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アトピー覚書ブログ

成人型アトピー 脱ステ・脱保湿患者のブログ

JAK1分子突然変異について

アトピー性皮膚炎発症のメカニズムを解明?

昨日(2016年4月26日)、理化学研究所などのグループが、アトピー性皮膚炎モデルの原因遺伝子を解明したと発表しました。また、研究内容をまとめた論文 *1 が、米国の科学雑誌『Journal of Clinical Investigation』のオンライン版(日本時間4月26日)に掲載されました。

複数の大手メディアでも取り上げられ、注目度が高いようです。ただ、個人的には、あまり期待感を抱かせるものはなく、ある種の違和感が残りました。なぜ違和感が残ったのか、自分なりに検証してみたいと思います。

 

まず、この発表には複数の話が混在していてやや混乱します。理化学研究所の報道発表資料を確認して整理すると、大きく分けて次の4つの話が出てきます。

  1. 新しいアトピー性皮膚炎モデルマウス(Spadeマウス)を開発した。
  2. このマウスにJAK阻害因子を塗ったところ、アトピー性皮膚炎の発症を遅らせることができた。
  3. このマウスにワセリンを塗ることでも、発症の予防ができた。
  4. ヒトのアトピー性皮膚炎の患者の皮膚組織を調べたところ、6例中4例の表皮細胞でJAK1が活性化していた。

 

発表のなかでポイントとなるのはこのうち 2.についての観察だと思います。

皮膚でのJAK1の活性化変異がアトピー性皮膚炎を引き起こすことが確認できました。

JAKとはヤヌスキナーゼのことです。

ヤヌスキナーゼ(Janus kinase:JAK)は、プロテインキナーゼの一種で、たんぱく質をリン酸化する酵素です。

また、プロテインキナーゼのうち、非受容体型チロシンキナーゼ(たんぱく質のチロシン残基を特異的にリン酸化する酵素)に分類されます。

このヤヌスキナーゼは、サイトカインの細胞内シグナル伝達に重要な役割を果たしています。このシグナル伝達は、JAK-STAT経路を介して行われます。STAT(シグナル伝達兼転写活性化因子)と呼ばれるたんぱく質がJAKによりリン酸化され、転写因子として働きます。

JakはSTAT (signal transducers and activators of transcription) をリン酸化し、リン酸化したSTATは二量体を形成して核内へ移行、転写を活性化する。このシグナル伝達系をJak-STAT系という。*2

JAK-STAT系と呼ばれる一連のシグナル伝達は、約40種のサイトカイン受容体と関連している。そのため、ヤヌスキナーゼは、関節リウマチやクローン病・潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患の創薬ターゲットとなっている。*3

このように、自己免疫疾患の一部では、JAK-STAT経路を阻害する薬が有効であるとみられています。 

 

報道発表資料に戻りますと、そのうちの「60秒でわかるプレスリリース」には次のようにまとめられています。

今回の研究で、分かったことをまとめてみましょう。通常は表皮の中で、JAK1とSTATの信号伝達分子がプロテアーゼ(加水分解酵素)発現を適正に保つことで、皮膚バリアの恒常性を保っています。ところが、JAK1シグナルが強く入ると皮膚バリアが破壊され、真皮(表皮の下にある線維性結合組織)の自然免疫系の活性化も招いて、アトピー性皮膚炎発症に至ります。しかし、表皮にJAK阻害剤、あるいはワセリンを塗ることで発症を予防できます(図参照)。

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以上から、今回の発表は、JAK1の活性化がポイントであることがわかると思います。

では、上記を踏まえたうえで、いわゆるアトピー性皮膚炎患者としての個人的な感想を次に述べたいと思います。

 

多段階進行性アトピー性皮膚炎マウス

まず、新しいアトピー性皮膚炎モデルマウスについてです。

このマウスは、生後8~10週でアトピー性皮膚炎を自然発症し、その3週間後に血清IgEやヒスタミンなどの物質の血中濃度が上昇。さらに4~5週間後には、炎症物質の血中濃度が上昇するという、段階を追った発症経過をたどるとのことです。

 

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ここで、このマウスの皮膚炎が、ヒトのアトピー性皮膚炎にどれほど類似しているのかという問題があります。

このことは、アトピー性皮膚炎について語るときは常に問題となるのですが、アトピー性皮膚炎とは何かがはっきりと分かっていないため、どうしても対象が曖昧なまま話を進めることになります。

さらに、ヒトのアトピー性皮膚炎患者は、そのほとんどがステロイドによる修飾を受けています。例えば、標準治療患者は定期的にステロイドを外用しないと皮膚がもたない人たちといえますし、脱ステ患者は慢性的なステロイド欠乏のために皮膚が炎症を起こしている人たちといえます。

ですから、ステロイド外用剤依存モデルマウスを用いて研究を行うことがより重要だと考えます。すなわち、一般的なアトピー性皮膚炎モデルマウスをヒトのいわゆるアトピー性皮膚炎に外挿しても、限られた意味しかもたないのではないかと思われるのです。

 

JAK阻害剤の外用

次に、JAK阻害剤を外用することについてです。

研究でマウスに塗布されたJAK1阻害剤は Calbiochem® です。

なお、現在国内で発売されているJAK阻害剤としては、経口関節リウマチ治療薬のトファシチニブ(商品名「ゼルヤンツ®錠 5mg」)があります。

ゼルヤンツは、過去の治療において、メトトレキサートをはじめとする少なくとも1剤の抗リウマチ薬等による適切な治療を行っても、疾患に起因する明らかな症状が残る場合に投与する薬とされています。

様々な免疫応答の経路を阻害したり活性化させたりする副腎皮質ステロイド薬や、カルシニューリン阻害剤であるタクロリムスなどと同様、免疫抑制剤です。

軽々しく使用するような薬ではないことは、添付文書等の注意書きの多さをみてもうかがわれることでしょう。

トファシチニブは、サイトカイン受容体のシグナルを伝達する細胞内分子であるヤヌスキナーゼ(JAK)の阻害薬で、関節リウマチに対しては米国および本邦で承認されています。一方、欧州では専門委員会において、安全性に対する懸念があるため、ベネフィット・リスクの観点から承認に対して否定的な見解が表明されています。本製剤は、臨床試験において乾癬においても有効性を示すことが報告されており、今後国内での動向が注目されますが、重篤な有害事象も生じうるため、使用する場合にも細心の注意が必要となります。*4

 

JAK1が活性化して皮膚炎を引き起こしているのだからJAK1の経路を阻害する、という考え方は理にかなっていると思います。

しかし、いわゆるアトピー患者のうちの一部は、対症療法にすぎないであろう「○○阻害剤」にうんざりしているはずです。感染症などのリスクも心配ですが、それ以上に、完治に至るわけではない薬剤を長期連用することに疑念をもっているのです。

また、発表資料には、アトピー性皮膚炎の「発症を遅らせることができました」とあります。遅らせるだけだったらほとんど有難みはないし、すでに発症していたら関係のない話です。

 

ワセリンの外用

当該アトピー性皮膚炎モデルマウスにワセリンを塗布することで、アトピー性皮膚炎の発症を予防することができたとのことです。

こちらも、発症を遅らせるだけであれば、あまり有難味はありません。いつまで塗り続ければ良いのかという疑問もあります。

それ以上に心配な気分になるのは、「保湿剤さえ塗っておけば大丈夫」という考え方が金科玉条として支持されているように見受けられる点です。

ワセリンのように、有効成分が入っておらず、刺激性の少ないもので皮膚バリアを保護しておけば問題ない、と世間一般では考えられているようです。

しかし、患者の一人としてあえて言わせてもらいます。

 

「ワセリンを塗るとかゆくなることがあります」。

 

それが、白色ワセリンだろうが、プロペトだろうが、サンホワイトだろうが、同じです。私の場合、これらすべてで皮膚症状が悪化したことがあります。

なぜかはわかりません。特に、ワセリンを塗ったところに、さらに汗をかくと、とてもかゆくなります。

いずれにせよ、ワセリンでかゆくなる患者は少なくないと思います。

 

私が今回の発表に違和感を感じたのは、おそらくこの「ワセリンを塗っておけば大丈夫」「保湿が大切」という能天気なメッセージに賛同できなかったからだと思います。

 

ヒト表皮細胞でのJAK1活性化

最後に、ヒトでのJAK1活性化についてです。

ヒトのアトピー性皮膚炎患者を調べたところ、6例中4例の表皮細胞でJAK1が活性化していたとのことです。

6例中4例とは、とても微妙な数字ではないでしょうか。残りの2例は何だったのかという話になってしまいます。JAK1の活性化のみがアトピー性皮膚炎の原因ではないということです。

もちろん、そうした不明点は今後の研究に委ねられるということだと思います。

報道発表資料のタイトル「アトピー性皮膚炎モデルの原因遺伝子を解明」とは、あくまでもモデルマウスにおける解明であることに留意が必要です。

 

まとめ

ヒトのアトピー性皮膚炎の原因遺伝子が解明されたわけではないようです。

多段階進行性アトピー性皮膚炎マウスでは、JAK1分子の遺伝子配列に点突然変異が生じてJAK1のリン酸化酵素であるキナーゼ活性が増加しており、JAK1阻害剤またはワセリンを塗布することで一定期間皮膚炎の発症を予防できたとのことです。

ヒトへの応用をはじめ発症メカニズムのさらなる解明については今後の研究がまたれます。

*1:Yasuda et al. Hyperactivation of JAK1 tyrosine kinase induces stepwise, progressive pruritic dermatitis. J Clin Invest. 2016. doi:10.1172/JCI82887.

*2:「プロテインキナーゼ」(2014年10月19日 (日) 10:15 UTCの版)『ウィキペディア日本語版』。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%86%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%82%BC

*3:「ヤーヌスキナーゼ」(2016年1月30日 (土) 21:42 UTCの版)『ウィキペディア日本語版』。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%83%BC%E3%83%8C%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%82%BC

*4:マルホ皮膚科セミナー2015年10月8日放送「第64回日本アレルギー学会②シンポジウム6-Oレビュートーク:乾癬の病態と分子標的薬:Overview」より