アトピー覚書ブログ

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ダニでかゆくなる理由

ダニによるアレルギー説

家の中には間違いなくダニが住んでいるといわれます。

ただし、ダニの多くは体長が1mmにも満たないので肉眼で見ることは難しいようです。拡大すると、次のような姿をしています。

 

ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)

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GILLES SAN MARTIN/FLICKR (CC BY-SA 2.0)

 

コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)

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こういう生き物が身の周りにいると思うとゾッとします。

ゾッとするどころか、実際にこれらのダニに対してアレルギー反応を起こしている人は少なくありません。アレルギー性鼻炎、アトピー型喘息などは、ダニをアレルゲンとするIgE依存性のアレルギー疾患であると考えられています。

アトピー性皮膚炎にもダニの関与が指摘されています。アトピー性皮膚炎患者がアレルゲン検査を受けると、ダニに対する特異的IgEの数値が高く出るケースが多いので、ダニが原因ではないかと疑われるのです。

 

しかし最近、とりわけフィラグリン遺伝子変異説が唱えられて以降、皮膚バリア機能障害がアトピーの悪化因子として相対的に重視されるようになり、ダニアレルギー対策は必ずしも有効ではないといわれるようになりました。

かつて、10年くらい前まででしょうか、防ダニ布団・枕カバー、防ダニカーペットなどなど、ダニ対策グッズがアトピー患者の必需品のように扱われていた時代からすると、様変わりした感があります。

アレルゲン除去を重視しない傾向は、アレルギー科と比べて皮膚科で顕著です。例えば、アトピー性皮膚炎診療ガイドラインには、ダニ除去対策はあくまで補助療法であると明記されています。

環境アレルゲンの除去対策は薬物療法とスキンケアの補助療法であり,これのみで完治が期待されるものではないことを認識すべきである.*1

このように、ダニ等による「アレルギー説」よりも、フィラグリンに代表される「皮膚バリア機能低下説」が優勢です。

 

ただ、個人的には、皮膚症状の悪化に関してダニによるアレルギーの影響も少なからずあると感じています。例えば、私の場合、ほこりが皮膚に触れると即座に蚊に刺されたような膨疹ができることがあります。

また、アレルゲン検査では、ヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニ、ハウスダストのすべてで、私はクラス6の陽性であり、測定値もすべて上限まで達しています。そのため、アレルギー反応が起きる可能性は高いと思われるのです。

 

ダニでかゆくなる理由

さて、先月2016年2月、このダニとアトピー性皮膚炎の関係についての新たな知見がScience Translational Medicine誌で発表されました。 

 

Filaggrin inhibits generation of CD1a neolipid antigens by house dust mite–derived phospholipase | Science Translational Medicine

「フィラグリンは家塵ダニ由来ホスホリパーゼによるCD1aネオ脂質抗原の生成を阻害する」

 

タイトルを読んだだけでは何のことやらさっぱりわかりませんが、ダニがなぜかゆみを引き起こすのかについて、ひとつの答えを提示するものです。

以下、論文を引用しつつ、読み解いていきます。

 

まず、論文の著者らは、ダニがアトピー性皮膚炎患者の血液と皮膚にアレルゲンをつくり出していると指摘しています。

We observed that house dust mite (HDM) allergen generates neolipid antigens presented by CD1a to T cells in the blood and skin lesions of affected individuals. 

我々は、家塵ダニアレルゲンが、CD1aにより罹患者の血中T細胞および皮膚患部にネオ脂質抗原を生成することを観察した。

つまり、ダニそのものがアレルゲンなのではなく、ダニが作り出したものがアレルゲンになっているというのです。

 

そして、論文の著者らは、アレルギーテストで使用されるダニエキスに反応が起きるのは、CD1aという分子が原因であることを突き止めました。

さらに、アトピー性皮膚炎患者の皮膚と血中T細胞において、このCD1aが高頻度で発現していることも観察しました。

CD1aとは、ランゲルハンス細胞など抗原提示細胞の表面に発現しているたんぱく質で、異物を攻撃するT細胞に対し、とくに脂質抗原を提示する働きをしています。

 

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Langerhans Cells in Normal Epidermis, CD1a Immunostain(正常表皮のランゲルハンス細胞,CD1a免疫染色)
Ed Uthman/FLICKR (CC BY 2.0)

 

それでは、アトピー患者で多くみられるCD1aが、アレルゲンとして提示している脂質とは何でしょうか。

論文の著者らは、ダニが出すホスホリパーゼA2に注目しました。ホスホリパーゼA2は、脂質を加水分解する酵素です。そして、ダニが、ヒトの皮膚細胞を消化するためにホスホリパーゼA2を出して分解し、脂質を生成しているらしいことがわかったのです。

つまり、CD1aは、ダニが出すホスホリパーゼA2により分解されてできた脂質抗原を提示して、T細胞を活性化させていると考えられるのです。

言い換えると、アトピー患者の一部は、ダニに反応しているのではなく、剥落したヒトの皮膚を食べるダニが皮膚を食べるときに出す脂質に反応してかゆくなるということです。

In HDM-challenged human skin, we observed phospholipase A2 (PLA2) activity in vivo. CD1a-reactive T cell activation was dependent on HDM-derived PLA2, and such cells infiltrated the skin after allergen challenge.

家塵ダニに感作したヒト皮膚において、我々は in vivo でのホスホリパーゼA2活性を観察した。CD1a反応性T細胞活性は、家塵ダニ由来ホスホリパーゼA2に依存しており、アレルゲン感作後にその細胞が皮膚に浸潤していた。

 

「アレルギー説」対「バリア機能低下説」

先に述べたように、最近では、アトピー性皮膚炎の原因として「アレルギー説」よりも「皮膚バリア機能低下説」が優勢です。セラミドやフィラグリンなど皮膚バリアを構成する要素の欠乏が、被刺激性を亢進させて炎症を生じやすくしているという考え方です。

しかし、上記のようにダニでかゆくなることがあるとすれば、「アレルギー説」をまったく退けることはできないのではないでしょうか。

まさにこの問題について、論文の著者の一人であるGraham Ogg氏の説明が掲載されたインタビュー記事があります。

 

Here’s how dust mites give dermatitis sufferers the itch | Science News
BY BETHANY BROOKSHIRE 8:49AM, MARCH 11, 2016.

「家塵ダニはどのようにして皮膚炎患者にかゆみをもたらすか」

 

インタビューでは、いわゆる「アレルギー説」を「内から外へ仮説」、いわゆる「皮膚バリア機能低下説」を「外から内へ仮説」と名付けています。

何が原因でかゆみは最初に起きるのだろうか?

過去数十年間、科学者たちは二つの仮説を論じてきた。ひとつは「内から外へ仮説」で、もうひとつは「外から内へ仮説」である。

「内から外へ仮説」が先だった、とオックスフォード大学医学研究審議会ヒト免疫学会議の皮膚科医 Graham Ogg 氏は説明する。この考え方は、"皮膚炎は免疫システムそれ自体の内なる問題である" という当然のことに免疫システムが過剰反応しているとするものである。

一方、2006年、フィラグリンと呼ばれるたんぱく質の欠如がアトピー性皮膚炎に関与していることが Nature Genetics 誌で報告され、「外から内へ仮説」が生まれたといいます。

もし皮膚炎をもつ人にフィラグリンが欠如していたら、「主な問題は免疫システムではなく、皮膚バリア機能です」とOgg氏は説明する。もしバリアが壊れていたら、より多くの刺激物が入り込むことができ、免疫反応と耐え難いかゆみを促進させることになる。

そのようにして、「外から内へ仮説」が生まれた。この考え方では、免疫システムは過剰反応をしておらず、むしろ直面する急激な悪化に対して適切に反応していることになる。

そして、二つの仮説が対立するものとして長年論じられてきました。

例えば、CD1aがダニの生成する脂質抗原を認識してT細胞を活性化させるという免疫システムの働きは、「内から外へ仮説」を支持するものといえます。

他方、フィラグリンが欠乏して障害された皮膚バリアを脂質抗原が透過して炎症を起こすことは、「外から内へ仮説」を裏付けるものといえます。

 

ここで、Ogg氏らは、フィラグリンについての新たな発見から、二つの仮説は同じコインの裏表のようなものであり、互いに結びつくものであると主張しました。先の論文からの引用です。

Moreover, we observed that the skin barrier protein filaggrin, insufficiency of which is associated with atopic skin disease, inhibited PLA2 activity and decreased CD1a-reactive PLA2-generated neolipid-specific T cell activity from skin and blood.

さらに、我々は、欠乏によりアトピー性皮膚炎に関連する皮膚バリアたんぱく質フィラグリンが、ホスホリパーゼA2活性を阻害し、皮膚および血液のCD1a反応性ホスホリパーゼA2生成ネオ脂質特異的T細胞活性を減少させることを観察した。

この発見は、大変示唆に富むものではないでしょうか。

フィラグリンは単なる皮膚バリアを構成するたんぱく質というだけでなく、皮膚での免疫反応を抑制し抗炎症作用をもつというのです。

皮膚サンプルを塵ダニのエキスで感作させた場合、フィラグリンを加えると免疫反応を抑制することができた一方、フィラグリンが欠乏している患者には抵抗力がなかったといいます。

とすれば、フィラグリンが担う皮膚バリアが、免疫システムの一部として機能していると考えられます。つまり、「内から外へ仮説」と「外から内へ仮説」は、対立するものではなく、互いに関連しているといえるのです。

 

まとめ

Ogg氏らの論文において、新たな二つの知見が示されました。

  • CD1aが、ダニの出すホスホリパーゼA2により分解されたヒト皮膚由来の脂質抗原をT細胞に提示することで、感作した患者において免疫反応を亢進させる。
  • フィラグリンは、ホスホリパーゼA2活性を阻害し、脂質抗原特異的T細胞活性を減少させることで、免疫反応を抑制する。

このように、ダニが引き起こす皮膚炎には、アレルギーと皮膚バリア機能がどちらも関わっていることが考えられます。

ダニアレルギーとフィラグリンの重要性を再認識させられる報告ではないでしょうか。 

 

 (引用部分の翻訳は当サイトによります。正確な翻訳を期していますが、正確性を保証するものではありません。)

*1:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版