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アトピー覚書ブログ

成人型アトピー 脱ステ・脱保湿患者のブログ

新生児に保湿剤でアトピー3割減

赤ちゃんの全身に毎日保湿剤

「新生児期からの保湿剤塗布によりアトピー性皮膚炎の発症リスクが3割以上低下する」との論文を、国立成育医療研究センターの研究グループが2014年10月に発表しました。

Horimukai K et al. Application of Moisturizer to Neonates Prevents Development of Atopic Dermatitis. Journal of Allergy & Clinical Immunology (11.248) Vol. 134, Issue 4, October 2014.

 メディアで頻繁に取り上げられたこのニュース、旧聞となりますが、個人的に感じたことを記したいと思います。

 

研究では、家族にアトピー性皮膚炎の既往がある新生児118人を、介入群59人と非介入群59人とに分け、生後1週から32週までの経過を追っています。

介入群には、保湿剤として2e(ドゥーエ)乳液を、毎日、全身に塗布するよう指導しています。そして、両群の新生児に対し、必要に応じて使用できるようにペトロリアム・ジェリー(日本でいうワセリン)を処方しています。

結果として、アトピー性皮膚炎を発症した新生児は、介入群では19人、非介入群では28人でした。介入群の方が約3割少なかったのです。

なお、この研究では、アトピー性皮膚炎を「4週間以上続く典型部位の掻痒のある湿疹」と定義しています。また、乳児湿疹を「2週間以上続く典型部位の掻痒のある湿疹」と定義しています。評価にあたり、アトピー性皮膚炎のなかに乳児湿疹を含めています。介入群での保湿剤使用量は1日平均7.86gです。

 

保湿剤のおかげで、めでたしめでたし、という感じなのですが、個人的には、ちょっと首を傾げました。

研究結果の詳細を図にすると、以下のようになります。丸1つで赤ちゃん1人です。

f:id:atopysan:20150731010713p:plain

率直に言うと、毎日全身に32週間塗っても、3割しか減らなかったのか、と思いました。

さらに穿った見方をすると、アトピー性皮膚炎以外の皮膚病変を含めた発症率(図の色のついた丸)、つまり、皮膚トラブルは2割しか減っていません。

  • 皮膚病変(アトピー性皮膚炎のみ)の発症率
     介入群32.2% 非介入群47.5% →32.1%減
  • 皮膚病変(アトピー性皮膚炎以外を含む)の発症率
     介入群50.8% 非介入群64.4% →21.1%減

例えば、インフルエンザワクチンの摂取を検討しているとして、摂取した場合にはインフルエンザの発症率が3割低下します、と聞いて、注射を打つ気になるでしょうか。

また、

  • 32週以降はいつまで塗り続けるのか
  • 32週以降の発症率に変化はあるのか
  • 季節により塗り方をどう変えるのか
  • 保湿剤として2e乳液を使用した根拠は

などの疑問も残ります。

 

ともあれ、個人的には、「保湿剤でアトピー3割減」というお題目よりも、論文での次の記述が、より重要なポイントではないかと思います。

Collectively, these findings indicate that the presence of eczematous skin, rather than a lack of emollient use, induces or promotes sensitization to allergens, such as egg white, during the first 8 months of life.

まとめると、これらの発見(訳者注:皮膚病変のある乳児はアレルゲン感作のリスクが高いことなど)は、人生の最初の8か月間においては、保湿剤を使用しないことよりも、湿疹のある皮膚の存在が、卵白のようなアレルゲンへの感作を引き起こしたり促進していることを示している。

赤ちゃんの皮膚に湿疹があると、そこからアレルゲンが侵入してきてしまうので、保湿剤で皮膚を保護しましょう、という理屈です。経皮感作による食物アレルギーの問題は、茶のしずく石鹸の回収事件でもクローズアップされました。

保湿剤を塗ることも大切だと思いますが、皮膚バリアをいかに保護するかという本質的なテーマがより重要なのではないかと思います。

国立成育医療研究センターの大矢幸弘アレルギー科医長は、研究報告の会見で、「保湿剤だけでは皮膚バリア機能を完璧に保つことができない」と話しているようです。プレスリリースでは、次のような課題を提示しています。

今回の検討において保湿剤は皮膚乾燥を防ぎアトピー性皮膚炎の発症を防ぐことが示されましたが、一度アトピー性皮膚炎になると保湿剤を塗るだけではIgE 抗体の産生を防ぐことはできませんでした
これまでの成果を総合すると、アトピー性皮膚炎から他のアレルギー疾患の発症を防ぐためには、保湿剤だけでは不十分で、皮膚炎症を抑え免疫細胞の突起を引っ込めさせる必要があると想定されます。*1

まだまだ研究の余地はあるようですから、引き続き研究を進めていただきたいと思います。

 

汗腺機能への影響は?

ところで、保湿剤を塗った方が良いという考え方については、さまざまな研究がなされており、それが有効であるという意見は、おそらく正しいのでしょう。

ただ、一方で、保湿剤を塗りましょうと言っているのは、製薬会社・化粧品会社と皮膚科医くらいのものではないか、とも思ったりします。そうした立場の人たちからは、保湿剤のベネフィットの話しか出てきません。

 

成人や高齢者が乾燥対策として保湿剤を使うことには、抵抗は感じません。一方で、赤ちゃんの全身に毎日保湿剤を塗るという行為は、とても不自然なことをしているように思えます。羊水に守られた胎内から、乾燥した外界へ生まれ出た赤ちゃんを、ふたたび羊水に戻しているような感覚です。

赤ちゃんは、出生直後から、ひとりで呼吸を始めます。その姿は、外界に必死に適応しているようにみえます。皮膚全体を覆ってしまうことは、その外界への適応能力を奪ってしまうことにつながりはしないか、という素朴な疑問をもってしまうのです。

 

たとえば、外界への適応の例として、汗腺の機能の発達が阻害される可能性はないのでしょうか。

ヒトの汗腺(エクリン腺)は全身に存在し、汗を分泌する能動汗腺と、汗を分泌しない不能汗腺があります。汗をかく能力の獲得、つまり汗腺の能動化は、胎児期28週頃から生後2年半ぐらいまでであり、その後は生涯を通じて能動汗腺の数は変わらないといわれています。*2*3

その2歳半までの大切な時期に、汗腺を保湿剤で覆ってしまうことで、発汗能力ひいては体温調節能力の成長が阻害されることはないのでしょうか。

そして、発汗能力に乏しいことが、アトピー性皮膚炎の発症に関与しているのではないかという指摘もあります。

エックリン汗腺の能動化は胎生28週に始まり生後2年半に完了するため、乳幼児期の発汗機能は未熟です。この期間は乳幼児期におけるアトピー性皮膚炎の有病率の高い時期でもあります。2歳半までは皮膚の恒常性維持に必要な発汗量の得られない事が、アトピー性皮膚炎の病態形成に関与するのではないかと想像されます。*4

保湿剤を塗布することにより、アトピー発症率を3割減らすベネフィットをとるのか、あるいは、保湿剤を塗布しないことにより、汗腺機能の発達を阻害するリスクを回避するのか、両面の問題があるように思います。

今回のメディアでの報道を見て、赤ちゃんに保湿剤を全身にベタベタ塗り始める前に、一度立ち止まって考える価値があるように思います。

 

(引用部分の翻訳および赤字による強調表示は当サイトによります。正確な翻訳を期していますが、正確性を保証するものではありません。)

(当サイトはいかなる治療法をも推奨するものではありません。また、当サイトに掲載されている情報を利用することにより発生したいかなる損害についても責任を負うものではありません。)

*1:独立行政法人国立成育医療研究センター プレスリリース「世界初・アレルギー疾患の発症予防法を発見」より

*2:Kuno Yas.(1956). Human perspiration. Thomas.

*3:小川徳雄監修「汗をかく」Savemation Apr.2000 2-6

*4:室田浩之(2014)「アトピー性皮膚炎悪化因子対策:汗と温度に関する最近の知見」第44回和歌山県皮膚科医会学術講演会