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アトピー覚書ブログ

成人型アトピー 脱ステ・脱保湿患者のブログ

500ダルトンルールとヒアルロン酸

プロトピックは正常な皮膚からは吸収されない?

アトピー性皮膚炎患者であれば、「プロトピック軟膏は正常な皮膚からはほとんど吸収されない」という話を一度は耳にしたことがあると思います。

例えば、プロトピック軟膏のインタビューフォームには、タクロリムス(プロトピック軟膏の一般名)の皮膚からの吸収率について、次のように書かれています。

ラットの健常及び角質層を除去した損傷皮膚に0.5%14C-タクロリムス軟膏320mg/kgを密封法で単回塗布したときの尿及び糞中への排泄率の合計から、健常及び損傷皮膚からの吸収率は各々4.6%、56.0%と推定された。*1

ラットの実験での皮膚からの吸収率は、健常皮膚で4.6%、損傷皮膚で56.0%と推定されたとのこと。

健常皮膚からの吸収率が低い理由は、タクロリムスの分子量が大きいからだと一般的には説明されます。

 

500ダルトンルール

この説明の根拠の一つとなっているのが「500ダルトンルール」です。どのようなルールなのでしょうか。500ダルトンルールを主張した論文から引用してみます。

我々は、皮膚に吸収される化合物の分子量は500ダルトン未満でなければならないことを主張する。より大きい分子は角質層を通過できない。"500ダルトンルール"の主張は次の通りである。

1) 事実上、すべての一般的な接触アレルゲンは500ダルトン未満であり、より大きな分子は接触感作性物質として知られていない。それらは透過できないために、ヒトにおけるアレルゲンとして作用し得ない。

2) 外用皮膚病治療において、一般的に処方される薬剤は、すべて500ダルトン未満である。

3) 経皮的薬物送達システムで使用されるすべての既存外用薬は、500ダルトン未満である。さらに、シクロスポリンやタクロリムス、アスコマイシンなどの外用薬の臨床経験は、500ダルトンルールの現実性についての主張を強めるものである。*2

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上図は同論文より引用したものです。縦軸が透過率、横軸が分子量です。NSは正常皮膚、ADはアトピー性皮膚炎、Mは粘膜です(USは超音波処理皮膚)。

この図によれば、アトピー性皮膚炎(AD)では、正常皮膚と比べて、より大きな分子量でも皮膚を透過します。

そして、タクロリムスの分子量は822.03ですから、正常な皮膚からは吸収されないけれども、アトピー性皮膚炎の皮膚からは吸収されることが示唆されています。

なお、ステロイド外用薬の分子量は450前後であり、クロベタゾールプロピオン酸エステル(デルモベート)であれば分子量466.97です。

 

ヒアルロン酸の皮膚透過性

さて、この500ダルトンルールを踏まえたうえで、表題の件について考えたいと思います。

ヒアルロン酸は分子量が大きいことで知られています。高分子量で100万以上、低分子量で10,000から50,000くらい、超低分子で10,000未満くらいのようです。

ここで、素人なりの素朴な疑問が沸き起こります。すなわち、分子量が500未満でなければ皮膚からは吸収されないとする500ダルトンルールに従えば、ヒアルロン酸はまったく皮膚からは吸収されないのではないか、ということです。

ご存知のように、現在ヒアルロン酸が配合されている化粧品が数多く市販されています。それらの広告にみられる「肌になじむ」「肌がしっとりする」といった表現は、一体どのような状態を指しているのでしょうか。

つまり、分子量が大きいために肌の表面にとどまって保水しているだけなのか、あるいは皮脂膜や角質層を透過したうえで保水しているのか。

今のところ、巷には、「ヒアルロン酸は分子量が大きいので皮膚を透過しない」「肌の表面に留まって保水力を発揮する」「低分子なら透過する」云々といった情報がみられます。

 

調べてみると、この疑問に答えてくれる論文 *3 がありました。

Hyaluronan has recently been introduced as a vehicle for topical application of drugs to the skin. We sought to determine whether hyaluronan acts solely as a hydrophilic reservoir on the surface of intact skin or might partly penetrate it.

ヒアルロン酸は最近、皮膚外用薬の基剤として導入されている。我々は、ヒアルロン酸が、全く正常皮膚の表面で親水性の貯留層として作用するのか、あるいは、部分的に皮膚を透過するのかを確定しようとした。

研究では、マウスおよびヒトで実験をしており、ヒトの皮膚でもヒアルロン酸が表皮および真皮を透過することを確認しています。使用されたヒアルロン酸の分子量は400,000でした。

This study establishes that hyaluronan is absorbed from the surface of the skin and passes rapidly through epidermis, which may allow associated drugs to be carried in relatively high concentration at least as far as the deeper layers of the dermis.

この研究は、ヒアルロン酸が皮膚の表面から吸収され、表皮を急速に通過することを証明した。少なくとも真皮下層の範囲まで比較的高濃度で薬剤を透過させる可能性がある。

Although the density of grains was less intense overall, there was similar aggregation of grains in the keratinized layer, epidermis, and clear penetration of activity to the deeper dermis with concentration notably at that level and just beneath the epidermis.

全体の粒子密度は低かったけれども、角化層、表皮において同様の粒子集団がみられた。また、同レベルと表皮の真下においても、高い濃度での真皮下層への明らかな透過作用がみられた。

この研究結果によれば、分子量400,000のヒアルロン酸がヒトの皮膚を透過することが確認されているので、500ダルトンルールがあてはまらないことになります。また、高分子のヒアルロン酸は皮膚を透過しないが、低分子なら透過するという主張についても首肯し難い結果です。

 

結局、500ダルトンルールも一つの主張にすぎないので、すべての現象がこのルールにあてはまるわけではないことに留意する必要があるようです。プロトピックについていえば、正常な皮膚からは ”ほとんど” 吸収されない、ということでしょう。プロトピックは血中濃度の試験も行っているのでその点であまり神経質になることはないと思いますが。

 

なお、ダルトンは質量の単位であり、分子量には単位がつきません。しかし、500ダルトンルールの論文において分子量(molecular weight)の単位として Dalton が用いられているため、原文にならって表記しています。

 

(当サイトはいかなる治療法をも推奨するものではありません。また、当サイトに掲載されている情報を利用することにより発生したいかなる損害についても責任を負うものではありません。)

(引用部分の翻訳は当サイトによります。正確な翻訳を期していますが、正確性を保証するものではありません。)

*1:医薬品インタビューフォーム「プロトピック軟膏0.1%」改訂第16版

*2:Bos JD, Meinardi MMHM. The 500 Dalton rule for the skin penetration of chemical compounds and drugs. Exp Dermatol 2000: 9: 165–169.

*3:Brown et al. Absorption of Hyaluronan Applied to the Surface of Intact Skin. The Journal of Investigative Dermatology,VOL.113, NO.5 NOVEMBER 1999.