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アトピー覚書ブログ

成人型アトピー 脱ステ・脱保湿患者のブログ

妊娠中のステロイドは安全か?

乳幼児

根拠なき情報の氾濫

まず、私見を述べれば、妊娠中のステロイドの安全性について、今のところ誰もはっきりとしたことは言えないと思います。今の私たちにできることは、過去のケースから学び、その知見をどう生かすか、ということに尽きると思います。

 

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ところが、インターネット上では、何らの根拠も示さずに、妊娠中のステロイドは安全だとする意見が散見されます。例えば、次のような文章があります。

あるステロイド剤の添付文書には、「妊婦に対する安全性は確認されていません。妊婦または妊娠している可能性がある婦人に対しては、大量または長期にわたる広範囲の使用は避けること」などと記載されています。これは、あるステロイドを妊娠中のウサギ(7~18日間〈器官形成期〉)に塗布(0.5g/kg/日)したところ、「胎児生存が低下」したり「口蓋裂を発症」したという報告を受けたことによります。

しかし、動物と人とでは代謝経路も、胎児の成長課程も異なります。つまり、ウサギのようなことが人に当てはまるかというと、そうではないということ。

ステロイド剤使用による、奇形児の報告は一例もない!

実際に、妊娠中にステロイド剤を使用したことが原因で胎児に問題が発生したり、奇形児を出産したという報告は、一例もありません。

 (奇形児の可能性は? 妊娠中の《ステロイド剤》は胎児にどんな影響がある?【Doctors Me】

信じ難いのですが、医師の監修を受けている文章とのこと。しかしながら、この情報は妊婦の方をミスリードする可能性があるように思います。

この文章は、突き詰めると、

  • 添付文書は無意味である。
  • 動物実験は無意味である。

という極端な主張をしていると受け取れます。動物実験のヒトへの外挿の問題を論拠としているようですが、添付文書そのものを否定するような言い方です。

人にはそれぞれの考えがあるので、これらの主張については百歩譲るとしても、

  • 妊娠中にステロイド剤を使用したことが原因で胎児に問題が発生したという報告は一例もない

というのです。

この情報は誤りです。

妊娠中にステロイド剤を使用したことが原因で胎児に問題が発生したという報告はあります。

 

ステロイドの催奇形性と胎児毒性

ステロイドの催奇形性に関する報告が存在します。例えば、次に引用するのは、口唇口蓋裂についての報告です。

A case-control survey of 48 children with nonsyndromic cleft lip or palate showed a significant increase in prevalence of maternal use of topical corticosteroid preparations in the first trimester of pregnancy, compared to 58 controls born in the same hospital

非症候性の口唇口蓋裂をもつ48人の子供についてのケースコントロール研究によれば、同病院で生まれた対照群の58人の子供に比して、母親の妊娠初期のステロイド外用薬使用による有病率が有意に増加していた*1

 

ステロイドの胎児毒性も問題となります。ダカールにおける、妊娠6-9か月の女性99人を対象とした調査では、そのうち強力なステロイドが含まれたスキンライトナーの使用者の子供に胎児発育不全がみられたことを報告しています。

women using highly potent steroids, when compared with those who did not, had a statistically significant lower plasma cortisol level and a smaller placenta, and presented a higher rate of low-birth-weight infants.

極めて強力なステロイドを使用した女性は、非使用者に比して、統計的に有意に血漿コルチゾール値が低く、より小さな胎盤を有していた。また、より高率に低出生体重児がみられた。 *2

 

ステロイドによる胎児発育不全のリスク

これらの報告は一部の個別的なものですが、ステロイド外用薬使用後の妊娠結果を調査した、比較的最近の集団ベースのコホート研究*3 があります。

それによれば、一次解析において、母親のステロイド外用薬使用と、口唇口蓋裂、低出生体重、早産、胎児死亡、アプガースコア低値、分娩様式との間に関連はありませんでした。

しかし、探索的分析においては、妊娠期間中に強力または非常に強力なステロイド外用薬の処方総量が300gを超えた場合に低出生体重リスクの有意な増加を示したとのことで、低出生体重リスクはステロイド外用薬の使用量と相関していると思われると結論しています。

 

また、これらコホート研究などの成果から「妊娠中のステロイド外用薬に関する科学的根拠に基づいたガイドライン*4」という総括的な論文が発表されており、やはり胎児発育不全のリスクを指摘しています。

現在の最良のエビデンスとして、胎児発育不全リスクと強力または非常に強力なステロイド外用薬とに関連があるため、マイルドまたは中等クラスのステロイド外用薬が優先されるべきことを提案する。 

 

参考までに、同ガイドラインの勧告 Recommendations 部分を翻訳引用します。

  1.  妊娠中はマイルドまたは中等クラスのステロイド外用薬がより強力なステロイドに優先して使用されるべきである(勧告グレード:B)。
  2. 強力または非常に強力なステロイド外用薬はできるだけ短期間で二次選択治療として使用されるべきであり、それは胎児発育不全のリスクを増加させるので適切な産科ケアが提供されるべきである(勧告グレード:B)。
  3. 強力または非常に強力なステロイド外用薬の母親の使用と胎児発育不全との関連は、妊娠中にそれらが使用されたときに検討される必要がある。ステロイド内服薬はステロイド外用薬よりも高い生物学的利用能をもつゆえに、より高い胎児毒性の可能性をもつので(ステロイド内服薬は胎児出生体重の減少および早産の増加と関連する)、優先して使用されるべきではない(勧告グレード:B)。
  4. 理論的には、有害事象の危険性は高吸収部位(例えば、陰部、眼瞼、屈曲部)が治療されたときに増加する(勧告グレード:D)。
  5. 高い治療指数をもつ最近の脂溶性ステロイド外用薬(モメタゾンフランカルボン酸エステル、プロピオン酸フルチカゾン、アセポン酸メチルプレドニゾロン)が胎児発育不全リスクの減少に関連するかどうかを確定しうるデータはない。理論的には、妊娠中使用において有利な副作用が示唆される。さらに、古い薬剤に比べて1日1回の使用で実用上の利点がある(勧告グレード:D)。

 

あわせて、同ガイドラインは次のようにアドバイスしています。

  1.  妊娠中のステロイド外用薬使用により、口唇口蓋裂、早産、胎児死亡のリスクの有意な増加がないことについては安心してよい。マイルドまたは中等クラスのステロイド外用薬使用では、胎児発育不全のリスク増加もない。
  2. 妊娠中の強力または非常に強力なステロイド外用薬使用により、胎児発育不全の小さなリスクがあることについて知るべきである。しかし、ステロイド内服薬よりはそのリスクは低い。ステロイド内服薬ではさらに早産のリスクがみられる。
  3. 皮膚症状の重症度に応じて、必要最小限の強さのステロイド外用薬を量および使用期間を制限して使用すべきである。屈曲部、脇の下、陰部などの高吸収部位ではより慎重になるべきである。

 

妊娠中のステロイドに関する情報提供

以上を踏まえて、改めて妊娠中のステロイドの安全性について考えてみます。

先のガイドラインにのっとることを前提として、ごく簡潔にまとめると、

  • 現時点でわかっていることは、強力または非常に強力なステロイド外用薬を使用した場合に、胎児発育不全の小さなリスクがある。

ということになります。

このリスクをどの程度に考えるかは、妊婦の方次第ではないでしょうか。ステロイドを使用した場合のベネフィットを考慮して判断することになるかと思います。

もちろん、膠原病などの治療のために元々ステロイドを使用している人や、切迫早産などステロイド治療が必要な場合は例外です。

 

ただし、こうしたガイドラインも、現時点における暫定的なもので、絶対的なものではありません。当然ながら、より良い証拠が集まれば、書き換えられていくものです。

アメリカFDAも、去年、薬剤胎児危険度分類(pregnancy category)を撤廃することを発表しました。その背景として、「薬剤胎児危険度分類は、混乱を招き、常に正しく胎児へのリスクの度合いの差を伝えるものではなかった *5 」などと説明しています。情報は常に更新されているのです。

最初に述べたように、胎児へのステロイド外用薬の影響について詳しいことは知られておらず、誰もはっきりとしたことは言えないと思います。

そうした現状において、危険なのは、まだ真実がよくわかっていないにもかかわらず安全であると吹聴したり、あるいは不都合なデータを隠そうとすることではないでしょうか。

妊婦の方々には適切に十分な情報が提供されるべきで、そのうえで、妊婦の方々が自ら最適な行動を選択することが望ましいと思われます。ところが、現実には情報の欠如がみられ、European Dermatology Forum のガイドラインでも問題視されているところです。

知識の欠如は母親と胎児に副作用を引き起こし得る。(中略)

酢酸ヒドロコルチゾンのような効果の弱いステロイド外用薬なら妊娠中の使用も安全であるという一般的な根拠のない仮定は、おそらく間違いである。

十分な安全情報の欠如にもかかわらず、多くの女性たちがいまだに妊娠中にステロイド外用薬を使用している。*6

 

日本で伝わる根拠のない仮定

日本では、皮膚科医が発信する情報のほとんどは、日本皮膚科学会のガイドラインや標準治療がソースで、それを引用していると思われます。

しかし、現時点において、妊娠中のステロイド外用薬使用に関しては、アトピー性皮膚炎診療ガイドラインでは言及されておらず、エビデンスの記載はありません。

そのため、冒頭に引用した文章のように、医師の監修を受けた情報であっても、根拠が示されないという現象が生じるのかもしれません。

また、このことは、医師を受診しても、「妊娠中のステロイドは問題とならない」「ほとんど吸収されない」「胎児への影響はない」などの根拠のない仮定が伝えられる可能性があることを示しています。

安全性を考慮するうえでは、リスク情報が適切に提供される環境が必要です。しかし、この問題に関しては、いまだその環境は整っていないといえそうです。

 

(関連記事)

 

※アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版に「妊娠・授乳婦への配慮」が記載されました。

 

(本稿は2015年10月時点の情報に基づいています。) 

(当サイトはいかなる治療法をも推奨するものではありません。また、当サイトに掲載されている情報を利用することにより発生したいかなる損害についても責任を負うものではありません。)

(引用部分の翻訳および赤字による強調表示は当サイトによります。正確な翻訳を期していますが、正確性を保証するものではありません。)

*1:Edwards MJ, Agho K, Attia J et al. (2003) Case-control study of cleft lip or palate after maternal use of topical corticosteroids during pregnancy. Am J Med Genet A 120:459–63 

*2:Mahe´ A, Perret JL, Ly F et al. (2007) The cosmetic use of skinlightening products during pregnancy in Dakar, Senegal: a common and potentially hazardous practice. Trans R Soc Trop Med Hyg 101:183–7

*3:Chi CC, Wang SH,Mayon-White R. Pregnancy Outcomes After Maternal Exposure to Topical Corticosteroids: A UK Population-Based Cohort Study. JAMA Dermatol. 2013;149(11):1274-1280.

*4:Chi CC, Kirtschig G, Aberer W, et al.
Evidence-based (S3) guideline on topical corticosteroids in pregnancy. Br J Dermatol.2011;165(5):943-952.

*5:Federal Register / Vol. 79, No. 233 / Thursday, December 4, 2014 / Rules and Regulations. 72065.

*6:Guideline on Steroids in Pregnancy. EDF CONSENSUS RECOMMENDATIONS FOR USE OF TOPICAL STEROIDS IN PREGNANCY. European Dermatology Forum. 2010.