗腺の汗管は毛包部につながっており、分泌された汗は毛穴から出ることになります。

 

3つの発汗刺激
  • 温熱性発汗
  • 精神性発汗
  • 味覚性発汗

主となるのは温熱性発汗です。運動などで体温が上昇したときに出る汗です。精神性発汗は緊張したときなどに出る汗で、味覚性発汗は辛いものを食べたときなどに出る汗です。

 

汗のはたらき
  • 体温調節
  • pH調節
  • 保湿作用
  • 抗菌作用

f:id:atopysan:20160602210226j:plain

まず、誰もが知っている「体温調節」機能です。暑いときは汗の気化熱で体温を下げ、体温の恒常性維持を助けています。

次に、「pH調節」機能があります。通常の汗は弱酸性であり、皮膚を弱酸性に保つのに役立つとされています。

さらに、「保湿作用」もあります。汗は角質層に水分を与えます。また、汗と皮脂がまざりあうことで皮脂膜が形成され、表皮からの水分の蒸発を防ぎます。その他、汗に含まれる尿素にも保湿作用があるとされます。

最近の話題として、汗のもつ「抗菌作用」が注目されています。汗の成分には抗菌ペプチドや免疫グロブリンなどが含まれており、皮膚常在菌を維持しつつ外部からの病原菌の侵入を防いでいると考えられています。

 

抗菌ペプチド

ヒトの汗に同定されている免疫物質として、次の物質が挙げられます。

  • IL-1  (サイトカイン)
  • IL-6  (サイトカイン)
  • IL-8  (サイトカイン)
  • TNF-α (サイトカイン;腫瘍壊死因子)
  • TGF-βR(サイトカイン;トランスフォーミング成長因子)
  • EGF    (サイトカイン;上皮成長因子
  • IgA   (免疫グロブリンA)
  • β-defensin   (抗微生物ペプチド)
  • cathelicidin  (抗微生物ペプチド)
  • dermcidin (抗微生物ペプチド)

β-defensin はケラチノサイトから産生され、cathelicidin はケラチノサイト、好中球、肥満細胞から産生されるのに対し、dermcidin(DCD)はもっぱら汗腺で産生される抗菌ペプチドである。DCDは大腸菌、黄色ブドウ球菌、カンジダなどの病原菌に対して抗菌活性を示す一方で、皮膚の常在菌には示さないという点で、まさに皮膚の自然免疫を担っているといえる。ところがADでは、このDCDの産生が低下していることが明らかになっている。*3

抗菌ペプチドの一種である Dermcidin(ダームシジン)はエクリン汗腺で常に産生されていますが、アトピー性皮膚炎患者では健常者に比べてDermcidinの分泌が低下しており、炎症を起こす黄色ブドウ球菌が定着しやすくなっているという指摘があります。

f:id:atopysan:20160602210153p:plain

Solution structure and membrane interactions of dermcidin-1L, a human antibiotic peptide

 

汗でかゆくなる原因

主に次の仮説があります。

  • 汗の成分による刺激
  • 自己汗抗原に対するアレルギー反応
  • 発汗障害
 
汗の成分による刺激

汗に含まれる何らかの成分が、皮膚を刺激してかゆみがでるのではないかという説です。

発汗後の汗が炎症を起こしている皮膚を刺激している可能性があります。また、後述する発汗障害と関連するのですが、汗管から漏出した成分がマスト細胞を刺激してヒスタミン遊離を誘導している可能性などがあります。

 

自己汗抗原に対するアレルギー反応

最近注目を浴びている説です。

アトピー性皮膚炎患者では、自己汗に対する皮内テスト反応が陽性になること、汗が末梢血好塩基球からのヒスタミン遊離を促進させることなどから、自己汗抗原に対する抗原特異的IgEを介した即時型アレルギーが生じているらしいことが報告されていました。

そこで、自分の汗に含まれる抗原とは何かが研究されてきたわけですが、2013年、広島大学の秀道広教授らの研究グループが、ヒトの汗に含まれる汗抗原の同定に成功したと発表しました。

今回、ヒトの汗に含まれるヒスタミン遊離活性を指標に精製した成分から、アミノ酸配列の一部を決定、それがマラセチア属真菌の一種であるM. globosaが産生する蛋白質MGL_1304に含まれるものであることを同定しました。*4

Malassezia globosa(マラセチア グロボーサ)は、ヒトの皮膚に常在しているカビの一種です。このカビが作り出す蛋白質MGL_1304が、いわゆる汗アレルギーの抗原であるという発見は、メディアでも大きく取り上げられました。

 

Malassezia globosa
Malassezia globosa
AJC ajcann.wordpress.com/Flickr (CC BY-SA 2.0)

 

(マラセチアについて、さらに詳しい記事です。)

 

他方、ダニやハウスダスト、花粉、金属などの抗原が汗に溶け込み、それら抗原に対してアレルギー反応を起こしている可能性も指摘されています。

 

発汗障害

アトピー性皮膚炎患者の場合、うまく汗をかけないためにかゆみが生じているという説があります。発汗障害が生じて汗が欠乏すると、角層水分量が不足し、TEWL(経表皮水分蒸散量)が増加し、皮膚バリア機能の低下につながるという考え方です。

この発汗障害の原因としては、次の説があります。

  • 汗腺からの産生・分泌異常
  • 汗腺(汗管・汗孔)の閉塞
  • 発汗を支配する交感神経の異常

 

汗腺自体の異常が考えられるほか、汗腺は交感神経の支配を受けているので、交感神経系の異常も関与していると考えられています。

交感神経が放出する神経伝達物質アセチルコリンが、ムスカリン性アセチルコリン受容体に結合することで、発汗が促進されます。

ところで、アセチルコリンがアセチルコリン受容体に結合するのを阻害する作用のことを「抗コリン作用」といいます*5。上記の作用から考えれば、抗コリン作用が働くと発汗が抑制されることになります。

そのため、抗コリン作用をもつ抗ヒスタミン薬を服用すると、発汗が抑制されるという指摘があります。

子どものころから涼しいところで汗をほとんどかかずに成長し、入浴などの温熱負荷を避け運動もほとんどしなければ、発汗機能は低下したままとなる。しかも抗アレルギー薬などを常用していれば、若くして発汗機能がきわめて低下した人間になってしまうはずである。*6

 

一方で、最近の研究では、ヒスタミンがアセチルコリン誘導性発汗を抑制することが確認されており、抗ヒスタミン薬により発汗が改善されるという指摘もあります。

ヒスタミンは汗腺細胞からの汗の分泌を阻害しており、この現象はヒスタミンが汗腺分泌細胞内でグリコーゲン合成酵素の活性に影響する結果であることを確認した。このヒスタミンによる汗分泌阻害作用はH1受容体を介しており、抗ヒスタミン薬はヒスタミンの関与する乏汗を改善する効果が期待される。*7

 

なお、夏場に増える「あせも(汗疹)」の原因のひとつとして、エクリン汗腺の閉塞が挙げられます。また、「汗疱」は名前からして汗腺と関係がありそうですが、水泡の発生部位は汗腺と通常一致しないともいわれています。

 

(発汗障害について、さらに詳しい記事です。) 

 

汗への対策

  • シャワー(汗を洗い流す)
  • おしぼり(汗を拭き取る) 
  • 入浴・運動などで積極的に発汗を促す(汗をかく)

汗をかくとアトピー性皮膚炎が悪化することはよく知られています。

しかし、汗をかかないことは皮膚バリア機能の低下につながりうるので、近年、アトピー患者の汗対策として、積極的に汗をかくように指導することが多くなっています。

 

(汗への対策について、さらに詳しい記事です。)

 

*1:Montain, S. J.; Cheuvront, S. N.; Lukaski, H. C. (2007). "Sweat mineral-element responses during 7 h of exercise-heat stress". International journal of sport nutrition and exercise metabolism 17 (6): 574–582.

*2:Cohn JR, Emmett EA (1978). "The excretion of traces of metals in human sweat". Annals of Clinical and Laboratory Science 8 (4): 270–5.

*3:塩原哲夫, アトピー性皮膚炎と発汗-発汗はアトピーに良いか悪いか?. 医学のあゆみ VOL.228 No.1 2009, 31-37.

*4:広島大学ニュースリリース「アトピー性皮膚炎患者における汗アレルギーの原因物質を同定」(2013年6月6日)より

*5:「抗コリン作用」(2015年4月30日 (木) 11:06 UTCの版)『ウィキペディア日本語版』。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8A%97%E3%82%B3%E3%83%AA%E3%83%B3%E4%BD%9C%E7%94%A8

*6:塩原哲夫. アトピー性皮膚炎と発汗. 医学のあゆみ Vol.228 No.1 2009. 31-37.

*7:室田浩之, 発汗能を制御し皮膚恒常性保持能力を回復させる試み. Cosmetology, 第22号, 2014年.