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ステロイド外用薬の副作用(8:アトピー性色素沈着)

炎症後の色素沈着

アトピー性皮膚炎患者にとって、色素沈着は、外見が損なわれるうえに治りにくいという本当にやっかいな症状です。特に、ステロイド外用薬の使用で炎症を落ち着かせた後や、脱ステロイドの実践で炎症が落ち着いた後などに、目立ってくる症状であると思います。

色素沈着の色素が、メラノサイトにより産生されるメラニンであることは、日焼けのメカニズムなどとともに一般によく知られていると思います。

アトピー性皮膚炎の患者にとっての色素沈着も、同様にメラニンによるものですが、いわゆる「炎症後色素沈着 Postinflammatory Hyperpigmentation 」と呼ばれています。

 

炎症後色素沈着の原因*1

炎症後色素沈着が起きる原因はさまざまです。

  • 細菌、真菌、ウイルス、寄生虫による皮膚感染症
  • 熱傷、擦り傷などの外傷
  • 薬疹など薬への反応
  • 光毒性の発疹
  • にきび、皮膚炎、扁平苔癬、乾癬などの炎症反応

 

炎症後色素沈着の治療*2

一般的に、色素沈着は時間の経過とともに徐々に減少し、正常な皮膚の色に戻るとされます。しかし、6-12か月あるいはそれ以上に長い経過となるかもしれません。

外用薬
  • ハイドロキノン
  • アゼライン酸
  • ビタミンCクリーム
  • トレチノインクリーム
  • コルチコステロイドクリーム
  • グリコール酸ピール
  • その他:コウジ酸、アルブチン、甘草エキス、メキノール、ナイアシンアミド、N-アセチルグルコサミン、大豆
理学療法

有用かもしれませんが、かえって色素沈着を悪化させる可能性もあります。

  • ケミカルピーリング
  • レーザー療法
  • 超短パルス光療法

 

炎症後色素沈着のしくみ

まだ完全には解明されていませんが、炎症が起きた際に、炎症メディエーターがメラノサイトを刺激して、メラニンを過剰生産させるためと考えられています。

炎症後色素沈着は、メラニンの過剰生産、または、皮膚炎症後の色素の拡散によって引き起こされる。炎症後色素沈着が表皮に限定された場合は、ケラチノサイトの周囲でメラニンの産生と移動が増加する。
正確なメカニズムは知られていないが、炎症プロセス間に放出される活性酸素種と同様に、プロスタノイド、サイトカイン、ケモカイン、他の炎症メディエーターにより、メラノサイトの活動が促進される。
複数の研究により、LT-C4やLT-D4などのロイコトリエン、プロスタグランジンE2やD2、トロンボキサン-2、インターロイキン(IL)-1,IL-6、腫瘍壊死因子(TNF)-α、上皮成長因子、酸化窒素などの活性酸素種が、メラノサイト刺激特性をもつことが示されている。*3

 

また、色素沈着が治りにくい理由のひとつとして、表皮のメラニンが基底膜を通り抜けて真皮に沈着している場合が挙げられます。 

真皮における炎症後色素沈着の原因には2つの説がある。

ひとつは、表皮の損傷に伴うもので、メラニンが損傷した基底膜を通り抜けてマクロファージに貪食されるという説。

もうひとつは、表皮の損傷後にマクロファージが表皮へ移動してメラノソームを貪食し、それからマクロファージが真皮へ戻りメラニン色素が無期限にとどまるという説である。*4

メラニンを貪食したマクロファージはメラノファージと呼ばれます。メラノファージに取り込まれたメラニン色素の多くは成熟したメラノソームで、消化されにくいため真皮内に長く留まるとされます。

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日本のガイドラインにおける色素沈着

日本皮膚科学会では、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン(2009)において、アトピー性皮膚炎でみられる色素沈着は炎症後色素沈着であり、ステロイド外用薬の副作用ではないとしています。

ステロイド外用薬の使用後に色素沈着がみられることがあるが,皮膚炎の鎮静後の色素沈着であり,ステロイド外用薬によるものではない. 

九州大学によるアトピー性皮膚炎の標準治療を紹介するホームページでは、色素沈着についてもう少し詳しく記述されています。こちらでは、前述したメラニンの真皮への沈着の話を例にして、色素沈着とステロイド外用薬は無関係であることを強調しています。

アトピー性皮膚炎のように皮膚の炎症が長引くと、表皮が壊れてメラニン色素が真皮に落ちてしまいます。真皮に落ちたメラニン色素は体外になかなか排泄できませんので、体内の貪食細胞が処理してくれるのを待つしかありません。皮膚炎が強ければ強いほど、かゆくて引っ掻きますので、表皮がたくさん壊れ、真皮にメラニン色素が落ちることになります。貪食細胞の能力には限りがあるため、真皮内のメラニン色素はその場所に沈着してしまいます。つまり皮膚が黒くなるのはステロイド外用薬とは無関係で、アトピー性皮膚炎の炎症が強く、たくさん引っ掻いたことを意味しています。*5

 

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(九州大学皮膚科学教室「アトピー性皮膚炎についていっしょに考えましょう。」より)

 

アトピー性皮膚炎における頸部の色素沈着

ここまでは、一般的な炎症後色素沈着についての知識です。

一方、ここで取り上げたいのは、炎症後色素沈着のなかでも、アトピー性皮膚炎患者に多くみられる、首の色素沈着です。この症状を表す言葉は、次のように複数存在しています。

  • ダーティ・ネック  atopic dirty neck
  • さざ波様色素沈着  rippled pigmentation
  • 頸部網状色素沈着  reticulate pigmentation of the neck
  • ポイキロデルマ様皮膚変化  poikiloderma-like changes of the neck
  • 後天的アトピー性色素沈着  acquired atopic hyperpigmentation

 

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(Severe atopic dirty neck*6

 

ここでは、統一して「アトピー性色素沈着」と呼ぶことにします。

健常者でもアトピー性皮膚炎患者でも、炎症後の色素沈着は一般的に経験することだと思います。傷が治ったあとにできる黒ずみです。この色素沈着は、ステロイド外用薬とは無関係でしょう。

しかし、首にさざ波のような特徴的な外見を呈するアトピー性色素沈着は、健常者にはみられないアトピー患者特有のものです。そして、そのアトピー患者は大抵ステロイド薬の使用歴があります。

私は、通常の炎症後色素沈着と、アトピー性色素沈着は、分けて考える必要があると思います。そして、アトピー性色素沈着については、患者の実感として、ステロイド外用薬(または内服薬)等の影響があるように思えてならないのです。

昨今は、ステロイド外用薬の安全キャンペーンが行われているので、ステロイドと色素沈着はまったく関係がないと宣伝されています。ただ、日本においても、過去には色素沈着とステロイドとの関係が指摘されていました。

頸部のポイキロデルマ様皮膚変化は、慢性炎症と創傷治癒過程の遅延に起因している可能性があり、あるいは、長期にわたるステロイド外用薬治療が原因かもしれない。*7

この色素沈着は、首へのステロイド外用薬の長期使用歴をもつ患者にみられ、ステロイド外用薬の中止により徐々に薄くなる。*8

 

傍鎖骨数珠状線

アトピー性色素沈着では、なぜ「さざ波様外観」が現れるのでしょうか。

アトピー性色素沈着について調べた最近の研究 *9 によれば、さざ波様外観は、傍鎖骨数珠状線 juxta-clavicular beaded lines (JCBL) の亢進によるものと考えられています。

(アトピー性色素沈着の)病理組織は、増加した表皮メラニンと真皮メラノファージ、肥厚した基底膜、高密度の表在性血管周囲浸潤を示した。

臨床病理学的相関は、摩擦黒皮症および炎症後色素沈着の双方の結果であることを示唆した。さざ波様外観および青年期の発症は、傍鎖骨数珠状線の亢進によるものと考えられた。

傍鎖骨数珠状線は、cutis punctata linearis colliとも呼ばれており、Langer割線に水平に沿う首の脂腺性毛包の正常な解剖学的パターンである。患者2名のさざ波様色素沈着部位から採取された生検標本において、皮脂腺の隆起が発見されたことは、この説(訳者注:さざ波様外観が傍鎖骨数珠状線の亢進によるとする説)を裏付けるものである。

要するに、毛包部にある皮脂腺が盛り上がるように肥大し、その毛包部が首の側面から鎖骨周囲にかけて数珠つなぎに連なっているので、さざ波様にみえるということです。

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さらに、同研究は、アトピー性色素沈着をもつ患者には、ステロイド外用薬の使用歴と首の湿疹の既往があることを指摘し、傍鎖骨数珠状線とステロイド薬との関連を示唆しています。

傍鎖骨数珠状線の臨床的兆候と隆起は、年齢、性別、日光曝露、摩擦など、脂腺性毛包の大きさに影響を与えるいくつかの要因による。

コルチコステロイドの外用または内服も傍鎖骨数珠状線と関連がある。また、免疫抑制剤(訳注:シクロスポリン)を開始した臓器移植患者においても傍鎖骨数珠状線が突然発症した症例が報告されている。

 

そして、アトピー性色素沈着の病因を下図のようにまとめています(翻訳引用)。

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基本的な病因は、おそらく摩擦黒皮症と炎症後色素沈着によるものと考えられ、傍鎖骨数珠状線としても知られる、特徴的なさざ波様外観の色素沈着を与える頸部の脂腺性毛包群の線状配列を亢進させている。 

 

他の研究を参照してみると、傍鎖骨数珠状線は皮脂腺 sebaceous gland の過形成 hyperplasia(あるいは肥大 hypertrophy)によって明白になるわけですが、この皮脂腺の過形成、つまり細胞増殖が、おそらく長期間のステロイド治療によって引き起こされること、また、ステロイド治療の副作用である皮膚萎縮によってより顕著に現れることなどが指摘されています。*10*11

色素沈着が脂腺性毛包群の間に生じる理由としては、何らかの組織学的要因から毛包群にメラノファージが定着しにくいか吸収されやすいこと、また、毛包群の間では色素失調がおこりやすく、かつメラノファージが吸収されにくいとする考察があります。*12

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 (傍鎖骨数珠状線*13

 

まとめ

強調したい点なので繰り返しますが、一般的な炎症後色素沈着とアトピー性色素沈着とは、分けて考える必要があると思います。

そうすると、一般的な炎症後色素沈着とステロイド薬等は無関係かもしれませんが、アトピー性色素沈着とステロイド薬等は関係があるかもしれません。

最近は、「ステロイド外用薬を塗っても皮膚が黒くなることはない」という旨の主張がいたるところでなされています。私には、そうした主張はいかにも短絡的な発想に基づくもので、思考停止に陥っているようにみえます。

事実はもっと複雑で、まだまだ多くの解明されていないことが残されているのではないでしょうか。思考停止に陥らず、その複雑さを少しずつでも明らかにしていく姿勢が求められているように思います。

 

(引用部分の翻訳および赤字による強調表示は当サイトによります。正確な翻訳を期していますが、正確性を保証するものではありません。)

*1:Postinflammatory hyperpigmentation, DermNet NZ

*2:Postinflammatory hyperpigmentation, DermNet NZ

*3:Erica C. Davis et al. Postinflammatory Hyperpigmentation: A Review of the Epidemiology, Clinical Features, and Treatment Options in Skin of Color. J Clin Aesthet Dermatol. 2010 Jul;3(7):20-31.

*4:Jean L. Bolognia, MD, Joseph L. Jorizzo, MD and Ronald P. Rapini, MD. Dermatology Volume one. Gulf Professional Publishing.2003

*5:九州大学皮膚科学教室:アトピー性皮膚炎についていっしょに考えましょう。

*6:Amélie C. Seghers et al. Atopic Dirty Neck or Acquired Atopic Hyperpigmentation? An Epidemiological and
Clinical Study from the National Skin Centre in Singapore. Dermatology 2014;229:174–182.

*7:Mukai et al. Poikiloderma-like lesions on the neck in atopic dermatitis: a histopathological study.J Dermatol. 1990 Feb;17(2):85-91.

*8:Atopic eczema of adult type in Japan. Australasian Journal of Dermatology. 1996 ;37:S7-S9.

*9:Amélie C. Seghers et al. Atopic Dirty Neck or Acquired Atopic Hyperpigmentation? An Epidemiological and
Clinical Study from the National Skin Centre in Singapore. Dermatology 2014;229:174–182.

*10:P.Donati et al. Juxtaclavicular Beaded Lines:A Malformative Condition Affecting Sebaceous Glands. Dermatorogy 2000;200:283.

*11:Woldow, A.B. et al. Juxtaclavicular beaded lines: A presentation of sebaceous gland hyperplasia. Dermatology Online Journal 15 (4): 14.2009.

*12:宮岡由規, アトピー性皮膚炎の頸部皮膚にみられる色素沈着の形態学的・生理学的検討, 日本皮膚科学会雑誌:114(1), 25-34, 2004.

*13:http://escholarship.org/uc/item/9f38v3r0