アトピー覚書ブログ

成人型アトピー 脱ステ・脱保湿患者のブログ

成人型アトピー性皮膚炎の原因は?

ステロイド外用薬の登場

アトピー性皮膚炎は、昔は、子供の病気であり、大人になるまでに治るとされていました。しかし、最近は、大人になっても治らない成人型アトピー性皮膚炎が増えている、といわれています。

子供の場合は、四肢関節部の病変が典型的であるのに対し、成人の場合は、顔・首・胸などの上半身に皮疹が強い傾向があり、難治性とされています。

この成人型アトピー性皮膚炎(難治化アトピー性皮膚炎)の原因は、今のところわかっていません。

推測される原因としては、この数十年で増加したのだから、その間に生じた環境の変化が影響しているのであろう、と考えられています。例えば、次のような考えがあります。

  • 環境アレルゲン
  • 衛生仮説
  • 住環境の変化
  • 食生活の変化
  • 化学物質の氾濫
  • 社会的ストレス

ただ、いずれの考えも、因果関係を決定づける証拠はまだ出ていないようです。

 

私は、日本における成人型アトピー性皮膚炎の原因のひとつは、1953年に認可されたステロイド外用薬の副作用であると考えています。皮疹の治療に主としてステロイド外用薬が処方されるようになり、処方が増えるにつれて、ステロイドに誘発される皮膚炎を起こす患者が増えていったのではないかと思います。

 

次のグラフは、1960年代以降の、

  • ステロイド外用薬の生産量(折れ線グラフ)
  • 皮膚科外来における成人アトピー性皮膚炎患者の比率(棒グラフ)

を示したものです。両者が相関していることがわかります。また、この時期に、次々と新しいステロイド外用薬が発売されています。

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次のグラフは、 2007年-2008年に調査された、日本のアトピー性皮膚炎患者の年齢別分布です。ちなみに、ステロイド外用薬が認可された1953年生まれの人は、調査時点で54-55歳です。グラフからは、50代以降の患者数が極めて少ないことがわかると思います。乳幼児期にステロイド外用薬が存在しなかった世代です。

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ステロイド外用薬が原因なら、その認可後は、年齢に無差別で患者数が増えているはずだ、と思われるかもしれません。

その点、高齢者が少ない理由は、ステロイド外用薬を処方される機会が少ないからだと思います。皮膚科を訪れる高齢者は、老人性乾皮症など皮膚の乾燥症状が多く、主に保湿剤を処方されていると推測します。

また、小児から思春期にかけての患者が相対的に少ない理由は、一般的にアトピー性皮膚炎が次の図のような経過をたどるからだと思います。理由はわかりませんが、成長の段階で、ステロイド外用薬の使用・不使用にかかわらず、一時、寛解することが多いのです。

 

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 (九州大学医学部皮膚科学教室 | 医師の視点で考えるアトピー性皮膚炎 | アトピー性皮膚炎ってどんな病気?より

 

ステロイド誘発性皮膚炎

成人型アトピー性皮膚炎(難治化アトピー性皮膚炎)の原因がステロイド外用薬であると仮定したうえで、話を進めます。また、ここでは、ステロイド外用薬によって引き起こされる皮膚炎を、総じて「ステロイド誘発性皮膚炎」と呼ぶことにします。

酒さ様皮膚炎が、顔面へのステロイド外用薬の長期連用により引き起こされることが認められています。この酒さ様皮膚炎の範囲を全身にまで広げたものが、ステロイド誘発性皮膚炎であると考えてもよいと思います。

整理すると、成人型アトピー性皮膚炎は、アトピー性皮膚炎にステロイド誘発性皮膚炎が合併した状態です。したがって、成人型アトピー性皮膚炎の治療としては、原因が明白であるステロイド誘発性皮膚炎から治すことが合理的です。

そのためには、ステロイドの中止が必要です。そして、ステロイドからの離脱に成功し、ステロイド誘発性皮膚炎が消失すると、潜在していた本来のアトピー性皮膚炎が再び顕在化することになります。

 

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成人型アトピー性皮膚炎の経過フロー

 成人型アトピー性皮膚炎(難治化アトピー性皮膚炎)の経過を、大まかにフローチャートで表すと次のようになります。

 

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個人的には、オレンジ色で示された意思決定の分岐が、重要であると考えます。

  1. 乳幼児期にステロイド治療
  2. 脱ステロイド

この2つの意思決定について、考察を加えたいと思います。

1.乳幼児期にステロイド治療

乳幼児期に湿疹などの皮膚症状が生じたとき、ステロイド外用薬を使用するかどうかは、かなり重要な分岐点なのではないかと考えています。

まず、先に記したように、乳幼児期にステロイド外用薬が認可されていなかった世代、つまり乳幼児期にステロイドを使用する機会がなかった世代においては、アトピー性皮膚炎患者はほとんどみられないという事実があります。

次に、昔はアトピー性皮膚炎は大人になるまでに治っていた、つまりステロイド外用薬を使用せずとも治っていたのですから、ステロイド外用薬を使用しないで自然治癒を待つという選択があり得ます。ここで治癒してしまえば、最良の形です。

一方、ステロイド外用薬による治療を選択した場合、ステロイドからの離脱の問題が生じます。ここで、短期で離脱できれば良いのですが、皮疹が再発してしまうなど、なかなか離脱できない人たちが出てきます。

どのくらいの割合の患者が、ステロイドからの離脱に難渋することになるのでしょうか。半年間にわたるステロイド外用薬等による標準治療の実績を検討すると、治療後に症状が改善する人は、4割弱程度と見積もることができます。一方で、6割程度の人は治療後の症状に変化がないようです。この6割程度の患者のうち、一部が、現状維持のため、ステロイド外用薬を継続して使用せざるを得なくなり、離脱に難渋するのではないかと推測されます。

乳幼児期にステロイドから離脱できなかった場合、ステロイドによる治療が生活習慣となり、思春期においても治療が継続されるように思います。また、この時期は極度に悪化することが少ないため、治療の中止には至らないケースが多いと思われます。

すると、およそ20年後には「子供の頃からずっとステロイド外用薬を塗ってきた成人患者」となります。その患者がステロイド誘発性皮膚炎を発症した場合、ステロイドを長期・大量に使用してきたため、ステロイドからの離脱が大変に難しくなることは想像に難くありません。

 

ここまでは離脱に関する問題です。

離脱とは別の問題として、乳幼児の身体への実際的な影響があります。

第一に、ステロイド外用薬は、発達段階にある乳幼児の皮膚に使用すると、表皮細胞において、成人とは異なる影響を及ぼすという報告があります。

ステロイドは、乳児表皮に対して、成人表皮に対してはみられない、二つの作用がある、ということになります。

1)角化細胞数を減らします。

2)元々少ないランゲルハンス細胞の機能発現を抑え、アポトーシスさせます。*1

引用元のブログに詳しい解説がありますので、詳細はそちらをご参照ください。

第二に、内分泌系への影響についての仮説があります。

因果関係は証明されていませんが、幼児期のステロイド外用の既往と、成人アトピー性皮膚炎での抗利尿ホルモン(ADH)の分泌異常が、相関していたとする報告です。

ステロイド外用剤あるいは保湿剤からの離脱目的で当院へ入院した成人AD患者の口渇とADH分泌、血漿浸透圧を調べ、臨床所見や検査結果との関連を検討した。成人AD患者は血清Na濃度と血漿浸透圧は高値であるにもかかわらずADH分泌が異常に亢進していた。口渇はADH異常高値と関係があり、ADH異常高値は小学生以下でのステロイド外用の既往と強い関係のあることが分かった。*2

報告では、皮膚が視床下部と密接な連絡を持っていることが示唆されるので、ステロイド外用薬の子供への使用については慎重であるべきと指摘しています。

 

内服、外用を問わず、グルココルチコイドは、HPA系(視床下部-下垂体-副腎系)のネガティブフィードバック機構を通じてACTHやCRHの分泌を抑制しています。

他方、このHPA系は脳の海馬によってもネガティブフィードバックにより抑制されています。

一例として、乳児期にストレス環境におかれたラットでは、海馬において、ニューロンが損傷していたほか、グルココルチコイドレセプターが増加するなど、一生を通じて、副腎皮質系の変化が持続し海馬によるネガティブフィードバックの亢進が認められたとする研究があります*3

上記のような報告から、乳幼児期におけるステロイド外用薬の使用、すなわち外部からのグルココルチコイドの投与が、内分泌をかく乱し、未発達なHPA系に可塑的な変化を与えた、とは考えすぎでしょうか。

以上要するに、乳幼児期にステロイドから離脱できなかった場合に数十年後の離脱が困難になるリスクを負うのではないか、また、仮説の域を出ませんが、ステロイド外用により乳幼児の皮膚や内分泌系・大脳辺縁系などに可塑的な変化が生じて生涯にわたるリスクとなっているのではないか、ということです。

基本的に、薬理作用がはっきりと解明されていない薬を、成長段階の乳幼児に投与すること自体が、極めて重大な意思決定であると思います。

 

2.脱ステロイド

成人型アトピー性皮膚炎を発症した後では、いわゆる脱ステロイドを実践するかどうかの意思決定が重要となります。

先に記したとおり、成人型アトピー性皮膚炎を、アトピー性皮膚炎にステロイド誘発性皮膚炎が合併した状態と捉えると、まずステロイド誘発性皮膚炎を治癒させるため、ステロイドからの離脱が必要となります。

そして、この意思決定は、次のどちらかの状態に至る分岐点としても捉えることができます。

  • 脱ステロイドによりアトピー性皮膚炎のみの状態に戻る
  • ステロイドによりアトピー性皮膚炎およびステロイド誘発性皮膚炎を抑制し続ける

どちらを選択しても、今のところ完治には至りません。生涯にわたり、どちらかの疾患と向き合い続けることになります。どちらが正解であるとも言い切れず、個々の患者の状態にも左右されるので、生涯の Quality of Life を考えて意思決定をする、ということになるかと思います。

 

さて、脱ステロイドにおいて、過去のステロイド薬の使用が、短期・少量であれば、リバウンド症状が重症でない可能性が高くなり、改善率および脱ステロイド後の経過が良好で、ステロイドから離脱できる可能性も高くなると思われます。

一方、長期・大量使用していた場合は、リバウンド症状が重症であり、離脱症状も長引く傾向があるようです。脱ステロイドを行っても、リバウンド様の悪化を繰り返すことで、肉体的にも精神的にも疲弊し、ステロイドからの離脱を断念して、ステロイド使用を再開するケースもあります。

この脱ステロイドから標準治療に戻ったケースでは、生涯にわたり、大量のステロイド投与によって、免疫を抑制し、炎症を抑え続けることになるのかもしれません。この状態を、標準治療では「コントロール」と呼ぶようです。

 脱ステロイドで、リバウンドを経てやや改善し、しかしその後も肥厚した皮膚が続き、ステロイドを外用すれば落ち着くのだが、止めるとまた元に戻ってしまう、という方は、これまでは、「ステロイド皮膚症からは脱したが、もともとのアトピー性皮膚炎に戻っていて、それがなかなか治まらない状態」と解釈し、アレルゲンなど悪化因子探し・対策を勧めてきたのですが、実はそうではなく、表皮のステロイド産生能が低下した状態が回復していない状態、副腎で言うと萎縮した状態に当たるのかもしれません。

 もし、そうだとしたら、その状態をすぐに改善させることが出来るのは、残念ながら、ステロイドだけだということになります。アトピー性皮膚炎の治療というよりも、ステロイド産生に関して萎縮してしまった表皮に対する補充療法といった意味合いでもって、外部から供給するしかない、ということになります。 

 萎縮した副腎が、いつかは回復するように、ただただステロイドを断ち続けることで、表皮が回復する、ということももちろん期待できるはずだし、治癒を目指すためにはそうすべきですが、日々の生活を考えたとき、自分は一生ステロイドの補充療法で行こう(行くしかない)と患者が判断したとしても、必ずしも間違いではないと考えられます。*4

 

私の選択

私はステロイド(タクロリムス)誘発性皮膚炎を起こしたのち、脱ステロイド・脱タクロリムスにより、離脱に成功しました。比較的、短期・少量使用であったためと思われます。

その後は、ステロイド忌避を貫いています。私がステロイド治療を二度と受けたくない理由は、

  • 湿疹が1日で完全に消え去った強力な作用への恐怖
  • 徐々に効かなくなってきたときに感じた恐怖
  • 壮絶なリバウンド

などの経験があるからです。文字面だけでは伝わりませんが、とりわけリバウンドの経験が非常に大きいです。リバウンドだけは二度と経験したくありません。ですから、私にとってリバウンドが生じる可能性のあるステロイド治療は、選択肢となり得ません。

そして、通院費用や薬代がかかることもさることながら、毎日のように薬を塗ったり、依存やリバウンドの心配を常にしながら生活することは考えられません。

また、数十年ステロイドを使用していた人の中にも離脱を試みる人がいるという事実も大きいです。10年20年ステロイドを使用したのちに依存が生じ、離脱できなかった場合、治療法として免疫抑制剤の内服しか残されていないかもしれません。

現在の私は、ほぼステロイド誘発性皮膚炎が消失したと考えられるので、本来のアトピー性皮膚炎に対する悪化因子の除去を対策の中心に据えています。 

 

(参考文献)

佐藤健二(2015)『〈新版〉患者に学んだ成人型アトピー治療-難治化アトピー性皮膚炎の脱ステロイド・脱保湿療法』柘植書房新社.

(当サイトはいかなる治療法をも推奨するものではありません。また、当サイトに掲載されている情報を利用することにより発生したいかなる損害についても責任を負うものではありません。)

*1:アトピー性皮膚炎のステロイド外用剤離脱 乳児の第一選択はプロトピック?

*2:佐藤健二,駒谷麻衣子,橋本久仁彦,古賀正史「成人型アトピー性皮膚炎患者における高ナトリウム血症下での抗利尿ホルモン異常高値」皮膚臨床 44(13);1547-1551, 2002

*3:Meaney MJ et al. Effect of neonatal handling on age-related impairments associated with the hippocampus. Science. 1988 Feb 12;239(4841 Pt 1):766-8.

*4:アトピー性皮膚炎のステロイド外用剤離脱「ステロイド外用による表皮の萎縮が意味すること」