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PDE4阻害薬とアトピー性皮膚炎

大塚製薬創製の PDE4 阻害剤

今月(2016年2月9日)、大塚製薬は、自社創製した OPA-15406 の米国における開発・販売・製造権を、米メディメトリクス社に導出する契約を締結したと発表しました。

OPA-15406 は大塚製薬が創製した PDE4 阻害剤*で、現在米国においてアトピー性皮膚炎を対象疾患としたフェーズ 2 試験の段階にある薬剤です。皮膚科に特化した製品の開発・販売を行っておりこの領域に強みを持つメディメトリクス社に導出することにより、米国で新しい薬剤を望んでいるアトピー性皮膚炎の患者さんにいち早く新しい薬を届け治療に貢献できると期待しています。

* PDE4 阻害剤は、アトピー性皮膚炎の兆候や症状の原因とされるサイトカインやケミカルメディエーターの産生を抑制することにより皮膚の炎症を抑えることが知られています。  *1

新たなアトピー性皮膚炎治療薬としては、抗ヒトIL-4/IL-13抗体製剤のデュピルマブが有望視されていると思いますが、PDE4阻害剤の開発競争も製薬各社により行われているようです。

 

PDE4阻害剤とは

ホスホジエステラーゼ(Phosphodiesterase, PDE)は酵素の一種であり、11種類のファミリー(PDE1~PDE11)に分類されます。

このうち、PDE4は、前炎症性メディエーターの産生を亢進させ、抗炎症性メディエーターの産生を抑制しているとみられる細胞内酵素です。

具体的には、免疫ホメオスタシスの維持を助けるセカンドメッセンジャーであるサイクリックアデノシン1リン酸(cAMP)を分解することにより、免疫細胞活性やTNF-α、IL-17、IFN-γなどの前炎症性メディエーターの放出を亢進させ、IL-10のような抗炎症性メディエーターの産生を間接的に抑制していると考えられます。*2

また、PDE4には、4つの主要なサブタイプ(PDE4A~PDE4D)があり、それらが単球やTリンパ球などヒトの炎症細胞内に広く発現しています。*3 

PDE4阻害剤は、このPDE4を特異的に阻害することで、細胞内cAMP濃度を上昇させ、抗炎症作用や痒み抑制作用を発揮することが示唆されているのです。

 

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PDE4阻害剤の開発状況

現時点では、アトピー性皮膚炎を適応とする経皮のPDE4阻害外用薬として、下記薬剤の研究開発が行われているようです。

  • crisaborole(AN2728)
     Anacor(アメリカ)→FDA審査中
      ※2016年12月14日、Eucrisa(crisaborole)は承認されました*4
  • M5200(TA7906)
     マルホ(日本)→PhaseⅡ    
  • DRM02
     Dermira(アメリカ)→PhaseⅡ
  • RVT-501(E6005)
     Roivant Sciences(アメリカ)→PhaseⅡ
  • OPA-15406
     メディメトリクス(アメリカ)→PhaseⅡ

このうち、TA7906を田辺三菱製薬が、E6005をエーザイが、OPA-15406を大塚製薬が創製しており、日本の製薬会社各社が密に関係してきたことがうかがえます。

ただし、その開発は難航してきたようです。

PDE4 阻害薬はこれまでに喘息やchronic obstructive pulmonary disease(COPD)などを対象に多くの薬剤が開発されてきたが,その多くが薬効発現濃度と嘔吐や吐き気といった副作用発現濃度との十分な乖離を得ることができずに開発中止に陥っている.*5


慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療薬のロフルミラスト(Daxas®, DALIRESP®、国内未承認)や、乾癬治療薬アプレミラスト(OTEZLA®、国内未承認)などの経口薬は現在すでに上市されていますが、外用薬はまだ承認されていません。

その中で一歩先んじているのが、米Anacor(アナコア)社です。同社は先月(2016年1月7日)、軽症から中等症アトピー性皮膚炎治療のためのPDE4阻害外用薬として「Crisaborole外用薬2%」の新薬承認申請をアメリカFDAに提出しました。

また、同社は昨年、長期安全性試験において、Crisaboroleの高い忍容性が明らかとなり、安全性プロフィールを証明したと発表しています。*6

 

(※2016年5月17日追記) 

2016年5月16日(米現地東部夏時間)、米ファイザー社が米アナコア社を約52億ドルで買収すると発表しました。プレスリリースによれば、ファイザー社は、アナコア社の主力資産である crisaborole の年間売上高のピークが、20億ドルに達するか、それを超える可能性を秘めていると考えています。

なお、時事通信社や日本経済新聞などは Anacor を「アナコール」と表記していますが、英語の発音はアナコアに近いので当サイトでは「アナコア」と表記しています。

 

まとめ

Crisaboroleの対象疾患が軽症から中等症のアトピー性皮膚炎ですから、PDE4阻害外用薬には、重症アトピー性皮膚炎やリバウンド時の皮疹を抑えるような強い抗炎症効果は期待できないのかもしれません。日本で承認されるかどうかもわかりません。

しなしながら、治療薬に新しい選択肢が加わることは前向きに捉えたいと思います。

また、今週(2月16日)、日本のアンジェスMGが、NF-κBデコイオリゴDNAを用いたアトピー性皮膚炎治療薬の国内第Ⅲ相臨床試験が終了したと発表しました。データ解析により良好な結果が得られた場合には、国内で中等症以上の顔面のアトピー性皮膚炎を適応症として本年中に承認申請を行うとしています。

いずれにしても、アトピー患者として最も気になるのは副作用です。これらの薬剤がアトピー治療の現場にどのような変化をもたらすのか、注目していきたいと思います。

 

(関連記事) 

 

(本文は信頼できると考えられる情報に基づいて作成しておりますが、その正確性や完全性を保証するものではありません。)

*1:「アトピー性皮膚炎治療薬の開発品OPA-15406の米国におけるライセンス契約締結について」大塚製薬株式会社ニュースリリース(2016年2月9日)より

*2:PDE4 could promote inflammation in psoriasis and arthritis

*3:Manning C D et al.,Suppression of human inflammatory cell function by subtype-selective PDE4 inhibitors correlates with inhibition of PDE4A and PDE4B. Br J Pharmacol. 1999 Dec; 128(7): 1393–1398.

*4:FDA approves Eucrisa for eczema

*5:石井直人ら, PDE4 阻害薬のアトピー性皮膚炎への適応. 日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)144,154~159(2014).

*6:Anacor Pharmaceuticals Submits New Drug Application to the FDA for Crisaborole Topical Ointment, 2% for the Treatment of Mild-to-Moderate Atopic Dermatitis | Business Wire