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ステロイド外用薬の副作用(7:ステロイド抵抗性)

「ステロイド依存」と「ステロイド抵抗性」

ステロイド外用薬の副作用のうち、ステロイド依存(steroid addiction)と似たものに、ステロイド抵抗性(steroid resistance)があります。両者ともに、ステロイド外用薬を長期連用しているうちに効きが悪くなる現象をさしますが、厳密には異なる概念のようです。

患者にとってもわかりにくいステロイド抵抗性について、調べたことを覚書としてまとめました(ステロイド依存については、過去の記事に記しています)。

 

まず、抵抗性 resistance の基本的な意味についてです。resistance は耐性とも訳されています。

薬剤耐性(やくざいたいせい、あるいは単に耐性、drug resistance)とは、生物が、自分に対して何らかの作用を持った薬剤に対して抵抗性を持ち、これらの薬剤が効かない、あるいは効きにくくなる現象のこと。*1

では、ステロイドにおいて、依存と抵抗性との違いは何でしょうか。これについては、深谷元継医師の解説がわかりやすいので引用します。

ステロイド依存は、外用剤を塗り始めた最初のうちは湿疹がよく治まっていたのが、長期連用によって表皮バリアが破綻し、軽微な刺激ですぐに皮疹が悪化するようになり、中止してみるとリバウンドに見舞われるというものです。Cork先生の説でよく理解できます。これに対して、ステロイド抵抗性というのは、純粋にステロイド外用剤の効きが悪い(悪くなる)現象を言います。*2

ステロイド依存は、長期連用によるステロイド中止後の悪化が特徴であるのに対し、ステロイド抵抗性は、長期連用により皮膚が薬に対する何らかの抵抗性を獲得して使用中の利きが悪くなる現象、ということのようです。

Resistance, Tachyphylaxis, Torelance, Insensitivity

さらに調べてみると、ステロイド外用薬の効きが悪くなる現象については、Resistance の他にもいくつかの言葉が混在しています。

  • resistance 抵抗性、耐性
  • tachyphylaxis(acute tolerance) タキフィラキシー、速成耐性
  • tolerance 耐性
  • insensitivity 非感受性

これらの言葉が表す現象について、もう少し詳しく見ていきます。

 

まずは、抵抗性 resistance という言葉が、どのような現象に対して使用されているかみてみます。

This would suggest that localized resistance to GCs within the diseased skin may be part of the aetiopathogenesis of severe AD.

これは、皮膚患部におけるグルココルチコイドへの局所的な抵抗性が、重症アトピー性皮膚炎の原因の一部になっている可能性を示唆している*3

この研究は、ステロイド外用薬に反応を示さなくなった重症アトピー性皮膚炎患者を前にして、抵抗性 resistance が存在しているのではないかとして、その抵抗性が、全身性のものか皮膚患部に特有のものかを確かめようと試みたものです。

結論としては、重症患者において視床下部ー下垂体ー副腎系が抑制されていたことから、ステロイド治療に対する臨床反応は欠くものの、全身性の抵抗性獲得を有意に除外するもので、皮膚患部における局所的な抵抗性が重症化の一因であることが示唆されるとしています。

 

次に、Tachyphylaxis タキフィラキシーです。

タキフィラキシー (tachyphylaxis) とは脱感作のうち、特に急性のもの。薬剤の反復投与により薬剤が急速に効果を失う場合がある。*4

このように、タキフィラキシーは急速な効果減弱という意味をもつため、ステロイド長期連用の例では適切ではないという指摘もあります。

では、タキフィラキシーはどのように認識されているでしょうか。アメリカ皮膚科学会のアトピー性皮膚炎ガイドライン(2014)では、ステロイド外用薬の副作用の項で言及されています。

Development of tachyphylaxis is of concern for some practitioners, where the efficacy is thought to decrease with repeated use of the same agent, although data are lacking to suggest that this is a significant clinical problem.

タキフィラキシーの進行は、重要な臨床上の問題だということを示唆するデータは不足しているものの、一部の医師にとって心配の種であり、同じ薬剤を繰り返し使用することによる効果の減弱と考えられている*5

この言い回しからは、アメリカ皮膚科学会はタキフィラキシーについてあまり言及したくないけれども、無視はできない、という印象を受けます。日本は無視していますけれども。

 

次に、耐性 Tolerance です。

耐性(たいせい、drug tolerance、あるいは寛容とも)とは、疾病の治療に用いられる医薬品などを反復して投与するうちに、投与されたヒトや動物が抵抗性を獲得して効力が低下していく現象のこと。*6

Tolerance のうち急性のものが Tachyphylaxis とされます。resistance との違いは、反復投与というところがポイントのようです。

では、Tolerance がどのような現象の記述に使われているかをみてみます。

In these initial phases of the addictive process, the corticosteroids were  usually effective, and patients felt relief for weeks to months. As time passed, however, many patients required systemic corticosteroids at more frequent intervals, some every 6 to 10 weeks. Daily topical treatment only maintained tolerance of symptoms and mild diminution of the rash. Patients complained that corticosteroids “were not working anymore.”

依存過程の初期段階では、大抵コルチコステロイドは有効で、数週間から数か月の間は患者は安心を覚えていた。しかし、時間が経つにつれ、多くの患者がより頻回にわたるコルチコステロイドの全身投与を必要とし、一部では6週から10週毎に必要だった。毎日の外用治療は症状の耐性を持続させるだけで、皮疹の減少はわずかだった。患者は、コルチコステロイドは「もう効かない」と訴えた。*7

この記述からは、最初のうちはステロイドは効いているけれども、だんだんと効かなくなり、耐性 tolerance が生じて皮疹が治りにくくなっている状況がよくわかります。

次は、非感受性 Insensitivity です。「ステロイド感受性ネフローゼ症候群 Steroid-sensitive nephrotic syndrome」や「ステロイド非感受性喘息 steroid-insensitive asthma」など形容詞の形でも使われます。

insensitiveの使用例です。

Expression of GRβ is increased during topical corticosteroid treatment in the lymphocytes of patients with AD and, in particular, glucocorticoid-insensitive AD is associated with increased expression of GRβ.

アトピー性皮膚炎患者のリンパ球において、グルココルチコイドレセプターβの発現はコルチコステロイド外用薬治療の間に増加した。特に、グルココルチコイド非感受性アトピー性皮膚炎は、グルココルチコイドレセプターβの発現の増加と関連していた。*8

 

以上見てきましたが、英語ではそれぞれの言葉が異なる概念を表していても、英語から日本語への訳し方の問題もあり、様々な訳語が入り乱れています。このあたりは研究が進んで用語の整理がなされることを待つ方がよいのかもしれません。

なお、深谷元継医師のブログには、これらの言葉について、図を用いたわかりやすい説明があります。

ステロイド抵抗性のメカニズム

では、ステロイド抵抗性はどのようにして起こるのでしょうか。

残念ながら、まだメカニズムは完全に解明されていないようです。しかし、次の可能性が指摘されています。

 

日本における“ステロイド抵抗性”

これまで見てきたように、ステロイド抵抗性については、さまざまな研究や報告がなされています。しかし、日本のアトピー性皮膚炎の標準治療では、その存在を否定するような主張がなされています。

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 (九州大学医学部皮膚科学教室「アトピー性皮膚炎についていっしょに考えましょう。」より

このように主張することは、海外と比較して自らの臨床能力が乏しいことを宣言しているようで損だと思うのですが、いかがなものでしょうか。

ただ、ステロイド抵抗性は、ステロイド外用薬の長期連用により生じるとされます。たとえば、私の場合は、ステロイド外用薬が効かなくなることを感じ始めたのは、少なくとも外用開始6か月以降だったと記憶しています。

そのため、初診でステロイド外用薬を処方した後フォローをしていない開業医や、入院期間が1~2か月以内でその間ずっとステロイドを大量投与されている患者を診ているような病院勤務医であれば、本当に「ステロイド外用薬が効かなくなる」患者をみたことがないのかもしれません。

ステロイド外用薬の安全性と有効性を確立するという意味でも、ステロイド抵抗性やステロイド依存の存在が然るべく認められ、国内での研究が推進されることを望みます。

(引用部分の翻訳および赤字・青字の強調表示は当サイトによります。正確な翻訳を期していますが、正確性を保証するものではありません。)

*1:「薬剤耐性」(2014年8月10日 (日) 11:46 UTCの版)『ウィキペディア日本語版』

*2:steroid-withdrawal.weebly.com 「塗ってもきかない」― ステロイド抵抗性

*3:Julie A. Ellison,et al. Hypothalamic-Pituitary-Adrenal Function and Glucocorticoid Sensitivity in Atopic Dermatitis. PEDIATRICS, Vol. 105 No. 4 April 1, 2000. 794 -799.

*4:「タキフィラキシー」(2014年11月1日 (土) 14:49 UTCの版)『ウィキペディア日本語版』

*5:Eichenfield et al. Guidelines of care for the management of atopic dermatitis Section 2. Management and treatment of atopic dermatitis with topical therapies. Journal of the American Academy of Dermatology. Volume 71, Issue 1, July 2014, Pages 116–132

*6:「耐性 (薬理学)」(2015年3月23日 (月) 07:08 UTCの版)『ウィキペディア日本語版』

*7:Marvin J Rapaport, MD, Mark Lebwohl, MD.Corticosteroid Addiction and Withdrawal in the Atopic: The Red Burning Skin Syndrome.Clinics in Dermatology, 2003;21:201–214.

*8:Hägg et al.Increased expression of glucocorticoid receptor β in lymphocytes of patients with severe atopic dermatitis unresponsive to topical corticosteroid.British Journal of Dermatology,2010 162, pp318–324.