アトピー覚書ブログ

成人型アトピー 脱ステ・脱保湿患者のブログ

プロアクティブ療法はいつまで続ければよいのか?

プロアクティブ療法とは

最近注目されているステロイド外用薬およびタクロリムス軟膏の治療法に、プロアクティブ療法があります。ヨーロッパやアメリカのアトピー性皮膚炎ガイドラインで推奨されています*1*2

従来のような、皮疹が悪化するたびに外用薬を使用する方法は、対照的にリアクティブ療法と呼ばれます。それでは、リアクティブ療法とプロアクティブ療法とでは何が異なるのでしょうか。

プロアクティブ療法の第一人者であるドイツの Wollenberg 氏は、プロアクティブ療法を次のように定義しています。

long-term, low-dose intermittent application of anti-inflammatory therapy to the previously affected skin together with daily application of emollients to unaffected areas.
皮膚病変のあった部位への長期・低用量・間欠的外用による抗炎症療法であり、皮膚病変のない部位への毎日の保湿剤外用を併用するもの.*3

悪化した皮膚病変が落ち着いた後の維持寛解期において、長期・低用量・間欠的に抗炎症薬を外用する療法ということです。間欠塗布の頻度は、通常週2回とされています。まとめると、プロアクティブ療法での外用方法は次のようになります。

  • ステロイド外用薬またはタクロリムス軟膏 通常週2回
  • 保湿剤 毎日

ただし、軽症の場合は、保湿剤外用とリアクティブ療法で十分であり、中等症から重症の患者がプロアクティブ療法を選択する、とのことです。

皮疹が再発した場合は、抗炎症薬を毎日外用して炎症を抑えた後、再び週2回の外用に戻ります。

参考までに、アメリカ皮膚科学会のアトピー性皮膚炎ガイドラインでの用量は次の通りです。

  • ステロイド外用薬 週1-2回
  • カルシニューリン阻害外用薬(タクロリムス軟膏) 週2-3回

 

なぜプロアクティブ療法を取り入れるのか

悪化するたびに外用薬を塗るリアクティブ療法は、短期でのベネフィットは良く知られています。けれども、長期寛解に至るのは難しい。そのため、長期的に炎症を予防しスキンバリアを安定させるための治療が必要だというわけです。

率直に言えば、悪化の都度ステロイド外用薬を塗ってもほどなく再発してしまうので、長期的に週2回塗り続けて再発を防ごうという意図があります。

recurrences are the rule with this strategy, and a long term control of the recurrent flares seems nowadays a more important goal than the treatment of acute flares.

この戦略(訳者注:リアクティブ療法)では、再発は慣例である。再発する炎症の長期にわたるコントロールは、今日、急性の炎症治療よりも重要な目標のように思われる。*4

皮疹が治まった後も継続して薬を塗ることには抵抗があるかもしれませんが、Wollenberg 氏は、アトピー性皮膚炎患者では、皮膚に病変がなく正常に見えても、正常ではなく、バリア異常やわずかな炎症が起きている、と説明しています。

その根拠は、次のような現象が観察されていることです。

  • 角質層のTEWL(経表皮水分蒸散量)の増加
  • 脂質二重層での長鎖脂肪酸の留分の減少
  • 小静脈の活性化と軽度のリンパ球浸潤
  • 表皮ランゲルハンス細胞の表面における高親和性IgE受容体の密集

治っているように見えても、潜在的には炎症が起きているので、外用薬を塗り続けることで再発を遅らせることができる、というわけです。

プロアクティブ療法はいつまで続ければよいのか

以上から、プロアクティブ療法の有用性については理解できます。しかし、ここで、ひとつの疑問がわいてきます。週2回の外用をいつまで続ければよいのか、ということです。

Wollenberg 氏は、次のように述べています。

中等症の患者さんは半年間継続してから中断を試みるべきでしょう。
重症の患者さんは約2年間プロアクティブ療法を行ってくださいとアドバイスしています。*5

しかし、中断できなかった場合は、どうするのでしょう。再びプロアクティブ療法を続けるということなのでしょうか。その点の詳細について説明はありません。

そこで、論文における次の記述がヒントになるかもしれません。

AD is a chronic skin disease, which requires permanent treatment.

アトピー性皮膚炎は慢性の皮膚疾患で、永久的な治療を必要とする。*6

永久的な治療、すなわち、一生プロアクティブ療法を続けることも念頭におかれているとは、穿った見方でしょうか。再発はあっても、寛解維持期間が長ければ、生涯の Quality of Life は高い、ということかもしれません。

また、日本のアトピー性皮膚炎診療ガイドライン(2009)の作成委員長である九州大学大学院皮膚科・古江増隆教授は、プロアクティブ療法について、次のように述べています。

特に全身に皮疹があった患者さんは、全身の病変として、ステロイドを全身に塗っていくことが大切です。そうするとステロイドの使用量が大変なことになると思われますが、1週間、全身に塗ったら、その後は1日おきにして、1ヵ月ほど再発がなければ1週間に2回全身に塗るようにする。こうすれば、一生ステロイドを塗り続けたとしても副作用が起こることはあり得ません*7

この発言においても、プロアクティブ療法は一生続けられる治療として想定されています。なお、赤字部分についてのエビデンスは示されていません。

 

日本におけるプロアクティブ療法

日本のアトピー性皮膚炎診療ガイドライン(2009)では、プロアクティブ療法は紹介のみに留められていますが、次回の改訂で寛解維持療法の柱として提唱されることが予想されます。現在、標準治療において推奨されているからです。

標準治療におけるプロアクティブ療法は次の図のようなものです。

 

f:id:atopysan:20150702144852j:plain

プロアクティブ治療 | 医師の視点で考えるアトピー性皮膚炎 | アトピー性皮膚炎ってどんな病気? より

そして、次のように解説されています。

プロアクティブ治療で重要なことは、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏を毎日外用して十分に良くなった後も隔日外用し、再発がなければ週2回外用、週1回外用と、ゆっくり減らしていくことです。 

ここでも、ひとつの疑問が生じます。それは、「減らしていく」という概念が入っていることです。これまで見てきた欧米のような、予防的に長期間外用して続発する炎症や再発を防ぐ、という考え方とは異なります。再発の有無に関わらず long-term で治療する方法のはずです。例えば、Wollenberg 氏は、重症であれば週2回外用を2年間続けるべきと助言しています。

外用を減らしていくと目に見えない炎症が再発してしまうので、再発しないように積極的に週2回外用することが、プロアクティブ療法で重要なことではないのでしょうか。

憶測ですが、ステロイドを怖がる患者への対策として、「減らしていく」という言葉を使っているのかもしれません。

いずれにせよ、ガイドラインの次回改訂で、「いつまで続ければよいのか」について、どのように記述されるかを注視したいと思います。

※2016年2月、ガイドラインが改訂されました。

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版を読む - アトピー覚書

 

個人的な見解

私はいわゆる脱ステ・脱プロ・脱保湿を完了しているので、プロアクティブ療法とは無縁なのですが、この療法には抵抗を覚えます。

なぜなら、この療法は、炎症の再発および長期連用を前提としているからです。低用量・間欠的であっても、炎症の再発までの期間が長くなるだけで、再発を完全に防げるわけではありません。また、長期連用後の再発ではリバウンド現象も生じるかもしれません。

Wollenberg 氏の論文では、プロアクティブ療法の最長試験期間は、ステロイド外用薬で20週間、タクロリムス軟膏で12か月間でした。それよりも長い期間では何が起こるのかわからないところも不安要素です。

ステロイド外用薬等の使用者のうち、リアクティブ療法で数十年にわたり深刻な副作用が出ていない人であれば、プロアクティブ療法で高い quality of life が得られるのかもしれません。

他方、ステロイド外用薬等による長期治療が有効ではないタイプの患者、たとえば、過去にリバウンド歴があるなど、依存性・抵抗性が起こり得る患者に対しては、適応とはならないように思います。

いずれにせよ、皮膚科医がプロアクティブ療法を患者に勧める場合は、週の外用回数と皮疹悪化時の対応、外用期間と減量方法をきちんと説明することはもちろんですが、そのうえで、治療を選択する患者の自己決定権を尊重していただきたいものです。

 

(引用部分の翻訳および赤字による強調表示は当サイトによります。正確な翻訳を期していますが、正確性を保証するものではありません。)

 (当サイトはいかなる治療法をも推奨するものではありません。また、当サイトに掲載されている情報を利用することにより発生したいかなる損害についても責任を負うものではありません。)

*1:Guideline on the Treatment of Atopic Eczema (Atopic Dermatitis)
Developed by the Guideline Subcommittee “Atopic Eczema” of the European Dermatology Forum.

*2:Sidbury et al. Guidelines of care for the management of atopic dermatitis Section 4. Prevention of disease flares and use of adjunctive therapies and approaches. J AM ACAD DERMATOL. December 2014 Volume 71, Issue 6, Pages 1218–1233

*3:Andreas Wollenberg et al. Proactive therapy of atopic dermatitis – an emerging concept. Allergy 2009: 64: 276–278.

*4:Andreas Wollenberg et al. Long Term Treatment Concepts and Proactive Therapy for Atopic Eczema.Ann Dermatol Vol. 24, No. 3, 2012.

*5:Prof.Wollenbergに聞く!アトピー性皮膚炎の寛解維持期における治療戦略 | プロトピック軟膏スペシャルページ | マルホ株式会社

*6:Andreas Wollenberg et al. Long Term Treatment Concepts and Proactive Therapy for Atopic Eczema.Ann Dermatol Vol. 24, No. 3, 2012.

*7:【第6回】古江 増隆 先生|アトピー対談|アトピー性皮膚炎ドットコム ノバルティスファーマ株式会社