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ガイドラインが示す入院の長期予後

退院後の長期予後が改善?

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版を読んでいて、個人的に気になる部分がありました。それは「入院治療の適応」の項目にある次の一文です。

入院治療により,日常の環境から離れて外用療法を徹底し,時間的余裕の中で患者と治療者の信頼関係を確立し,悪化因子や外用方法,スキンケア方法を見直し,これらの問題を早期に解決することを可能とすることが期待できる.このような治療介入によって退院後の長期予後が改善することは複数の施設で確認されている102)103)

標準治療を行う病院に入院して治療を受けたアトピー患者は、退院後の長期予後が改善するというのです。

それが本当であれば、脱ステ患者としては、脱ステロイド等の辛い症状を長い間我慢するよりも、入院して薬物治療を受け症状を一気に寛解させてしまった方が良いのではないかと考えさせられるのです。

ここで、ガイドラインは、退院後の長期予後における「長期」が、具体的にどれくらいの期間であるのか明らかにしていません。

そこで、具体的なデータが掲載されていると思われる参照文献を確認してみることにしました。

  • 102) 向井秀樹,福田英嗣,鈴木 琢,早乙女敦子,早出恵理:アトピー性皮膚炎の入院療法の有用性 アンケート調査による皮膚および精神症状の改善度の検討,皮膚の科学,2012; 11(Suppl. 18); 43―47.
  • 103) 片岡葉子:アトピー性皮膚炎診療の質QIを考える,Visual Dermatology,2014; 13: 1094―1097.

 

東邦大学医療センター大橋病院の退院後予後

第一に、東邦大学医療センター大橋病院皮膚科の向井秀樹医師らによる報告(文献102)です。

同科では、入院療法として、ステロイド外用薬、免疫調整外用薬や保湿薬を中心とする外用治療を行っています。

そして、2007年から2010年に入院加療した20歳以上のアトピー性皮膚炎患者105名にアンケート調査を行っています。予後については「現在の皮膚症状の改善度や安定性」を聞いています。66名からの回答を得て回収率は62.9%です。

ところがこの報告には問題がありました。それは、「退院時」から「退院後現在」までの期間が示されていないのです。おそらく患者ごとに期間が異なるためであると思われます。しかしこれでは、予後が長期かどうかがわかりません。

期間がわからないので、予後としてのデータの有用性に乏しいのですが、報告を元にグラフを作成しました。 

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退院時をみると、「やや改善」を含めれば、実に100%の患者の皮膚症状が改善しています。

しかし、退院後現在を見ると、「極めて改善」「かなり改善」の割合が減少し、皮膚症状が不安定な患者は53%と半数以上にのぼります。入院前のように良くない状態に戻ってしまった患者も7%います。

入院による短期的な有効性は認められますが、だんだんと元の木阿弥になってしまう傾向が読み取れます。

また、無視できないのが、アンケートの回収率が62.9%であったということです。回収できなかった理由は開示されていませんが、推測するに、回答しなかった4割弱の患者は、症状が悪化しているのではないでしょうか。

なぜなら、アトピー患者は、皮膚科での治療がうまくいかなかった場合は、その皮膚科と関わりをもちたがらないものだからです。この推測が正しいとすれば、より多くの患者が退院後に悪化している可能性があります。

 

大阪府立呼吸器・アレルギー医療センターの退院後予後

第二に、大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター皮膚科の片岡医師による報告(文献103)です。

同科では現在、血清TARC値を指標として厳密なプロアクティブ療法を行っているようです。アトピー性皮膚炎の場合、血清TARC値 700 pg/ml 以下が軽症の目安です。そのため、入院治療も退院時までに 700 pg/ml 以下を達成することを目標としています。

さて、報告対象は、2009年から2013年までに同科の教育入院プログラムに参加した15歳以上の重症アトピー性皮膚炎患者329名。退院後の予後も、血清TARC値で評価しています。

肝心の期間ですが、6カ月でした。果たして6カ月が長期といえるのかどうか。皮膚科医にとっては、6カ月は長期なのかもしれません。患者にとって6カ月は短期だと思います。個人的には、少なくとも5年は追跡するべきだし、20年~30年後の予後を調査しなければ意味はないと思います。ともあれ退院後6カ月間以上の追跡率は85%とのことです。

こちらも報告をもとにグラフを作成しました。

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グラフをみると、退院時では、とくに2011年以降、7割以上の患者で700 pg/ml 以下が達成されるなど、入院治療の有効性が示唆されています。

しかし、退院6カ月後では、すべての年で、700 pg/ml 以下の患者の割合が減少しています。維持できているのはおおよそ半数以下です。6カ月でこれですから、1年後、数年後は推して知るべしでしょう。 

 

なお、この報告を行った片岡葉子医師は、ガイドライン作成委員であり、メディアへの露出もあり、標準治療の宣伝や、なぜかTARCの普及に力を入れている方です。脱ステロイドの改善率は100人に1人という主張もしておられます。

私は1996年に当施設へ転勤してきたのですが、その頃は「ステロイドをやめたい」と強く望む患者さんには脱ステロイド治療を行い、それ以外の患者さんにはステロイド治療を行っていました。

すると脱ステロイド組の中には、100人に1人程度ですが確かに症状がよくなる患者さんがいる。私たちもそれを期待して患者さんの希望に応じた治療を続けていたのですが、大多数は何年脱ステロイド治療を続けても改善せず、不登校になったり、仕事に就けなかったり、中には非常に残念なことですが自殺してしまったりした方もいて、やはり脱ステロイドではアトピー性皮膚炎は解決しないのではないかと気付き、ステロイドの使い方が問題なのではないかと考え始めたのです。*1

脱ステロイドの改善率が1%という主張は、過去の報告と照らし合わせても受け入れ難いものです。脱ステロイドを否定したいがためにバイアスがかかっているのでしょう。このような実例があるので、他の主張についても慎重に読む必要があると思います。

 

退院後の予後は悪化傾向

ガイドラインの記述を再掲します。

治療介入によって退院後の長期予後が改善することは複数の施設で確認されている102)103)

この退院後の長期予後の具体的な期間を調べるため、参照文献102および103を確認してきました。

文献102には、予後の具体的な期間は記述されておらず、かつ、退院後現在において患者の半数以上が皮膚症状が不安定な状態でした。したがって、文献102を長期予後改善の根拠とするには無理があります。

また、文献103には、調査したすべての年で、退院後6カ月現在において軽症を維持していた患者は減少していました。したがって、文献103を長期予後改善の根拠とするには無理があります。

すなわち、ガイドラインの当記述は何らの根拠にも基づいていないということができます。当記述は、事実ではなく、日本皮膚科学会による主張です。

さらに言えば、ガイドラインのいう「長期」は、どうも「6カ月」であるらしく、「複数の施設」とは、「東邦大学医療センター大橋病院および大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター」です。そうであれば、そのように具体的に記述すれば良いと思います。

そして、両文献に示されたデータを見て、どこをどう解釈すれば「改善する」といえるのか、理解できません。データは、退院時は確かに改善しているけれども、退院後の予後は症状が悪化していく傾向がはっきりと表れています。

 

このガイドラインには残念な記述が多いのですが、またひとつ落胆させられました。ガイドラインを鵜呑みにして入院治療を受けても、長期予後が改善する望みはなさそうです。

 

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