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アトピー覚書ブログ

成人型アトピー 脱ステ・脱保湿患者のブログ

ステロイドとDNAメチル化

DNAメチル化

前回、エピジェネティクスに関する話を紹介しました。今回は、そのエピジェネティクスとステロイドとの関係について記したいと思います。

 

最初に、前回の話を踏まえたうえでのエピジェネティクスに関する簡単な説明です。

生活環境の「何か」に曝露されると、DNAのある部分にマークが付き、遺伝子のスイッチがオンとなって、細胞の働きを変化させる。その変化は半永久的で、その人の一生涯続くだけでなく、次世代にも受け継がれる可能性がある。

そのマークのことをエピジェネティックマークといい、より具体的にはDNAメチル化などをさす、というものです。

(専門家によるエピジェネティクスについての解説は次のウェブサイトを参照ください。一般の方へ-エピゲノム研究を病気の治療にやくだてるために:科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事業 国際ヒトエピゲノムコンソーシアム 日本チーム

 

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中心の2つのシトシンがメチル化されたDNAのイラストhttps://commons.wikimedia.org/wiki/File:DNA_methylation.jpg
Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0 Unported license.

 

ポイントは、後天的に経験したことが、次世代に受け継がれるところです。一般的には、生まれたときに備わったDNAは一生変わらないというイメージがあると思います。ところが、DNAの配列自体は変わらないのですが、DNA上にマークがつくことで遺伝子の働きが変化し、次世代にまで記憶されるというのです。

例えば、こんな話があります。マウスに桜の匂いを嗅がせると、その「匂いの経験」が、そのマウスの子孫にまで伝達されるといいます。

サクラの花に似た匂いを恐れるようにマウスを訓練し、さらにつがわせて子孫をもうけさせた。生まれた子孫はサクラの花の香りを嗅いだ経験がないのに、その香りに対し他の中性的な匂いよりも強い恐怖応答を示した。そればかりか、子孫の次世代が同様の行動を示した。(略)

研究チームはまた、訓練を施したマウスでもその子孫でも同じく、恐怖につながる匂いを検知するのに用いる脳の領域で恐怖応答に伴って構造変化が生じており、また精子では匂いを検知するのに関わる遺伝子にエピジェネティックマークがついていることを発見した。*1

これは「匂い」の例ですが、DNAメチル化を引き起こす「何か」については、タバコの煙への曝露がよく知られており、がんやアレルギー疾患との関連が示唆されています。

ヒストン修飾およびDNAメチル化の変化は、タバコの煙、帝王切開出産、生後早期の母体栄養などのアレルギー危険因子によって生じ得る。このエビデンスは、環境がアレルギー疾患リスクに影響する、または、遺伝子と環境の相互作用が起き得るメカニズムとしてのエピジェネティクスを強く裏付けるものである。実際に、遺伝的変異とDNAメチル化の相互作用は、喘息、肺機能、湿疹において観察されている。*2

そして、エピジェネティクスによる世代を超えた効果(継代効果)は、ヒトや動物で観察されています。ある世代で曝露されると、子孫の世代で曝露がないにもかかわらず、影響が続くようです。

例えば、おばあちゃんがタバコを吸って生じた何らかの悪影響が、タバコを一度も吸ったことのない孫にまで影響するかもしれないのです。

ヒトにおいては、F0世代において最初の環境曝露が起きると、F2世代(孫)においても疾患感受性の変化が認められるなど、継代効果が観察されている。Pembreyらは、F0世代における低成長期間の栄養不足や喫煙などの曝露が、さらなる曝露がないにも関わらず、F2世代の男系および女系における平均寿命や成長に影響をもたらすことを示した。

マウスモデルにおいては、祖先の葉酸欠乏が、5世代にわたって先天性奇形を引き起こしたが、それはエピジェネティクスよる可能性が高い。

祖母の喫煙が孫の幼年期の喘息リスクを増加させたという観察は、継代エピジェネティック効果がアレルギー疾患に影響を及ぼすかもしれないという概念を裏付けるものである。*3

 

前置きがやや長くなりましたが、次はこのDNAメチル化とステロイドとの関係です。

ステロイド薬の使用経験がある者として、私自身の実感を述べると、ステロイド薬を中止してから数年が経過しても、ステロイドの影響が残っている感覚があります。皮膚の脆弱性というべきか、ともかく皮膚が不安定なのです。ステロイドの使用以前には無かった感覚です。

そのため、ステロイドには、何かしら不可逆的、可塑的な影響があるのではないかという疑いをもっています。もし、ステロイドによって細胞の何らかのスイッチがオンになり、スイッチが今もオンになったままだとしたら、辻褄の合う話ではないでしょうか。

 

そこで、DNAメチル化という半永久的な影響が、ステロイドによって生じ得るという報告を見てみます。妊娠したモルモットにグルココルチコイド(ステロイドホルモンの一つ)を投与したところ、胎児および新生児、さらに次世代まで、DNAメチル化が観察されたというカナダからの報告です。

出産前の合成グルココルチコイドが、全妊娠中約10%の早産リスクのある妊婦に投与されている。動物実験では、グルココルチコイド投与または母体ストレスの結果により高濃度のグルココルチコイドに曝露された子は、発達行動、内分泌、代謝異常のリスク増加を示した。

DNAメチル化は、遺伝子発現の長期にわたるプログラミングにおいて重要な役割を果たすDNAの共有結合修飾である。我々は、出産前の合成グルココルチコイド治療が、胎児および子のDNAメチル化状態に急性期および長期の効果をもち、その効果が次世代に及ぶという仮説について検定した。妊娠したモルモットが妊娠後期に合成グルココルチコイドにより治療され、2世代の胎児および子の臓器について発光メチル化アッセイによるメチル化分析が行われた。

エピジェネティック状態を修飾する遺伝子発現が定量リアルタイムPCR法により測定された。結果は、胎児と新生児の臓器特異的な発達曲線のメチル化を示した。

さらに、この曲線は、子宮内の合成グルココルチコイド曝露により大きく変化した。この合成グルココルチコイド誘発性のDNAメチル化の変化は、大人になっても続き、次世代においても明らかであった。

さらに、出産前の合成グルココルチコイドへの曝露は、エピジェネティック状態を修飾する、タンパク質をコード化するいくつかの遺伝子の発現を変化させた。これらの変化の一部は長期間持続し、次世代においても存在していた。これらのデータは、出産前の合成グルココルチコイドへの曝露が、エピジェネティック機構の重要な要素に幅広い変化をもたらし、その効果が次世代に及び得るという仮説を裏付けるものである。*4

ステロイドは、ベタメタゾン(リンデロン)の注射により投与されました。ですから、ステロイド外用薬等と同列に論じることはできません。

とはいえ、外部から投与された合成ステロイドが、DNAメチル化を引き起こし、次世代においても存在していたという事実に接すると、ステロイドのもつ強い影響力を感じずにはいられません。

本人だけの問題ではないというところが、底知れぬ恐ろしさを秘めているように思います。

 

続いて、ラットにグルココルチコイド(デキサメタゾン:デカドロン)を投与したところ、ラットおよびその胎児において、DNAメチル化とともに神経幹細胞の増殖減少がみられたという報告です。

発達の臨界期に起きる子宮内プログラミングにおける変化は、その後の人生における全臓器システムや個別の組織機能に有害な影響を与える。

本論において、我々は、合成グルココルチコイド・デキサメタゾンに曝露されたラット胎児の神経幹細胞が、エピジェネティック・メカニズムを通じて遺伝性の変化を受けた可能性があることを示す。デキサメタゾンへの曝露は、生存や分化に影響することなく神経幹細胞の増殖を減少させ、細胞老化やミトコンドリア機能に関連する遺伝子の発現に変化を起こす。デキサメタゾンは、グルココルチコイド受容体依存的に、細胞周期に関連したp16およびp21遺伝子を上方制御する。(中略)

全体的なDNAメチル化およびDNAメチルトランフェラーゼの同時減少は、エピジェネティックな変化の発生を示唆している。これらの特徴のすべては、(デキサメタゾンに直接曝露されたことのない)娘の神経幹細胞において保持されていた。(中略)

我々の研究は、神経幹細胞におけるグルココルチコイドにより誘発されたプログラミング効果に新たなエビデンスを提供するものであり、内因性または外因性のグルココルチコイドへの胎児の曝露が、神経発達障害または神経変性障害の原因となり長期持続する結果をもたらす可能性が高いという考え方を裏付けるものである。*5

 

下の図が親ラットの神経幹細胞の様子を表したものです。bがデキサメタゾン曝露で、aが対照群です。デキサメタゾン曝露の方で神経幹細胞の増殖減少がみられます。そして、この変化が次世代にまで保持されていたということです。

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神経発達障害につながり得るこれらの影響が、ヒトでも再現されるとすれば、とても心配になる話です。

その他、デキサメタゾンの影響は多岐にわたります。詳細は原著を参照していただきたいと思います。

 

以上、DNAメチル化についてみてきました。現在、DNAメチル化と病気との関係の解明が進められています。ステロイドとの関係についても、さらなる研究を進めていただきたいところです。

私はいわゆるアトピー性皮膚炎の一部はステロイドの薬害であると考えています。そうであれば、その現象を解消することを皮膚科医に求めるのは無理で、上記のような先端的な研究によって解決の糸口が見出されるのではないでしょうか。

もし、DNAメチル化によって遺伝子のスイッチがオンとなり、アレルギー疾患が生じているとするなら、スイッチをオフにする治療が考えられます。しかし、そんなことが実現できるでしょうか。また、実現できたとしても、それがいつになるかわかりません。

それまでは、身の回りの様々なリスク因子を避けることが、自衛の手段になると思われます。

 

(当サイトはいかなる治療法をも推奨するものではありません。また、当サイトに掲載されている情報を利用することにより発生したいかなる損害についても責任を負うものではありません。)

(引用部分の翻訳および赤字による強調表示は当サイトによります。正確な翻訳を期していますが、正確性を保証するものではありません。)

*1:エピジェネティックな伝達により経験は世代を超える | Nature Neuroscience | Nature Publishing Group

*2:Donald Y. M. Leung.(2016). Pediatric Allergy, third edition. Elsevier Health Sciences.

*3:Donald Y. M. Leung.(2016). Pediatric Allergy, third edition. Elsevier Health Sciences.

*4:Crudo et al. Prenatal Synthetic Glucocorticoid Treatment Changes DNA Methylation States in Male Organ Systems:Multigenerational Effects. Endocrinology, July 2012, 153(7):3269–3283.

*5:Bose et al. Glucocorticoids induce long-lasting effects in neural stem cells resulting in senescence-related alterations. Cell Death and Disease (2010) 1, e92; doi:10.1038/cddis.2010.60