アトピー覚書ブログ

成人型アトピー 脱ステ・脱保湿患者のブログ

皮膚の記憶

消えないステロイドの記憶

いわゆるアトピー性皮膚炎の薬物治療中に、ステロイド外用剤依存(あるいは酒さ様皮膚炎等)が生じた場合、脱ステロイド(ステロイドの中止)が選択肢のひとつとなります。

しかし、脱ステロイドも万能ではありません。

こんな話を聞いたことはないでしょうか?

 

「脱ステ開始から何年経っても良くならない」

「脱ステで一時良くなったが、数年ぶりにリバウンドのように悪化した」

 

熾烈な離脱症状に耐え抜いたにもかかわらず、脱ステ後に相当の期間が経過しても、なかなか良くならなかったり、単なるアトピー性皮膚炎の悪化では説明がつかないような劇的な悪化を経験する患者がいます。私もその一人です。

ここでひとつの仮説を立てたいと思います。皮膚症状が元通りにならないのは、何かを皮膚が「記憶」しているからではないでしょうか。

例えば、高濃度のステロイドが皮膚に一時的に存在していた状態を皮膚が記憶しており、同様の状態を維持するために皮膚がステロイドを求めているという可能性が考えられます。

荒唐無稽な考えかもしれません。むしろ、免疫記憶を修正するために、ステロイド薬を処方することが一般的な考え方なのかもしれません。

しかし、ステロイド薬の副作用を経験した患者の一人としては、身体的感覚として、皮膚がステロイドを記憶しているのではないかと感じられることがあります。

 

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リバウンドの記憶

ステロイドと皮膚の記憶の関係については、私だけが感じていることではありません。「アトピー性皮膚炎 患者1000人の証言」の著者である安藤直子氏は、「皮膚は記憶する?」と題するエッセイでこの関係について述べています。

それによれば、ステロイドを断っていた患者が久しぶりにステロイドを使用すると、リバウンド様の症状を起こすことが観察されているそうです。

一人の皮膚科医の質問が、私には大きな衝撃をもたらした。この皮膚科医の先生は、長いことステロイドを断っていた患者が、ほんの一回ステロイドを使ったとたん、まるでリバウンドのような症状を起こす様子を、何度か診察したことがある、というのだ。なぜ、長期間ステロイドを使わなかったにもかかわらず、患者の皮膚は、一回のステロイド使用に対し、このような反応をするのか?

また、安藤氏自身も同様の経験をされているようです。

たまたま数年後にアトピーが悪化し、もう大丈夫だろう、と思って、ワンポイントでステロイドを使う。炎症が治まりほっとしたとたん、単なるアトピーの悪化とは思えないようなリバウンド様の症状が襲う。これは私にも起こったし、どうやら他の患者さん達にも、起こることがあるようなのだ。

さらに、これに似た現象が、アルコール依存症患者でも観察されるようです。すなわち、過去の依存物を久しぶりに摂取したときに、依存時の症状が再現されるというものです。

アルコール依存症の患者は、長い間断酒していても、一滴のアルコールが体内に入っただけで、体中の細胞がわ〜っと騒ぎ出し、細胞がパニックを起こして調和が崩壊する。

このように、離脱から長期間経過しても、依存症患者が再び依存物質を摂取すると過去の症状が再現されることから、安藤氏は細胞が何らかの記憶を有しているのではないかという疑問を投げかけています。

そして、ステロイド依存症患者では、細胞の記憶のスイッチを入れているのは、まさにステロイドではないかと指摘しています。

ステロイドに曝露し続ける組織(この場合は皮膚)には、連用の影響が出ると考えた方が自然だろう。本当なら外的刺激によってスイッチがONされるはずのない細胞で、外から加えられたステロイドによって、連続的に人工的にスイッチが入れられ続けるのだ。

こうした考え方は、エピジェネティクスに通じるものがあると思います。DNAメチル化など、細胞にエピジェネティックマークが付与されると、遺伝子発現において長期間その効果が持続するというものです。 

ステロイドによるエピジェネティクス的な変化が、皮膚細胞に過去の記憶を伝達しているのかもしれません。

おそらくは、細胞は次に生まれてくる細胞にその情報を伝えるのだろう。(中略)

だからこそ、再度これらの薬物に曝露すると、昔の記憶通り、細胞は一瞬にして調和を失い、患者は長年の努力むなしく、元の依存症に戻る。(中略)

皮膚というものも、意外に記憶を持つ器官なのだという。例えば、薬疹というものは、たいてい同じ場所に同じようにできるのだというのだ。皮膚は新陳代謝が激しく、細胞はなくなってしまうはずなのになぜ?やはり、皮膚もまた、新しく生まれ変わってくる皮膚に、情報を伝えると考えるのが妥当だろう。そう考えると、何年もステロイドを断っていたはずの皮膚にステロイドを塗ったとき、いったんはステロイドの抗炎症作用で炎症が治まりながら、その後でリバウンド様の症状が起こることも説明ができる*1

同じステロイド依存を経験した患者の一人からすると、こうした「皮膚が記憶する」という話は大いに共感できるものです。

皮膚科医は鼻で笑うかもしれませんが、耳を傾けてほしいと思います。教科書的な知識を理由に患者からのサインを無下にしてしまうのは惜しい話です。

もしかしたら、乳幼児期に使用したステロイドの “記憶” が、成人期のアトピー性皮膚炎の発症に何らかの影響を与えているということがあるかもしれません。

 

さて、私の場合、因果関係は明らかではないのですが、ステロイドを使用した後に生じた感覚として、次のようなものがあります。

  • 疲れまたは軽い掻破のみで湿疹・糜爛等が生じ、かつ、治りづらい
  • 汗によるかゆみが重度、発汗異常
  • 保湿剤を塗って悪化した場合に苔癬化のような状態が生じ、かつ、治りづらい

そして、脱ステ後何年経っても、皮膚の感覚が元通りになりません。

3番目に関して、保湿剤を塗って苔癬化するはずがないだろうと思われるかもしれません。

しかし、これも私のみに生じている現象ではないようです。脱ステ医の佐藤健二医師は、私のような保湿剤依存患者において同様の症状がみられることを指摘しています。

保湿離脱5年後にごく少量の保湿剤を肘窩に外用すると、急に広い範囲に苔癬化局面が出現するようなこともある。*2

保湿剤依存はステロイド外用薬使用患者において生じ得るとされています。

つまり、「ステロイド外用剤依存を経験した患者において、保湿剤の塗布(および軽度掻破等の物理的刺激)により、速やかに皮膚が肥厚して苔癬化局面を呈することがあるかもしれない」ということです。

いわば保湿剤によるリバウンドです。慢性的掻破の結果としてではなく急に生じるもので、かつ接触性皮膚炎ではありません。

ステロイド(あるいは保湿剤)の長期塗布により皮膚が何らかの「記憶」を持ったことで、このような現象が生じるのではないでしょうか。

 

「アトピー性皮膚炎は慢性疾患だから治らない」とよくいわれます。

ただ、ほとんどのアトピー性皮膚炎患者はステロイド薬の使用経験があるので、次のように考えることもできると思います。

 「皮膚がステロイド薬の記憶をもっているかぎり元に戻らない」。

 

いわゆるアトピー性皮膚炎については未だわからないことが多いです。ただ、以上のような、皮膚とその記憶という観点は、実は重要なポイントなのではないかと個人的には感じています。

*1:アトピーの小径「皮膚は記憶する?」より

*2:佐藤健二(2014). 患者に学んだ成人型アトピー治療―難治化アトピー皮膚炎の脱ステロイド・脱保湿療法 <新版> 柘植書房新社.