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アトピー覚書ブログ

成人型アトピー 脱ステ・脱保湿患者のブログ

アトピー性皮膚炎 原因のひとつは細菌の異常増殖か

メディア情報

今年4月、慶応義塾大学医学部皮膚科学教室と米国 National Institutes of Health との研究グループによる、黄色ブドウ球菌等と皮膚炎の関係についての論文が、米国科学雑誌「Immunity」で発表されました。

素直にこのような研究成果が現れたことを喜びたいと思います。

この研究のポイントは次の点にあると思います。

アトピー性皮膚炎などの皮膚炎をもつ患者の皮膚から、多数の黄色ブドウ球菌が検出されることは古くからよく知られていた。けれども、

  • 皮膚炎によって異常細菌巣(黄色ブドウ球菌等)が生じるのか
  • 異常細菌巣(黄色ブドウ球菌等)によって皮膚炎が生じるのか

どちらかわからないまま、鶏が先か卵が先かのような議論が長らく続いていた。それが、この研究によって、どうやら「異常細菌巣によって皮膚炎が起こるらしい」ことをデータで示したという点です。

 

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この論文発表は広くメディアで報道されました。この時、細かい点ですが、個人的に報道の中身について気になる点があったので記します。

予備知識として、報道の元になったプレスリリースのタイトルです。

  • 「アトピー性皮膚炎は皮膚の異常細菌巣が引き起こす」

そして、論文のタイトルです。

  • "Dysbiosis and Staphylococcus aureus Colonization Drives Inflammation in Atopic Dermatitis"(皮膚細菌巣バランスの破綻および黄色ブドウ球菌の定着がアトピー性皮膚炎の炎症の原因となる)

これらのタイトルを目にすると、普通に読めば、アトピー性皮膚炎の原因は異常細菌巣だと、文字通りに受け取ると思います。

けれども、それでは、いささか早合点ではないかと思うのです。

まず、研究ではヒトのアトピー性皮膚炎患者では実験を行っていません。マウスでの実験です。

本研究で、アトピー性皮膚炎マウスの皮膚炎は、偏った異常細菌巣によって起きることがわかりました。*1

このマウスは、ヒトのアトピー性皮膚炎に類似した症状を示すとされます。このマウスモデルを作成できたことも研究のポイントのひとつではありますが、当然ながらまったくヒトと同じであるわけではなく、論文では recapitulate という言葉で表現されています。

Dry skin, pruritus, elevated serum IgE, and naturally occurring dysbiosis in mice that lack Adam17 in Sox9-expressing tissues including epidermis recapitulate the most important aspects of human eczematous dermatitis and AD.

表皮を含むSox9発現組織でのAdam17欠損マウスにおける、乾燥肌、掻痒、血清IgEの上昇、自然発生的な皮膚細菌巣バランスの破綻は、ヒトの湿疹様皮膚炎とアトピー性皮膚炎のもっとも重要な特徴を再現していた。*2

ヒトのアトピー性皮膚炎と類似した症状を示すマウスの実験結果から、「ヒトでも同様であることが示唆される」ので、さらなる研究が期待されるわけです。

要するに、まだ道半ばです。論文の文章表現を見ると、マウスとヒトの記述はきちんと分けられていますし、断定的な表現は避けられています。

 

次に、皮膚細菌巣バランスの破綻がアトピー性皮膚炎を引き起こすことがあり得るとしても、それがアトピー性皮膚炎の原因のすべてではないということです。慶応義塾大学も原因のひとつであることを前提としています。例えば、他の原因としてフィラグリン遺伝子異常が挙げられます。ですから、皮膚細菌巣バランスの破綻は、「アトピー性皮膚炎の原因のひとつ」ということになります。

 

こうした予備知識を踏まえたうえで、ニュース報道に接すると、やや違和感が残ります。

アトピー性皮膚炎は、皮膚の表面で複数の細菌が異常に増えることで起きるという研究成果を、アメリカの国立衛生研究所と慶應大学などのグループが発表しました。アトピー性皮膚炎の根本的な治療法の開発につながると注目されます。*3

このニュースを聞くと、アトピー性皮膚炎患者の中には、とても素晴らしい進歩があったと興奮する人もいると思います。何しろ、長らく原因不明と言われてきた病気の原因がわかったというのですから。このあとにマウスの話が続くので、マウスの実験結果だということはわかるのですが、冒頭のインパクトが強く、ともかくアトピーの原因が解明されたというニュアンスが伝わってくるのです。

また、アトピー性皮膚炎が多因子疾患であるにもかかわらず、根本原因が突き止められたというニュアンスも伝わってきます。細かいようですが「原因のひとつ」であることを明示した方が良いと思います。さらに、「根本的な治療法」という完治を連想させる言葉はアトピー性皮膚炎にはそぐわないです。永尾先生も「新たな治療法」の開発につながる旨の発言をしています。

 

さらに、同ニュースは次のように続きます。

このため抗生物質を投与して細菌が増えないようにしたところ、マウスはアトピー性皮膚炎を発症しなくなり、逆に抗生物質の投与を止めると2週間ほどでアトピー性皮膚炎を発症したということです。

これを聞くと、細菌が原因であれば抗生物質で治療したら良いのではないか、と考えるアトピー性皮膚炎患者は大勢いると思います。

しかし、プレスリリースにもあるように、アトピー性皮膚炎の抗菌治療は確立していませんし、研究のように2種類の抗生物質を長期投与することは現実的ではありません。抗生物質を使わずに正常な細菌巣を誘導する方法の研究がまたれるわけで、ニュースではその旨の断りを入れるべきだったと思います。

 

以上、今回のニュースのように「アトピーの原因が解明された」云々というニュースが次から次へと出てくることには困ってしまいます。とくに、ニュースを見た人から、アトピーは何々で治るらしいよ、と気軽な感じでアドバイスを受けることがあります。そんなに単純な話ではない、と言いたくなります。

報道のタイミングが論文発表時点なのだから、抑制的にフィルターをかけた方が良いのではないでしょうか。とくに見出しについて。主張と事実の区別が曖昧です。科学・文化の記事でインパクトを与える必要があるとも思えません。

このように、報道での取り上げ方が少々気になる話題ではありましたが、皮膚の異常細菌巣を正常化する治療が開発されれば大きな前進ですし、ステロイド外用薬等に頼った現状を打破するためにも、この方面の研究がより一層進展してほしいと思います。

*1:慶応義塾大学プレスリリース「アトピー性皮膚炎は皮膚の異常細菌巣が引き起こす」2015年4月22日

*2:Kobayashi et al. Dysbiosis and Staphylococcus aureus Colonization Drives Inflammation in Atopic Dermatitis. 2015, Immunity 42, 756–766.

*3:アトピー性皮膚炎 原因は細菌の異常増殖か | NHK「かぶん」ブログ:NHK