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期待の新薬デュピルマブ

デュピルマブの治験

「私は3回注射しましたが、まさに奇跡です」と彼女は言った。

彼女の皮膚はもはや赤くはなく、かゆみもなくなり、よく眠れるようになったのである。*1

これは、デュピルマブ(dupilumab)という新薬の治験に参加した女性についての記述です。現在、デュピルマブの治験がアメリカで行われています。

デュピルマブは、完全ヒトモノクローナル抗体製剤で、2型ヘルパーT細胞(Th2)の免疫反応に必要なインターロイキン-4(IL-4)およびインターロイキン-13(IL-13)の2つのサイトカインを阻害します。フランスの製薬会社サノフィとアメリカのバイオ医薬品企業リジェネロン・ファーマシューティカルズにより共同開発が行われています。

 

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モノクローナル抗体製剤

モノクローナル抗体製剤とは、単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られた抗体(モノクローナル抗体)が、標的細胞に特異的に結合して機能を阻害する分子標的治療薬をいいます。

そのうち、完全ヒトモノクローナム抗体製剤は100%ヒト由来であり、安全性が高いとされています。

すでに臨床使用されているモノクローナル抗体製剤のひとつに、抗がん剤のリツキシマブ(商品名:リツキサン)があります。Bリンパ球のCD20抗原に特異的に結合し、がん細胞を直接攻撃する薬として、B細胞性非ホジキンリンパ腫の治療に変革をもたらしたといわれています。

 

デュピルマブの効果

中等症から重症の成人アトピー性皮膚炎患者109人を対象にした12 週間の試験では、重症度スコア(EASI)が50%低下した患者が、デュピルマブ群85%に対しプラセボ群35%でした。また、総合評価スコアが0~1(皮膚病変の消失,またはほぼ消失)であった患者は、デュピルマブ群40%に対しプラセボ群7%であったということです。

気になる副作用ですが、主な副作用は鼻咽頭炎と頭痛であったということです。*2

デュピルマブの効果を調べた論文のひとつは、アトピー性皮膚炎を対象とする分子標的治療薬の登場を、次のように評価しています。

臨床的意義:分子標的治療はアトピー性皮膚炎患者に対する新しい治療パラダイムへの扉を開くかもしれない。*3

 

さらに、デュピルマブは、2014年11月に、アメリカ食品医薬品局(FDA)により、成人の中等症から重症のアトピー性皮膚炎のための「画期的治療薬(Breakthrough Therapy)」として承認されています。

FDAによる「画期的治療薬」の指定制度は、重篤または致命的な症状を対象とした薬の開発および審査を促進するために設けられたものです。画期的治療薬に指定されるためには、臨床的に重要な評価項目において、既存の治療薬を上回る大幅な改善を示す信頼できるエビデンスが必要とされています。

デュピルマブはこのエビデンスを満たしているということです。

 

デュピルマブはアトピー治療に変革をもたらすか

デュピルマブがアメリカで認可・販売され、その有効性が認められれば、今後日本で発売される可能性も出てくると思います。

ただ、デュピルマブはすべてのアトピー性皮膚炎患者には適応とならないかもしれません。上記の治験の対象患者は、ステロイド外用薬とカルシニューリン阻害薬(タクロリムス外用薬やシクロスポリン内服など)による治療にもかかわらず中等症から重症のままの患者でした。そうであれば、デュピルマブの治療を受けたいと思い皮膚科を受診しても、ステロイド外用薬を第一選択薬として勧められることになりそうです。

その他、外用ではなく注射を打つことに対する抵抗感をもつ人もいるかもしれませんし、薬価も問題になってくるかもしれません。たとえば、リツキサンは非常に高価な薬としても知られています。

アトピー関連の新薬としては、他にも日本のバイオ製薬企業アンジェスMGがNF-κBデコイオリゴ軟膏の開発を進めています。この薬は転写因子を特異的に抑制するので副作用が少ないとされています。

こうした新たな技術に基づく治療薬が、アトピー治療に変革をもたらしてくれることを期待しています。個人的には、自分で使用するかどうかはさておき、未知の副作用があるかどうか、また、薬価が落ち着いてくるかどうかをみるため、長い目で見ていきたいと思っています。

 

 

(2015年10月27日追記)

デュピルマブの治験について、フェーズ2b試験の結果が記された論文がLancet誌電子版(2015年10月7日付)に掲載されました。

サマリーによれば、「デュピルマブは中等症から重症のアトピー性皮膚炎の臨床反応を改善し、重大な安全上の懸念はみられなかった」とのこと。

評価期間は2013年5月から2014年1月まで。アメリカ、カナダ、チェコ、ドイツ、ハンガリー、日本、ポーランドにある91の施設において、日本では、福岡、北海道、埼玉、東京、横浜で行われたようです。

注目すべきは、論文の著者に、東京女子医科大学病院皮膚科の川島眞主任教授が名を連ねていることです。 

他方、九州大学医学部皮膚科の古江増隆教授も、最近の論文 *4 で、デュピルマブについて「アトピー性皮膚炎に対する有望な新しい抗掻痒および抗炎症治療」と紹介しています。

アトピー患者にとって馴染みの深いお二人ですが、このお二人が積極的に関与している事実からすると、将来的に日本で、デュピルマブがアトピー性皮膚炎の主要な治療薬として登場する可能性は高いように推測します。

 

 

(2016年4月8日追記)

2016年4月1日付で、サノフィ社がデュピルマブについてのプレスリリースを発表しました。中等症から重症アトピー性皮膚炎を対象として世界中で行われているデュピルマブのフェーズⅢ試験のうち、2つの試験が終了し、プライマリーエンドポイントを達成したとのことです。また、今年度の第3四半期に向けてデュピルマブのFDAへの承認申請を計画しているとのことです。

プレスリリースはサノフィ社の公式ウェブサイトで閲覧できます。以下、当サイトで要点を抜粋して和訳したものを掲載します。

(2016年5月1日追記:仏サノフィの日本法人であるサノフィ株式会社から、2016年4月8日付で同プレスリリースの日本語版が発表されましたので、日本語訳を同版に差し替えました。)

サノフィおよびRegeneron 社は、コントロール不良の中等症および重症アトピー性皮膚炎の成人患者を対象とした治験薬 dupilumab を評価する 2本の第 III 相プラセボ対照試験において、主要評価項目を達成したことをお知らせします。LIBERTY AD SOLO 1 試験および SOLO 2 試験において、dupilumab 単剤療法により、全般的な疾患の重症度、皮膚病変、瘙痒(かゆみ)、生活の質、およびメンタルヘルスが有意に改善しました。

Regeneron 社最高科学責任者(CSO)兼 Regeneron Laboratories 所長のジョージ・D・ヤンコポロス(M.D.、Ph.D.)は、次のように述べています。「これらの試験は、全身療法によって中等症および重症アトピー性皮膚炎が有意に改善したことを明らかにした初の第 III 相試験です。アトピー性皮膚炎は、消耗性の慢性炎症性疾患であり、米国では 100 万人以上が中等症および重症のアトピー性皮膚炎とされています。これらのデータは、IL-4 お よ び IL-13 のシグナル伝達経路がアトピー性皮膚炎における根本的な炎症誘因であるという確固たるエビデンスを示すものです。dupilumab は、免疫療法におけるファーストインクラスの薬剤であり、16 週間にわたる本2 試験において、この経路の異常活性化を阻害し、免疫抑制によると考えられる副作用を伴わずに、有意な有効性を示しました。喘息や鼻ポリープなど、当社がdupilumab の臨床開発を進めている関連の炎症疾患において、IL-4 および IL-13 シグナル伝達経路の役割を引き続き評価していきます」

サノフィのグローバル研究開発担当プレジデントのエリアス・ザフーニ(M.D.)は、次のように述べています。「米国では、中等症および重症アトピー性皮膚炎患者さんに対して承認された全身療法がなく、明らかなアンメットニーズが存在します。今回の結果は、罹病期間が長くなりがちなアトピー性皮膚炎患者さんに新たな希望をもたらす可能性があります。米国では、dupilumab は米国食品医薬品局(FDA)よりアトピー性皮膚炎に関して Breakthrough Therapy(画期的治療薬)の指定を受けています。当社は、規制当局への申請を今年第 3 四半期に予定しており、この革新的治療薬をできるだけ早く患者さんに届けるため取組んでいきます」

同一の試験デザインである SOLO 1 試 験 お よ び SOLO 2 試験には、中等症および重症アトピー性皮膚炎の成人患者、合計 1,379 人が登録されました。患者は、局所外用療法で十分にコントロールできなかった場合、あるいは局所外用療法が医学的に推奨されない場合に登録されました。

SOLO 1 試験および SOLO 2 試験では、dupilumab 300 mg 毎週投与群において、それぞれ 37%と36%の患者が、また dupilumab 300 mg 隔週投与群において、それぞれ 38%と 36%の患者が皮膚病変なし(IGA 0)またはほぼなし(IGA 1)を達成しました。プラセボ群では、それぞれ 10%と 8.5%でした(p<0.0001)。これは、米国における試験の主要評価項目でした。

両試験において、dupilumab 群においてより多く見られた有害事象は、注射部位反応(dupilumab 群で 10-20%、プラセボ群で 7-8%)、結膜炎(dupilumab 群で 7-12%、プラセボ群で 2%)でした。どちらの試験においても、患者の約 26%に試験組み入れ時点でアレルギー性結膜炎の既往がありました。注射部位反応による投与中止例はなく、結膜炎での投与中止が 1 例のみありました。

米国では 700 万~800 万人の成人、全世界の成人の 1~3%がアトピー性皮膚炎に罹患しています 4,5,6。医師 200 人に対する調査に基づき、米国では約 160 万人が中等症および重症と診断され、治療を受けながらも、コントロール不良な状態にあります 7。アトピー性皮膚炎患者の約 70%に、喘息や花粉症など、他のアトピー性疾患の家族歴があります 2,8。

 

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 (プレスリリースを除く引用部分の翻訳は当サイトによります。正確な翻訳を期していますが、正確性を保証するものではありません。)

(当サイトはいかなる治療法をも推奨するものではありません。また、当サイトに掲載されている情報を利用することにより発生したいかなる損害についても責任を負うものではありません。)

*1:ANDREW POLLACK. In Small Trials, 2 Drugs Go Far in Soothing Symptoms of Eczema and Psoriasis. The New York Times, JULY 9, 2014.

*2:Beck et al. Dupilumab Treatment in Adults with Moderate-to-Severe Atopic Dermatitis. The New England Journal of Medicine. 2014; 371:130-139.

*3:Hamilton et al. Dupilumab improves the molecular signature in skin of patients with moderate-to-severe atopic dermatitis. The Journal of Allergy and Clinical Immunology. December 2014. Volume 134, Issue 6, Pages 1293–1300.

*4:Masutaka Furue, Takafumi Kadono. New therapies for controlling atopic itch. The Journal of Dermatology Volume 42, Issue 9,  pages 847–850, September 2015.